今回もNHK「すくすく子育て」からご紹介します。
   番組に寄せられたのは、もうすぐ小学校への入学を控えているお子さんをお持ちのお母さん方からの悩み。
「落ち着きがなく、小学校での45分間授業を落ち着いて受けられるか心配」
「小学校では朝は登校班で決まった時間に出発することになるが、朝の身支度がてきぱきできなくて心配」
「就学前にひらがながちゃんとかけてないといけないのか?」
「引っ込み思案で、小学校に入ってちゃんと友達ができるか心配」

そこで今回のテーマは
小学校入学前に身につけたい力とは?
です。

 今回の助言者は、以下のお2人です。
東京大学名誉教授 汐見稔幸氏(教育学)
玉川大学教育学部教授 大豆生田啓友氏(幼児教育学)

○事例1 みことちゃん43ヶ月)
≪お悩み≫
・とても活発で落ち着きがない
・長い時間椅子に座って集中できない
・パズル遊びが図形学習に意欲が立つのではないかと思って取り組ませているが、あまり興味を示さない(シール遊びなら長い時間集中することができる)
・小学校での45分間授業を落ち着いて受けられるか心配
≪助言≫
・子どもが一方的に話すのではなく、親と会話を交わす中で、子供が相手の話を聞く場面を意図的に作ることが大切
・集中力は、好きなことを通して身に付けることができる。嫌いなことに集中させても集中する練習にはならないし、その活動自体が嫌いになってしまうことも考えられる。本人が好きなシール遊びを通して集中力をつけさせるのが良い。

○事例2 かりんちゃん5歳)
≪お悩み≫
・小学校では朝は登校班で決まった時間に出発することになるが、朝の身支度がてきぱきできなくて心配
≪助言≫
・たいていの子供はてきぱきできない。そこで、前の晩のうちにできる準備は済ませておく
・朝にすることを、ボードに書いて視覚的にわかるようにしておく(視覚的にわかる情報があると子供は動きやすい)

○事例3 ゆいちゃん46ヶ月)
≪お悩み≫
・ひらがなの練習をしているが上手に書けない
・友達とのお手紙交換が好きで文字を覚え始めたが、相手の友達の方がずっと上手で焦っている
・就学前にひらがながちゃんとかけてないといけないのか?
≪助言≫
・お手紙交換を通して文字に対して意欲を持っているので十分(遊びの中で文字への興味関心を育てるのが望ましい)
・あまり勉強しすぎていると、逆に授業で学ぶ意欲を失ってしまい、「私そんなの知ってる!」となってしまう
・お手紙を書く、お手紙を読む、などの自分の好きな活動を通して文字の力を身に付けるのが良い

○事例4 こうたくん51ヵ月)
≪お悩み≫
・家の中では妹にしっかり意思表示できるが、家庭の外に出ると引っ込み思案でお友達と仲良くするのは苦手(内弁慶)
・小学校に入ってちゃんと自分から友達ができるか心配

≪助言≫
・親が心配しすぎると、その不安が子供に伝わってしまい、友達を作る意欲も湧かなくなる
・自信がないと人と関わろうとしない。自信がつくと人と関わろうとする力につながっていく
・子供と会話をしながら、子供の話したことに「どうしてそう思うの?」「なるほどねー」などと共感しながら人と関わる力を身に付けさせる
・似たような個性の子供同士が自然と友達になる

【感想】
 私は、今回の記事を作成しながら、あることを思い出しました。それは、前回の記事「理解できない子どもの行動 〜その背景にある人間の根幹に関わること〜」でご紹介した、「①安心」「②好奇心に基づく探索行動」です。
 
