さまざまな“暮らし難さ”を抱える「愛着不全」の人。しかし、一口に「愛着不全」と言っても、みな同じではありません。ここでは、精神科医の岡田尊司氏の文献を基に、乳幼児期にどんな養育の仕方をすると、どんなタイプの「愛着不全」になるのか?ということについてご紹介します。

【「回避型」愛着不全】
(1)「回避型」愛着不全を招く養育タイプ
   この愛着不全を招く養育としては、一つには、親が子どもにあまり関心がなく放任してしまうタイプが挙げられます。赤ちゃんに何か困ったことが起きた時に、いくら泣いても母親がスマホ等に関心を奪われて赤ちゃんのもとに来てくれないような事が頻繁に起きると、赤ちゃんは助けを求めることを本能的にあきらめてしまい、それをきっかけに、一生に渡って他者に対する信頼を失うのです。ですから、赤ちゃんが何かで困って泣いている時は、できるだけ早く駆けつけて問題を解決してあげる必要があります。つまり、特に「愛着(愛の絆)」の形成がスムーズに行われやすい1歳半までは、母親ができるだけ近くにいて世話をしてあげる事が望ましいのです。
   しかし世の中には、決して子供に対する関心が低いわけではないのに、結果的に赤ちゃんの世話に十分に当たることができないというケースが見られます。それは、母親が育児も家事も全て一人でこなす「ワンオペ育児」を強いられている場合です。その為に、育児以外の仕事に時間をとられ、赤ちゃんの求めに応じて十分に世話をできないのです。更には、育児も家事も全て一人でこなす生活の中で、母親が精神的に追い込まれ、育児に対して拒否感を抱いてしまう場合もあります。
   そういう生活環境を防ぐためには、母親が“育児”に専念できる生活環境を作る必要があり、“家事”等の育児以外の仕事を担う家族の協力が必要になります。また、お勤めされているお母さんは、仕事との関係は避けては通れないとは思いますが、乳児期に「愛着(愛の絆)」を形成できるかどうかは、子供の一生の人格形成に関わることなので、少なくとも1歳半までは育児休業をとってお子さんの側にいてあげて欲しいと思います。また、「愛着7」のようなお母さんとの「愛着(愛の絆)」を形成する為の愛情行為をたくさん施して、養育の“質”を上げることも大切です。
   また、「回避型」愛着不全を招くもう一つの養育タイプは、親が子どもに対して否定的・攻撃的な言葉何回言わせるの!」「ちゃんとしなさい!」「やめなさい!」等)ばかりを浴びせるタイプです。精神科医の岡田氏が現在多くの家庭で行われている、最も愛着不全を招きやすい養育」と危惧するのがこのタイプです。また、先にお話ししたような家族の協力がなく、母親が育児と家事の全てを担うことになってしまうと、母親が精神的に追い込まれてしまい、その結果、溜まったストレスを子どもに対してぶつけてしまうことも同様です。これも、本来子供の「安全基地」となるべき母親を「危険基地」としてしまい、子供に不満と怒りを蓄積させ、“人間不信”な大人にしてしまいます。

(2)「回避型」愛着不全の行動特徴
   この愛着不全の行動特徴は、基本的に他人と距離をおいた対人関係を好むことです。乳児期に母親からさえ助けてもらえなかった記憶が刻み込まれているので、他者に対する信頼感を抱けないのです。そのため、できるだけ人間同士のもめ事を避けようとする面もあり、そのような場面に遭遇すると自分から身を引くことで事態の収拾を図ろうとします。更に、何に対してもどこか醒めており、身近な人の苦しみにも平然としています。更に、幼い頃に親から受けた否定的・攻撃的な叱責に対する怒りが要因となって、周囲への反抗攻撃性という問題を起こすことも多いです。

