今回のオリンピックに間に合わないかも知れない大怪我を負いながら、今日のショートプログラムで「111.68点」という自身のSP史上最高記録に迫る大記録を叩き出した羽生結弦選手。私は「これは現実の出来事か?」と思う程の衝撃を受けました。

   何故、彼にはこんなことができるのか?我が国の「愛着(愛の絆)」研究の第一人者である精神科医の岡田尊司氏の理論を基に、私なりの考えをお話ししたいと思います。

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   彼の奇跡のカムバックの要因は、主に二つあるのではないかと考えています。
   まず一つ目は、彼の圧倒的な“自己肯定感”です。前日の記者会見で見た自信に満ち溢れた目からは、自分は絶対できる!」という気迫のようなオーラを感じました。
   一般的に、生後1歳半までの母親によるきめ細かな養育母子間の愛着愛の絆)」を形成できた子供には母親と言う信頼できる「安全基地」が生まれます。この「安全基地」を持つことによって、子どもは母親によって「守られている」と感じ、安心して活動できるので、様々な冒険(「探索行動」)に積極的に取り組むことができます。そしてこの安心感は、「もし何かあったら、すぐにお母さんという『安全基地』に戻ればいいいんだ」ということを子どもが分かっていることから生まれます。その為、多くの成功体験を重ねることができ、「自分はできる」という自己肯定感が育まれるのでしょう。
   しかも、人間の生後は他の動物と比べて余りにも無力です。困ったことが起きても、自分から母親の下へ歩み寄ることさえできません。その時に、いくら泣いても母親からの援助を受けることができなかった乳児は、「これ以上母親を求めることは、自分の生死に関わる程のエネルギーの消失になる」と本能的に自覚して、母親という「安全基地」としての存在を自分の意識から消し去るのです。一度「安全基地」を“本能から消去した子供は、死ぬまで不安定な人格で過ごすことになるのです。それが“本能”の持つ恐ろしさでもあるのです。
   逆に、自分の母親はいつも自分のことを守ってくれる」という意識を本能刻み込んだ子供は、大人になっても様々な活動に対して安心して取り組むことができ、「自分はできる」という高い自己肯定感を持つことができるのです。
   私は、羽生選手のあの「出来るはずだ!」と言う圧倒的な自信は、自分が本能の中に刻み込んだ「安全基地」に裏付けられた高い“自己肯定感”に支えられたものであると考えます。その自信があったからこそ、やるべき事を焦らず計画的にこなす事ができたのでしょう。

   そして二つ目は、彼の驚異的な“身体的回復力”です。彼の周辺にいるスタッフは、「オリンピックまでに治らないのではないか?」という危機感さえ持ったはずです。それは、彼の治療に当たった医師が一番分かっていたはずです。その証拠に、「間に合いそうだ」ろいう知らせは、優れた情報網を持つメディアでさえ、ただの一度も掴むことは出来ませんでした。
   私は、その奇跡の回復を支えたのもまた、彼が乳児期に獲得した「愛着愛の絆)」だったのではないかと思います。
   先に紹介した岡田氏は、「『愛着』は、人間の“精神的・身体的健康”更には“寿命”にさえ影響する。」と指摘しています。「愛着」が不安定だと、ストレスに対して過敏で、精神的にもろくなり、うつ病などの精神疾患や自殺に結びつきます。「愛着」が安定している人では、同じようなストレスを受けても、ストレスホルモンの分泌が少なく自律神経系の反応も穏やかであることが分かっているそうです。その為、ストレスと関連した心身症や様々な体の病気は、不安定型の「愛着」の人に起きやすいということが分かっているのです。つまり、「ストレスは万病の元」と言われる所以でしょうか?

   以上が、愛着研究の専門家の指摘を基にして考えた、羽生選手の奇跡のカムバック劇の背景です。

   因みに、羽生結弦選手の母親である由美さんは、ネットなどでは羽生結弦はどんな時にも母親が離れずついていると有名だそうです。
   オーサーコーチに師事するために羽生選手がカナダのトロントへ移った時も、母親の由美さんも一緒に移住し、料理をはじめとして生活環境の様々な面で支え続けていたと言います。
   元々ぜんそく持ちだった羽生選手の為に、ホコリの少ない屋内のスポーツであるフィギュアスケートを勧めたのも由美さんだったということです。
   そんな由美さんが、羽生選手の乳幼児期にどんなきめ細かい養育をしてきたか、想像に難くありません

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(羽生選手の母親の由美さん)