○入学前に必要な行動と「安心」・「探索行動」との関係
 以下に、上記の助言の中で、その二つに関わって気がついたことをお話しします。
 
・「子どもが一方的に話すのではなく、親と会話を交わす中で、子供が相手の話を聞く場面を意図的に作ることが大切」
⇨子どもが相手が話す言葉を集中してきちんと受け止める行為は、就学前の子どもにとっては一定の難易度があるもので、ある意味「探索行動」。それができるのは、子どもが会話の相手である親に対して「安心感」を持っているからこそではないか?
・「本人が好きなシール遊びを通して集中力をつけさせるのが良い」
「お手紙交換等の自分が好きな遊びの中で文字への興味関心を育てるのが望ましい」
⇨本人が好きな対象に向かっている、即ち「安心」できている状態でなければ、集中して物事に取り組んだり、文字を学習したりするという「探索行動」はできない。
・「親が心配しすぎると、その不安が子供に伝わってしまい、友達を作る意欲も湧かなくなる」
⇨親が心配そうな顔をしていると子どもは「安心」できなくなり、自分から友達に関わるという「探索行動」もできなくなる。
・「朝にすることを、ボードに書いて視覚的にわかるようにしておく。視覚的にわかる情報があると子供は動きやすい」
⇨全ての感覚の中で8割を占めると言われる視覚情報があると子どもは「安心」する。それがあって初めて時間を守ってがんばるという「探索行動」ができる。
・「自分に自信が持てないと意思表示できない」「自信がないと人と関わろうとしない。自信がつくと人と関わろうとする力につながっていく」
⇨「自分はこれで大丈夫」という安心感があって初めて人と関わるという「探索行動」ができる。
 
○愛着によって様々な能力が育まれる仕組み
   このように考えてくると、「愛着が、人間関係能力、自立心、自制心、異性関係、子育て等の社会生活に必要な様々な能力を育む」とされる“仕組み”も見えてくるような気がします。
   例えば「人間関係能力」は、乳幼児期の親子間の愛着によってもたらされる最も重要な能力とされています。愛着が形成されるということは、子どもに安心感が与えられることです。それを土台にして、その相手に意思表示する会話(相手の話を聞きそれに応じた発言を返す)を交わす思いやる、等の人間関係を円滑に進めるうえで必要なスキルが築かれていきます。これらのスキルがいわゆる今回で言う「探索行動」なのだと思います。
   同様に、愛着がもたらす能力とされている、「自立心」「自制心」「異性関係」「子育て」等も、愛着によって培われた安心感を土台にして、それぞれ、親から自立して生活を営もうとすること、自分の気持ちをコントロールして我慢しようとすること、自分から赤の他人の異性に対してアプローチして交流しようとしたり、更にその異性と結婚し新しい命を育てようとしたりすること、それらがどれも、子どもの成長過程で行われている「探索行動」なのでしょう。事実、これらのことが出来ずにドロップアウトする大人もいるくらいですから。
 
○親の務めは子どもに安心感を与えること
 児童精神科医の杉山登志郎氏は自身の著書の中で次のように指摘しています。
「人の子供に限らず、哺乳類の子供、更には鳥の子供であっても、巣立ちの時には『これから何が起きるんだろう』『世界には何があるんだろう』という喜びに満ちている。高い学習能力を持つ哺乳類や鳥類の知能の本質というものは、新しいものへの好奇心である。そして好奇心によって、住む環境を変えたり固体によって様々な変化を起こしたりする。好奇心に導かれ多様なあり方へと成長することは、地球上の生命として文明の存在以前に規定された基本的な育ちのあり方である。」
つまり、私達が持つ「好奇心」は、哺乳類が自らの子孫を繁栄させるために備えている本能なのです。
 しかし、繰り返しになりますが、「好奇心」に基づいて、住む環境を変えたり固体によって様々な変化を起こしたりする「探索行動」を行うためには、その土台となる安心感が必要です。言い変えるならば、その土台が築かれれば、後は、哺乳類の本能である好奇心が自ずと働いて、「自立心」「自制心」「異性関係」「子育て」等に繋がる探索行動が展開されるということです。
 つまり、子どもは、安心感さえ持てば自分から好奇心を抱いて探索行動をとるのですから、親が子どもにして欲しいと思う行動を要求する前に、先ずは親自身が子どもに安心感を与えているかどうかを自問することが一番大切です。そのためには、ひたすら、子どもに安心の元となる愛着を形成できる愛情行為(例「安心7支援」)を子どもに施すこと。それができて子どもは好奇心を持って探索行動をとるようになる。その時になって初めて、子どもに自立を願う「見守り4支援」という父性の働きを加えることができるのです。