【「不安型」愛着不全】
(1)「不安型」愛着不全を招く養育タイプ
   この愛着不全を招くの親が子どもを“過度にかわいがる”反面、別の場面では逆に子供を“突き放す”という関心のが激し過ぎるタイプです。そのために「いつまた親からの関心を得られなくなるかもしれない」という思いが子供の心に刻み込まれるのです。例えば、親が子どもに対して「よい子」であることを強く求め過ぎ、子どもが自分の思い描いている通りの言動をしたときには褒めて、そうではない時には叱るというようなケースです。親のこのような意識によって、子どもは、常に親の顔色をうかがいながら生活をし、本来の子どもらしい判断や行動を我慢し、親が喜ぶような行動ばかりをするようになります。その結果、子どもは、過度に親の愛情を求め過ぎるようになり、「いつ親から嫌われるかもしれない」という不安やストレスに襲われ、「いい子症候群」と呼ばれる精神的に不安定な状態になる場合があるのです。 
   このような状況を防ぐためには、「条件付きの愛情」、つまり、このことができたら褒めるが、できないと子どもに関心を示さなかったり叱ったりするような態度は止め、「無条件の愛情」を示すことが大切です。その為には、よくできた時にはもちろん褒めてやりますが、できなかった時でも子どもの失敗を受容し、「どうしたらできるようになるかな。」とか、「つぎはできるといいね」等と励まし肯定的に接しましょう。叱る時でも、「あなたらしくありません!」「あなたは本当はやればできる子です。それにふさわしいあなたでいてほしい!」等、その子のよさや可能性を信じ、自己肯定感を失わせないようにしましょう。また、叱っても、親自身がその気持ちを引きずらないことも大切です。叱った後に「はい、おしまい!」等の言葉を投げかけると、親自身も気持ちの切り替えをしや すくなると思います。

(2)「不安型」愛着不全の行動特徴
   この愛着不全の行動特徴は、人からの愛情を強く求めようとし、それを失うことに対して強く不安感を抱くことです。そのため、いつも周囲に気を使い、少しでも相手の反応が悪かったりすると、「嫌われているのではないか?」と不安になってしまいます。その結果として、相手に逆らえず、他者からの嫌がらせに対して言いなりになってしまうこともあります。また、一度親密な関係になると、自分が愛されているかどうかを過剰に確かめようとする行動も起きがちです。相手の些細な言動も気になり、自分をおろそかにしているのではないかと捉えてしまい、その感情をいつまでも引きずってしまいます。

【「恐れ・回避型」愛着不全】
(1)「恐れ・回避型」愛着不全を招く養育タイプ
   この愛着不全を招くのは、親が子どもに対して日常的に体罰”や“威嚇”や“脅し”を行うタイプです。たとえ暴力を振るわなくても、日常的に厳し過ぎる言葉で叱責することは、暴力と同等かそれ以上の傷を子どもに残します。
   また、親の気分による一貫性のない指導も、子どもを「いつまた叩かれるだろう?」という危機感の下にさらし続けることになるため危険です。そのためには、親自身が自分の指導方針、つまり、「どういう時に褒め、どういう時に叱るか」というルールをはっきりさせて、それを子どもに予告しておき、ぶれることなく実践することが大切になります。
   更に、度々子どもにとって達成不可能な課題を与え、子どもがうまくできなかった時に過度の罰を与えることも子どもの精神状態を極度に不安定なものにします。

(2)「恐れ・回避型」愛着不全の行動特徴
   この愛着不全の行動特徴は、他者の反応に敏感で「人から見捨てられるのでは?」という恐れや不安が強い面(不安型)と、対人関係を避ける“人間嫌い”の面(回避型)の両方を抱えていることです。「不安型」の面があるために一人でいることは不安で人と仲良くしたいと思うのですが、「回避型」の“人間嫌い“のために親密になればなるほど強いストレスを感じて傷ついてしまうという矛盾を抱えています。
   また、「恐れ・回避型」の傷つきやすさや不安定さは、養育者から虐待を受けた体験に由来していることが多いため、それらの行為によって、子どもの心に“傷”が残り、後でその“怒り”を別の場面で他者にぶつけたり、些細なきっかけでフラッシュバックを起こし混乱状態に陥ったりしやすいのです。混乱に飲み込まれると、情緒的に不安定になるだけでなく、一過性の精神錯乱状態に陥ることもあります。