【今回の記事】

【記事の概要】
 妻の背中などを数回蹴ったとして、北海道新十津川町に住む中学校教諭の男(34)が暴行の現行犯で逮捕されました。
 警察によりますと、男は202038日午後6時ごろ、自宅で、30代の妻の太ももを蹴り、痛みで(妻が)うずくまったところ、さらに背中を数回蹴った疑いが持たれています。
 調べに男は「妻が子ども(4歳未満)ばかりかまって、俺をかまってくれず、腹が立って蹴った」と容疑を認めています。
 
【感想】
 妻が幼い我が子の世話で忙しく、出産前のように自分にかまってくれなくなったことに腹を立てて暴行を働いた夫。
 世の中には、このような“家庭内自分ファースト”とも言うべき夫の存在が時々見られるようです。
 精神科医の岡田尊司氏も、自身の著書「夫婦という病〜夫を愛せない妻たち〜」(河出書房新社)の中で、このような夫を「自己愛夫」と呼び、その事例を分析しています。


 以下にその事例を紹介します。
 
事例の概要(文献を基に記述)
 夫Aの幼少期、Aの母親の関心は幼い頃から家の跡継ぎであるAの兄に向けられていた。するとAは、いつの日か自己愛(自分を大切に思う気持ち)をいびつに肥大化させ、過剰な自信を抱き周囲を見下す人間に育ってしまった。Aは、結婚し妻となったBさんに対しても「こんな飯が食えるか!」等と罵り、常に自分の不満をぶつけ罵倒した。
 一方妻のBさんは、幼い頃から母親が精神的に不安定で、大人に相談するようなことまで打ち明けられて、嘆いたり不満をぶつけたりされていた。大人になり、そんな母親から逃げ出すようにAさんと結婚したBさんは、不安定な家庭で育った自分自身に後ろめたさを感じていたため、夫に対しても服従するようになった。しかし、その後我が子が不登校になった頃から、「自分の人生はどこで狂ってしまったのか?」という思いに駆られるようになった。すると、今まで何のために夫に従ってきたのか分からなくなり、急に夫という人間の欠点や男性としての魅力の無さばかりが目に付き、反発や嫌悪感を覚えるようになってしまった。今では、自分を女として愛してくれる男性と出会い、失われてしまった月日を取り戻したいと考えるようにまでなっている。
 
この夫婦に潜んでいた“愛着不全”や“自己愛”
 岡田氏によれば、この事例は、思いやりに欠け、妻を自分の所有物のように扱うだけの「回避型」タイプであった夫VS母親による歪んだ養育を受けたために、自分に自信を持てず、人一倍他人の愛情を求めようとする「不安型」愛着不全タイプとなった妻という構図と指摘されています。因みに、このような「回避型」夫と「不安型」妻との事例は、以前のブログ記事(「なぜ離婚する夫婦が多いのか?~そのカギは愛着スタイルの違いが握っていた~」)でも紹介していますが、この両タイプの相性はある意味かなり厳しいものがあります。ご参照ください。
 
 しかし、この事例の場合、それ以外に見落とすことのできないポイントがあったと岡田氏は指摘しています。それが「自己愛」と言う考え方です。
 夫Aの母親は、幼い頃から家の跡継ぎである兄に関心を向け、Aに愛情を注いできませんでした。この中で、健全な自己愛の育成に必要とされる「称揚(褒める)」や「共感」の行為が不足した結果、A自身がそれを本能的に補うかのように自分の存在価値を強引に引き上げようとして、歪んだ自己愛人間になってしまったのです。その結果、妻となったBさんを「自分よりも格下」と思い込み、罵倒し続けるようになってしまったのです。
 因みに、本来自己愛は、自分を大切にするために必要な能力であり、それが親からの愛情を受けながら正常に成熟することで、自己肯定感が育まれるとともに、人を敬う気持ちや、志を成し遂げようとする力も生まれるとされています。
 
幼少期の養育が夫婦関係に与える影響
 これまでに登場した「回避型」タイプや歪んだ自己愛(本来は性別は関係無し)は、幼少期に、「称揚」や「共感」等を含む「安心7支援」を通して子どもを受容し安心感を与える“母性”が弱かったために生まれるものです。また、「不安型」タイプは、母性が歪み子どもとの距離が近すぎた(=「見守り4支援」を通して子どもと適切な距離をおきながら子どもを見守り自立を促す“父性”が弱すぎた)ために生まれるものです。
 いずれも幼少期の親の養育が要因になっているものであり、幼少期の養育が、いかに成人後の夫婦関係に影響を与えるかが分かります。
 
夫婦関係が貧困問題に与える影響
 さて、厚生労働省は、一人親世帯になった理由の時代別の推移について、以下のように報告しています。
 
 この中で注目すべきは、「離婚」が理由である世帯の割合です。昭和58年には母子家庭・父子家庭、共に50%前後であったものが、年を重ねるごとに高くなり、既に平成15年には80%前後にまで達しています。20年間で30ポイントも増加しているのです。
 
 また、各世帯の平成28年時の平均年収について見てみると、共働き家庭が649万円であるのに対して、父子家庭が420万円、母子家庭が243万円と、極端な落ち込みが見られます。
 
 これらのことから、貧困家庭の問題が、夫婦関係の問題と大きく関わっていることが分かります。すなわち、幼少期の親による養育が、ひいては、成人し結婚した我が子を貧困に陥らせる可能性があるのです。

 今もなお、パートナーの方の人格に苦しんでいる方がいらっしゃるかも知れません。幼少期から長い年月が経っているので、今から改善するのは容易なことではないとは思いますが、愛着は後天性のものなので、愛着不全や歪んだ自己愛それぞれに欠落していた要因を根気よく補うことである程度はやり直しが効くかも知れません。
 また、これから子ども達を養育する立場にある方や、身近にそういう方がいらっしゃる方がいれば、ぜひその子のために、この愛着の考え方を活かして頂ければ、私としてはこれ以上嬉しいことはありません。