【今回の記事】

【記事の概要】
 子育の悩みの種は尽きないもの。食事を嫌がったり、オムツがなかなか外れなかったり…。まじめなお母さんほど焦ってしまうもの。どうすればストレス少なく対処できるでしょうか? 本連載では、保育歴60年のベテラン保育士・大川繁子氏の著書『92歳の現役保育士が伝えたい親子で幸せになる子育て』(実務教育出版)より一部を抜粋し、大人も子どもも幸せにする子育てのコツを紹介します。

相談①》
 とにかく食べない。好き嫌いが多い。食べさせようとすると「イヤ」と手ではらう…。スムーズに食事ができなくて、ストレスです。

食事を嫌がっても強制せず、子どもに委ねて
「食べなさい!」と叱ったり口に突っ込んだりするのは、ちょっと待って。そんな躍起になる必要はありません。
「こちらに置いておくからね、食べたくなったらめしあがれ」
私なら、ただそう伝えます。そしてあんまり構わない。あとは本人に任せて待ちます。食べることは、強制すればするほど、どんどん嫌いになってしまいますから。

食事は毎日のこと、あまり神経質にならないで
 どうしてもちゃんと食べてほしいのであれば…そうですね、できる工夫としては、食事の準備を手伝ってもらうくらいでしょうか。お茶碗を並べてもらったり、フォークを用意してもらったり。それに対して親は、「ありがとう」と感謝を伝える。「ママがよろこんでくれた(貢献できた)」ってうれしくなって、うまいこと気分が乗れば、自分もたずさわった食事に参加してみようかと思ってくれますよ(もちろんそうでないときも多いですが)。

 また、食事関連だと「お味噌汁の中にごはんを入れてしまう」「食べ物で遊ぶ」といった相談も多いのですが、それくらいなら私は放っておくかな。きっとなにか実験しているのね、食べることに興味を持ったのかしらってプラスに捉えます。サラサラして食べやすいぞ、と気づいたのかもしれませんしね。


 とはいえマナーも気になるでしょうから、一応、「ママは入れないほうが好きだよ」と伝えてみてはいかがでしょうか。
 子どもを「正しい子ども」に矯正しよう、思いどおりに動かそうと干渉すると、生活がしんどくなります。とりわけ食事は毎日のことですから、ストレスになりやすいですよね。

 特に、まじめなお母さん、あまり神経質にならないで。よし、自分で考えて決めなさいと、どーんと構えてください。


相談②》
 なかなかトイレが成功しません。

◯オムツ外しのタイミングは子どもそれぞれ、焦らないで
 オムツは、「しつけ」じゃありません。外れるときに外れますオムツ外し。2歳半ごろからはじまる「お母さんの悩みの種」です(最近は「トイレトレーニング」と呼ぶことが多いようですね)。園の外でも、新米お母さん向けにオムツ外し講座を開いてほしいとしばしば依頼をいただきます。

 さて、まずお伝えしたいのは、「オムツ外しは『しつけ』ではない」ということです。じゃあなにかって、子どもが自立するための「お手伝い」なのね。だから、失敗がつづいてもヘンに深刻になる必要はないの。20歳になってオムツしている人はもちろん、中学校、小学校にオムツで通う子はいないでしょう。卒園生にも、そんな子はひとりもいません。いつかはかならず外れます。いまがまだ時期ではないだけです。もちろん、事情のある子は別としてね。だいたい、生まれてから2年以上も、好きなときに「オムツにジャー」だったわけです。失敗してあたりまえでしょう。おしっこをためておく膀胱(ぼうこう)だって、まだまだ未熟ですから。

 オムツ外しの悩ましさには、いつ成功(完了)するかわからない、ということもあるかもしれません。2歳半になったら、「せーの」でみんなの膀胱が準備万端になる―そんな単純なものだったらいいのですが、そうは問屋が卸さない。あっちの子は2歳でトイレトレーニングをはじめてすぐに成功したけれど、こっちの子は3歳になってもまだまだ失敗するわけです。わが子が「あっちの子」になるか、「こっちの子」になるかは、やってみなければわかりません。

 私の子どもたちもバラバラでしたよ。長男はアッという間にオムツが外れましたが、いまの園長である次男はなかなかうまく外れず苦労しましたし、三男なんておねしょばかりして、しまいには「もうさ、パジャマが濡れるのがもったいないから、ぼくは裸で寝るよ」なんて言い出す始末。時間が経てば笑い話ですが、当時は頭を抱えました。ですから、お母さんたちの苦労や悩みもよーくわかるのです。

親が焦って怒るほど、オムツ外しは長引いてしまう
 そんな私が、たくさんの子どもを見てきて確実に言えることが一つあります。それは、親がトイレの失敗に対して過剰に反応すると、オムツはなかなか外れないってこと。親が焦るほど、怒るほど、オムツ外しは長引きます。子どもは繊細です。怒られたイヤな記憶がトイレにくっついて、萎縮(いしゅく)してしまうのでしょう。
 園にも、なかなかオムツが外れなかった子がいました。気づけば4歳になろうとしていて、お母さんは相当焦っていてね。毎日「大川先生、どうしましょう」と相談に来られていました。私がのんびりして見えたのか、「もう、よその園に転園します!」って言われたこともありました(なんとか思いとどまってくれましたが)。

