発達障害と疑われる旦那さんを持つ奥さんの悩みを紹介した前回の続きです。
 
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【感想】
   今回、夫の症状として取り上げられている「アスペルガー症候群」についてですが、2013年にアメリカ精神医学会で「アスペルガー症候群」「高機能自閉症」「自閉症」等を「自閉症スペクトラム障害(ASD)」に統一したことを受けて、ここでは、その「ASD」として表記します。
 
夫に病院を受診させるために
 まず、今回の相談に共通しているのは以下の点です。
ASDと疑われる夫をどのようにして医者に受診させたらよいか?
 このことについては、宮尾先生の助言にもあるように、初めは奥さん自身が自らの精神的な症状として医師を受診し、その後、症状の改善のために旦那さんの協力が必要という医師からの要請によって、後日奥さんが旦那さんを連れて再来院するという方法が望ましいと考えます。
   感覚過敏が特徴のASDの人は、自分にとって不利益になる外部刺激に対しても過敏に反応してしまい“不安感”を抱きがちであると同時に、その反動として人一倍“安心感”を求めています。根拠があいまいな事柄に対しては不安感を抱き、逆にはっきりしている場合は安心感を抱くという特徴もその表れです。そのため、根拠が明確な論理的・科学的な考え方をする専門家、この場合は医師、からの指摘、つまり来院の要請や助言を受け入れやすいのです。旦那さんの気質上、奥さんとの事前の打ち合わせがあったことはくれぐれも旦那さんに内密にしておく必要はありますが、奥さんが精神的な問題を抱えていることは事実ですから、後は医師による導きを頼りにして、あくまで奥さんが自分自身の症状の改善に取り組む姿勢を貫けばいいのだと思います。
   また、来院してくれた旦那さんに対しても、「自分に協力してくれて感謝している」という奥さんの思いを伝えることで、旦那さんのプライドも保たれることになり、夫婦の関係も保たれるのではないでしょうか。
 
日常的な接し方について
 相談①や②のケースのように、ASDの旦那さんと同じ屋根の下で暮らしていると、旦那さんの冷たい態度から、二人の人間関係はどうしてもピリピリしたものになりがちです。しかし、旦那さんの症状はあくまで“感覚過敏”と言う先天的な特質によるものなので、奥さんの不機嫌そうな言動は、本人にとっては必要以上に強く神経を刺激するものとして受け止められているはずです。そのため、強いリアクションとなって奥さんに跳ね返ることになるのです。
   旦那さん自身も、奥さんと出会う以前に、自分の症状のために数え切れないほど多くの人との衝突を経験し、他者からの信頼を失ったことも少なくないはずです。先天的に身体にハンデを抱えている人に対して配慮ある接し方をするのと同じように、まずは、そういう旦那さんの心情を慮ってみると、旦那さんに対する見方も変わってくるかも知れません。

 また、先にお話ししたように、感覚過敏によって悩まされているASDの人は、一般の人よりも何倍も強く“安心感”を求めています。相談②の旦那さんのように、家の外部の人に対しては人当たりが良いという人は、相手の方が社会人として旦那さんに気を使って接してくれているので、強い刺激を受けずに済み、結果的に安定した対人関係を築くことができているのかもしれません。または、その逆で、他者との間に“強い衝突”を作りたくないために、実は自分の神経を刺激してくる外部刺激に対して必死に耐えているのかも知れません(自閉傾向の強さによって状況は変わります)。また、やはり相談②にあるような旦那さんの実母については、幼少期から旦那さんの特性について理解しているはずですから、いくつになってもかわいい実の息子に合わせた配慮をしていたために、母子間の関係が良好だったと考えることもできます。
   いずれにしても、自分が最も羽根を休めることができる家庭では、なお更、強く安心感を求めているに違いありません。その際、有効になるのが、相手に安心感を与える「安心7支援」による接し方です。

 ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、この「安心7支援」による行為は、親子間の愛着(愛の絆)を深めるだけでなく、大人同士の絆も良好にします(上記記事内「9愛着は“人間対人間”の間で結ばれる」)し、更に、普段強いストレスを感じている発達障害の人に対しても安心感をもたらします(同上「6『安心7支援』は発達障害や精神的に不安定になっている子どもをも安心・安定に導く」)。つまり、人一倍安心感を求めているASDの旦那さんにとってみれば、「安心7支援」で接してくれる人は、これ以上ない癒しの対象になるのです。

 
 因みに、今回の相談は、明らかにASDが疑われる事例でしたが、自閉症の場合は、自閉傾向が弱い健常者(自閉傾向が「0」の人はいない)から過度に強い障害者まで、自閉症の強さがスペクトラム(連続)的に分布しているので、決して障害域にはなくても、グレーゾーン域にある人、つまり、「几帳面」「潔癖症」「頑固」「こだわりが強い」「完璧主義」「生真面目」「融通が利かない」「柔軟な考え方・行動ができない」等の特徴を持っている人(本ブログ記事「あなたも私も“自閉症スペクトラム”」参照)に対しても同様の接し方が必要になります。前回に「今回の相談は、決して“対岸の火事”ではない」とお話ししたのはそういう意味です。
 
 私事になりますが、実は私が現職だった頃、ASDの子どもを担任する前は、知的障害学級を担任していたのですが、その頃は子どもに対してとても厳しく接する教師でした(今思えば恥ずかしい限りです)。その私が、ASDの子どもを受け持った翌年に180度“支援の癖”を転換することができたのは、「安心7支援」の前身である「セロトニン5」という支援を本で知り、そこに書かれてあった“単純な行為”(特に「微笑む」)をひたすら意識した、単にそれだけによるものでした。ですから、「相手を見る」「相手に微笑む」等の「安心7支援」の単純な行為を意識することで、皆さんも、旦那さんはもとより、お子さんに対しても、職場の同僚に対しても、安心感を与えることができる支援者になれるに違いありません。
 
自分はASDなのか?
 さて、相談③では、「うつ病を発達障害のせいにしていいのだろうか」という悩みが寄せられていました。この不安の裏には、“発達障害”と判断する根拠が“うつ病”という現在の症状しかないということがあるのではないでしょうか?やはり、“適切な判断”を下すためには“信頼性のある根拠”が必要になるのです。
 この場合、千葉大学の若林明夫先生が和訳した自己診断テストがお勧めです。50問の設問によって構成されており、そのうち33問が当てはまると、自閉傾向が障害域にあると診断されます(サイトでは、診断結果が自動計算されます)。もちろん、この結果はあくまで自己診断であり、大まかな実態にしか過ぎませんが、いきなり病院を受診することに抵抗感を覚えている方は、試してみてはいかがでしょうか。