【今回の記事】

【記事の概要】
「(以前に発信した)この記事では当初、(69日に東海道新幹線内で突然ナタをふるい、止めに入った男性を含め乗客3人を殺傷した)容疑者が昨年入院した経緯について、障害と事件が関係するような表現になっていたため、関係部分と見出しを削除しました。誤解を与える不適切な表現であり、おわびします。」(毎日新聞)


  
上記の「この記事」では、当時「自閉症と診断された小島容疑者(22)は県内の会社に就職後約1年後に『人間関係が合わない』と退職。『自分は価値のない人間。自由に生きたい。それが許されないのなら死にたい』等と話していたという。」と報道されていた。



【感想】
「事件について実父(52)は『親子関係は非常に悪かった』と話し、こう続けた。『言うことを聞かず、子どものころは息子に手をあげることもありました。中学になり、成績の悪い教科について、もっと頑張らないといけない、と話すと“〇〇君のほうが悪い”と返す。何度話しても平行線で、最終的には“僕はドベじゃないんだ”と泣き出しました。中学では剣道部で、2年のときに1級に昇級したんですが、検定の後に“やめていい?”と言うんです。3年までやるのが部活だと言いましたが、遅刻するようになり、部活の先生から電話がかかってきていましたが、最終的には“練習の日を誰も教えてくれない”と行かなくなりました。中3になると“授業がわからない、友達がいない”と学校に行かなくなりました』」
   
更に両親は、息子が唯一信頼していた祖母と養子縁組をした。つまりは親子の縁を切ったのだ。容疑者本人の考えはとにかく自分勝手で、アスペルガー症候群と診断されたためか、父親は伯父にはこう打ち明けていた。『俺は障がい者なんだ。障がい者手帳を取得して就職するんだ』と言うんです。『俺には権利がある、障がい者枠で働くんだ』と。そんなこと、できるかどうかわからないのに。権利を主張するのに、義務を果たさない。5歳の子どもと同じです」

  
さて、これらのことから、小島容疑者が自閉症スペクトラム障害(=アスペルガー症候群)と診断されたことは事実であることが分かります。その小島容疑者が、周囲からの無理解によって、「(職場での)人間関係が合わない』と退職したり、「自分は価値のない人間」と自分を卑下したりするようになることは十分考えられます。本来、“感覚過敏”の特質によって、人間関係にトラブルを生じがちな障害なのです。また、別記事「《新幹線殺人》両親・祖母・伯父への徹底取材で見えた「小島一朗」ができるまで」では、「練習の日を誰も教えてくれない」「友達がいない」と漏らしていたことが記述されています。これも、人間関係面でのトラブルです。更には両親にまで、祖母と養子縁組をさせられ親子の縁を切られています。このように、幼少期から親から嫌われ、学校でも誰からも嫌われ、最終的には、親から縁を切られる、このような経験を繰り返していれば、健常者であっても自暴自棄に陥るでしょう。記事にもある「死にたい」という言葉は、その表れと言えるでしょう。これらのような生い立ちを知ると、小島容疑者が新幹線の中で見ず知らずの相手に殺傷行為を加えた背景も見えてきます。
 しかし、日本には「障害を報じることは“障害者に対する侮辱”である」と言う一般的な観念があるためか、結果的に「毎日新聞」では、最初の記事に「自閉症」と記述したことについて、「障害と事件が関係するような表現になっていたため、関係部分と見出しを削除しました。誤解を与える不適切な表現であり、おわびします。」と、事実上「自閉症」との関係を削除しました。しかし、本当にそれが適切な対応だったのでしょうか。
 私は、自閉症との関係を削除するべきではなかったと考えています。なぜならば、そのことによって、自閉症者の先天性の特徴や、自閉症者が普段からどんな“暮らしにくさ”を感じているかが埋もれてしまう形になってしまったからです。しかし、だからと言って、「自閉症の人はこのような問題行動を起こす人達」と言う短絡的な解釈は問題外です。一番重要なことは、自閉症の人が起こす問題行動は、周囲の無理解によって引き起こされる「二次障害」であると言うことを報道することだと思います。本来自閉症の人は周囲の正しい理解さえあれば、健常者以上に、真面目で、正義感が強く、物事への集中力も高いのです。その事を記者が自閉症の専門家に聞いて、自閉症とはどんな特徴を持っているのか?どのような時に今回のような問題行動が起きるのか?問題行動を起こさず、彼らが本来持っている長所を発揮するためには周囲の人間はどの様に接すればいいのか?ということを報じるべきなのです。
   更に、私達の身の回りにも、自閉症の特徴を強く持っている健常者がいると言う認識をステップにして、少しずつ私たちが日常生活の中で他人に対してどのように接すればいいのかということも見えてくるはずです。