 よその保育園では、時間で区切ってみんなで一斉にトイレに行くのがオムツ外しの主流のやり方だそうです。自分で「おしっこしたい」と思う前にトイレに行って、とりあえず溜まっている分を出しちゃう。そうすれば、たしかに失敗の確率は下がります。そのお母さんは、そういうふうに無理やりにでもオムツを外してくださいと言っていたわけです。でも、身体がまだ未熟でも、子どもの前に人間でしょう。「おしっこしたいな」「ウンチしたいな」と感じるタイミングは、ひとりずつ違うはずです。
 私、まずはやっぱり「なんだかムズムズするぞ?」「トイレに行きたいかも?」を自分の身体で感じてほしくって。だからうちは、集団でのトイレトレーニングはしないのです。もちろん失敗しても、怒りません。
「あら、出ちゃったか。今度はもうちょっと早く行こうね」
そう言って、着替えて、おしまい。子どもたちも怒られないから、あっけらかんとしています。
 でも、失敗すると恥ずかしいとか、濡れると気持ち悪いとか、そういう気持ちが徐々に芽生えていくのね。そうして、「おしっこしたい!」の感覚にだんだんと敏感になっていくのです。おもらししたときの始末の仕方(「今度はもう少し早くトイレに行こう」と言って着替える)を教えておくのも、ここでのポイントです。

 そうそう、そのオムツが外れなかった子はどうなったか?
4歳になってお母さんが仕事を変えたか時短扱いが終わったかで、勤務時間が長くなったんです。そうしたら忙しくなって、子どもに怒ることが減って、するっとオムツが外れました。
 子どもって、なんとストレスに正直な生き物なのでしょう!
 
【感想】
強制的なしつけは逆効果
 子育ては、誰にとっても人生初めてのことで、子どもが、お味噌汁の中にごはんを入れてしまう、食べ物で遊ぶ、等の行動をしていれば、どうしても焦ってしまうのは当然のことだと思います。しかし、保育歴6092歳ベテラン保育士大川さんの「それくらいなら放っておく」という指摘は、実際には子どもの成長にはさほど影響を及ぼさないということを教えてくれます。今更私が付け加えることもありませんし、私に出来ることと言えば、せめて人生の大先輩の教えを皆さんにご紹介するくらいです。

 特に、オムツ外しのように、生物的な要因が関わる事は、他の家庭の子供との比較では考えられませんから、「いつかはできるようになる」という親の姿勢が大切になるのだと思います。親が焦ると、子どもにストレスがかかり、逆にオムツが外れなくなるようです。「オムツがなかなか外れなかった子がお母さんの勤務時間が長くなり、子どもに怒ることが減ったところスルッとオムツが外れた」という事例が、いかに親からのストレスが子どもにとっての妨げになるかを物語っています。
 このように、生物的な要因であり、親からのプレッシャーが子どもに妨げになるという意味では、“オネショ”も同様のことが言えると思います。
 
しつけを子どもに求める“言い方”
もちろん、「マナーも気になるでしょうから、一応、『ママは入れないほうが好きだよ』と伝えてみてはいかがでしょうか」との指摘の通り、全て子どもの好きにさせるということでもありません。その場合、「ママは入れないほうが好きだよ」というこの“言い方”がポイントだと思います。
私達の“語調”は、子どもに指示や注意をする場面で強くなりがちですから、にっこり笑って「ご飯はお味噌汁に入れないようにしようね」「食べ物で遊ばないようにしようね」という「…しようね」という語尾にするように気をつけた方が、子どもに余計な刺激を与えず上手く交渉できると思います(「安心7支援」の「③子どもを見る時には子どもに微笑む」「④子どもに指示や注意をする時には子どもに穏やかな口調で話しかける」より)
理想的には、「ご飯はお味噌汁に入れないようにしようね」のような“否定形”よりも、「ご飯はお茶碗の中だけで食べようね」という“肯定形”の方が好ましいとされていますが、私はとっさの場面では難しいと感じています。たとえ“否定形”であっても、「…しようね」という“勧誘形”で、笑顔で伝えれば、たとえ感覚過敏の自閉症スペクトラム障害の子どもであっても、反発無く受け入れることができると確信しています。
 なお、この“穏やかな注意”については、本ブログ記事「【問題】このお母さんは何と言っている?~注意する時の親の表情は?~」を参照ください。
 
必要感を感じない子どもは自立しない
大川さんは「まずはやっぱり『なんだかムズムズするぞ?』『トイレに行きたいかも?』を自分の身体で感じてほしい」と指摘しています。
子どもが必要感を感じる前に大人が代わりにやってしまうと、大人のいないところで、いざ子どもが必要感を感じた時に、自分の力で対処する術を身に付けないでしまいます。例えば、子どもが忘れ物をした時にも、翌日先生から叱られないように、親が学校まで車で送りとって来させる、そんなことをしていると、「忘れ物をしてもまた親が助けてくれる」と油断して忘れ物をしないために努力したり工夫したりする力が身につかなくなりますし、他人から叱られることに耐えられない大人になってしまうかも知れません。子どもに不利益を感じさせないと、本当の意味で自立はできないのだと思います。
 なお、この“不利益を感じさせるしつけ”については、本ブログ記事「叱るだけで終わりにしない~子どもが自立するしつけ~」を参照ください。