「泣くのは止めなさい!」
  子どもがいると、いろいろな理由で泣かれることがあります。「お兄ちゃんが先にドアを開けた」だとか、「自転車で“手放し乗り”をして転んだ」だとか、泣くのには実にたくさんの理由があります。でも、口げんかや取っ組み合いで子どもたちが大泣きするのはうんざり、というときもあります。時間がないときには、つい「泣くのはやめなさい!」と言ってしまうことも…。

子どもは何を求めて泣いている?
   子ども達が感情を持っていることは分かりますし、たとえ私達が「くだらない」と思うようなことで泣いていても、その声に耳を傾け、感情をコントロールすることを教えるのが親の仕事です。 
   では、そもそも、子供が泣くという行為にはどんな意味があるのでしょうか?子供は何を求めて泣いているのでしょうか?


   臨床心理学の識者は次のように指摘します。
感情をコントロールする力を養うのは、『共感』と『理解』によってであり、『泣くのをやめさせること』によってではありません。」
子ども達は『共感』と『理解』を求めています。そしてそれが得られないと、ひたすら得ようとして泣き続けるのです。」
つまり、子ども達は、ただ単に自分が本能的に求めている親の「共感」と「理解」という反応を引き出すために泣くのです。ということは、それらが得られない限り子供は泣き続けますし、いくら泣いても得られない場合には、子供は求め続ける事を諦め、その結果、母親に対する信頼感、つまり「愛着(愛の絆)」が弱くなってしまうのだと思います。それは、母親を泣いて呼び続けている赤ん坊が、いくら泣いても母親が来てくれない時に、本能的に母親との“愛の絆”を断ち切るのと似ています(「育児に関心の薄い親を持った赤ん坊が自ら選ぶ“一生歩む道”」参照)。

子どもへの「理解」と「共感」を示すサポート
   これらについての子どもへのサポートの手順は次のようになるでしょう。
子供の気持ちを「理解」すること
「①」で理解した子供の気持ちに「共感」すること
   この「①」の中で特に大切なのは、子供の気持ちを理解しようとする親の姿勢です。仮に、すぐには子供がなぜ泣いているかが分からなくとも、一生懸命その理由を分かってあげようと努力する親の姿勢こそが、子供の心に響くのだと思います。
   また、子供は敏感です。同じ理由を問うのでも、
A何が嫌なのか早く言いなさい!
B何が嫌だったの?お母さんに教えてくれる?
とでは、天と地ほどの差があります。「A」のような問い詰められる聞かれ方をされた子供は、親の迫力に押され自分の気持ちを話せなくなるでしょう。逆に、「B」のような聴かれ方をされた子供は、「お母さんは自分の気持ちを分かってくれようとしている」と感じ、自分の気持ちを話そうと思うに違いありません。“穏やかな聞き方こそが子どもの心を開くのです(「『愛着』の維持のために①~子どもが問題を起こした時の親の関わり方~」参照)。

「『共感』『理解』サポート」の実際
   さて次に、「共感」と「理解」の具体的なサポート方法について考えてみましょう。「共感」と「理解」というそれぞれの“作用”を具現化するための“言葉”は次のようなものになると考えます。
①子供の気持ちの「理解」の仕方
 ・泣いている理由が分からない時
  ⇨「何が嫌だったの?お母さんに教えてくる?」(努めて穏やかな言い方で)
 ・泣いている理由の見当がついている時
  ⇨「もしかしたら、………が嫌だったの?」(同上)
②子供の気持ちへの「共感」の仕方
 ⇨「そうだったの、………が嫌だったのね」(同上)
なお、この「共感」の仕方は、子どもが泣いている理由を肯定も否定もしていません。しかし、子どもは「自分の思いを受け止めてもらった」と感じ十分満足するようです。

   
そして最後に「よく話してくれたね」と言いながら、「愛着」を形成するための「
愛着7」の愛情行為のように、頭を撫でたり抱きしめたり等のスキンシップを行うと、子供は感情コントロールして泣き止み、親子間の「愛着(愛の絆)」もより確かなものになることでしょう。
 
子どもの中の類似性
「『愛着』の維持のために①~子どもが問題を起こした時の親の関わり方~」の項で、「子どもが問題行動を起こしたら、まず始めに『何があったの?』と聞きましょう」とお話ししました。子どもが問題行動を起こした時でも、今回のように子どもが泣いている時でも、いずれの場合でも、親が一番初めにしなければならないことは、子どもの気持ちを“理解”することです。
 また、「育児に関心の薄い親を持った赤ん坊が自ら選ぶ“一生歩む道”」の項では、「赤ちゃんはお母さんに来てくれることを求めて泣く」という話をしましたが、泣いている幼児の場合は自分の足で母親のもとへ行くことができるので、母親には「理解」と「共感」を求めます。いずれの場合でも、子どもが何を求めているのかを親が“理解”し、それに“応えることが、親子間の「愛着(愛の絆)」を強めるのです。