子供をしつけるのは母親の仕事か?
   現在の世の中を 見渡してみた時に、我が子の躾(しつけ)や育ち様について、より多くの悩みを抱えているのは母親の方でしょうか?、それとも父親の方でしょうか?
   男女雇用機会均等法の導入等によって、昔よりは、夫婦の役割についての分担がはっきりしなくなってはいますが、子供の教育は主に母親が担うという形の方が多いのではないでしょうか?
   しかし、ある統計によれば、母子家庭と父子家庭との子供の非行率を比べてみると、母子家庭の方が父子家庭よりも5倍も数値が高いと言うことが分かっています。この現実を私たちはどのように解釈すればよいのでしょうか?
   
男性と女性とが持つ生物学的な役割の違い
   人類に限らず、生物は雄と雌とが 協力して子供を産みそれぞれの子孫を繁栄させてきました。それに伴って、生物に備えられてきたのが「父性」と「母性」です。今回は、精神科医の岡田尊司氏の文献(「母という病」「父という病」何れも「ポプラ新書」より)を元に、それぞれの役割を紹介したいと思います。
 なお「父性」は愛着ホルモンの関係から父親に特徴的に見られる特性ですが、母親もある程度は持っていますし、その逆も然りです。実際の子育て場面では、片方の親が両性を使い分けることの方が多いですし、1人親家庭では当然1人の親が両性を使い分けます。


「母性」の持つ役割
   母性の役割は、別項で述べたように、子どもにとっての「安全基地」です。「安全基地」とは、子どもが世の中の荒波に揉まれる中で抱いたストレスを癒す場所です。その働きは、言うならば「子どもの受容」です。また、その「安全基地」を獲得できるかどうかは、特に 一歳半までの母親の養育にかかっています。
   さらに、後に「父性」の持つ役割について述べていますが、子供の“しつけ役”は主に「父性」による働きだそうです。つまり、父親が子どものしつけをしようとしたときに、場合によっては、不適切なしつけをしてしまう場合も考えられます。子どもにとっては、そのような時に自分が逃げ込む「安全基地」の存在が必要なのです。父親が厳格で厳しい存在だった場合、子どもが優しい母親の方を好むのはそのせいなのです。

「父性」の持つ役割①「母子分離の補助」
    父性の役割は、主に3つあります。
   1つ目は、「母子分離の補助」です。子どもは1歳半までは「愛着(愛の絆)」の形成のために、母親によって守られます。その間に無理に母親から引き離されると、母子間に「愛着(愛の絆)」が形成されず、子どもの心に傷を残します。以前、ある車のCMで、父親が母親の代わりにまだ乳母車に乗っている赤ん坊の世話をしようと出かけたら、すぐに赤ん坊が泣き出し、母親のもとに戻ってくという場面がありました。もっともな話です。
   しかし、この「愛着(愛の絆)」形成の時期が過ぎると、いわゆる「母子分離」の時期が やってきます。母親の保護の下を離れて、外界へと飛び出す時期です。この時に父親が子どもを母親から離れるための 補助をするのです。これに反して、父親が、自分の仕事のために育児に関われないでいると、「母子分離」が達成されず、子どもが学校に通う時期になっても母親の手を離そうとせず泣き叫んだり、大人になっても親の存在に支配されてしまう“母子密着型”の人間(「アダルトチルドレン」等)になったりするのです。そこで、父親が子どもの関心を引きつける刺激を与え、子どもに不安感を与えないように笑顔で母親から上手に離してあげる必要があるのです。

「父性」の持つ役割②「子どもとの遊び役」
   それが成功したら、次は「子どもとの遊び」です。“遊び”は、いわば実社会への入り口です。父親は母親に比べ、冒険的で挑戦的な活動を好みます。その活動を通して、子どもは“社会性”を育むのです。母親が好むインドア的な活動ばかりをしていると、心までインドア派になってしまい社会性が養われないのです。

「父性」の持つ役割③「子供のしつけ役」
   それが済んだら、いよいよ父親の真骨頂の仕事が待っています。それは「躾(しつけ)」です。母親一人で子どもの躾をしようとしても、どうしても子供を守ろうとする「母性」が邪魔をしてしまいます。一方で父親は、子どもを産んだ母親と違い、子どもとは別人格の存在です。だからこそ、良い意味での“厳しさ”を持って子どもに接することができるのです。その結果、先に紹介したような 父子家庭との非行率の差が生まれるのです。

一人親家庭における「父性」と「母性」との意識的な使い分け
   このように、「母性」と「父性」には、それぞれ違った役割があります。そんな中、昨今は、3組に1組の夫婦が離婚していると言われるように、結婚しても間も無く離婚してしまう家庭が増えています。
   しかし先の岡田氏は、そう言う「一人親家庭」であっても、「母性」と「父性」のそれぞれの役割を認識して、それぞれを演じ分ける事で、養育は可能であると指摘しています。

「父性」と「母性」それぞれの尊重
   昨今は、ご家庭によっては、子供の前でお父さんがお母さんの悪口を言ったり、逆にお母さんがお父さんの悪口を言ったりすることによって、言われた方が子どもからの信頼を失い、残念ながら家族の中に“立場の序列化”が生じてしまう場合もあるようです。
   そのような状況に陥ってしまうと、先に紹介したような「父性」と「母性」それぞれの働きの一方が機能しなくなってしまうことに なってしまいます。例えばお父さんの立場が弱くなってしまうと、本来父親が行うべき子供の“遊び役”や“しつけ役”を担う存在がいなくなり、母親が全ての働きを 一人で行わなければならなくなり、結果的に母親が苦しむことになってしまいます。すると、家族の中にストレスが溜まったり、子どもと一方の親との人間関係が不適切なものになったりします。すると、親子間の「愛着(愛の絆)」が 適切に行われなくなってしまい、子どもの人格形成に 一生にわたって悪影響を及ぼすことになってしまいます。
   親子間の「愛着(愛の絆)」形成が健全に行われるためには、父親と母親が互いの存在を尊重し合う環境を作る必要があるようです。

 なお、主に「子どもの受容」としての母性、主に「子どもの社会的自立(しつけ)」としての父性、それぞれの詳細については、本ブログ記事「【愛情の基本】 〜子どもとの愛着を形成する“母性”の働き『安心7支援』」と「【子どもの自立】~子どもの活動を見守り自立を促す“父性”の働き「見守り4支援」~」をご参照ください。