【今回の記事】

【記事の概要】
   今回の中高年の「引きこもり」の調査において、内閣府は、「自室からほとんど出ない」や「趣味の用事の時だけ外出する」等の状態が半年以上続いている人を広い意味での「引きこもり」と定義しました。その結果、これに該当する人の割合は全体の1.45%であり、40歳から64歳でひきこもりの人は、推計で61万3000人に上ることが分かりました。引きこもりになったきっかけは「退職」が最多で36.2%。「人間関係」(21.3%)、「病気」(21.3%)、「職場になじめなかった」(19.1%)が続きました。
   ひきこもり状態になったきっかけで最も多かったのは「退職」です。このことについて「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」の伊藤正俊理事長に話を聞きました。


「これについては、派遣切りやリストラ、人間関係など、何らかの理由で職場から離れた人が、社会復帰が困難となり、ひきこもる状態になっているということです。この現実を見ても、昨今、職場環境や社会状況が劇的に変わってしまったことが考えられます。第一次産業が減り、第三次産業の割合が非常に高いIT社会がもたらした社会状況は、コミュニケーションスキルを求められる職業が優先される社会と言えます。また、個人商店などの自営業や、職人の技が、組織や企業などに接収さ(取り上げら)れ、就職先は集団に合わせることが前提となっています。一人一人の個人や特性が認められにくい職場環境の変化も要因となっているのではないかと思います。
   さらに、幼少期や思春期に家庭や学校で正規職員・終身雇用の価値観を(当時の大人達から)植え付けられながら、社会に出ると非常勤雇用すらままならないのが実際のところで、高度成長期の(正規職員・終身雇用の)価値観との格差に疲弊してゆく実態もあります。今の社会構造では、一度レールから外れてしまうと、なかなか元のレールに戻ることができないのです。」

【感想】
   今回のテーマは“中高年のひきこもり問題”。このことについては、これまでこのブログでも「8050問題」として扱ってきました。その中では、中高年が引きこもる要因として、特に高度経済成長期に母親から受けた否定的・支配的養育によって陥った「愛着」不全を挙げてきました。その「愛着」が子どもに育む力の中で最も大切なものは“人間関係能力”です。つまり、「愛着」不全が、引きこもりに決定的な影響を与えるのは“人間関係能力”の未熟さです。これは、今回の調査で引きこもり要因の2位だった「人間関係」(21.3%)がそれに当たります。しかし一方で、最多だった要因は「退職」で36.2%でした。何らかの理由で職場から離れた人が、社会復帰が困難となり、ひきこもる状態になっていると言うのです。
   そこで、今回は、これまでの“「愛着」不全による中高年の引きこもり”という説を補う意味で、この話題を取り上げたいと思います。

   さて、記事中では、この背景には、昨今、職場環境や社会状況が劇的に変わってしまったことがあると指摘しています。以前は、自営業や職人の技等の、ある意味個人がそれぞれに個性を発揮していた社会だったものが、今やそれらの機能が巨大な組織や企業等に取り上げられ、現在は、個人よりも“集団に合わせる”ことが前提となっていると言うのです。
   上記記事のおさらいになりますが、現在引きこもりになっている40歳から64歳の人達が子どもだった頃、彼らに社会での生き方を教えてきたのは誰だったでしょうか?それは、個人が個性を発揮し正規職員や終身雇用が当たり前だった一昔前の社会を生きてきた当時の大人達(現在の約60歳以上)です。その大人達から同様の勤労観を子どもの頃から植え付けられてきた子ども達が社会人となった時に遭遇したのは、予想外にも、会社の利益や事業形態を最優先する、いわば“個の埋没”環境だったのです。しかし彼らにはその予想外の社会環境に適応するだけの力が無かったために、彼らはドロップアウトして退職せざるを得なくなり、再就職もままならなくなったのです。

   東京大学名誉教授の上野千鶴子氏が、先に行われた同大の入学式で、新入生約3100人に対する祝辞で、次のようなことを述べました(祝辞全文より一部抜粋)。

「あなた方を待ち受けているのは、これまでのセオリーが当てはまらない、予測不可能な未知の世界です。これまであなた方は正解のある知を求めてきました。これからあなた方を待っているのは、正解のない問いに満ちた世界です。あなた方には、東大ブランドがまったく通用しない世界でも、どんな環境でも、どんな世界でも、たとえ難民になってでも、生きていける知を身につけてもらいたい。」

   上野氏の発言は、自身の専門分野である“女性差別”の視点から語ったものではありましたが、天下の東大生でさえ、自分が抱いてきた理想を裏切る現実が待っている。しかし、今の彼らはそれに適応するだけの能力を身に付けていないだろう、上野氏はそう危惧しているのです。


   では、これから成人する若者達が、そのような新しい社会にも適応できる大人になるためには、私達大人は今どんなことを子ども達に教える必要があるのでしょうか?

   長くなるので、続きは次回でお話しします。