■卒業
- 重松 清
- 卒業
■2004年2月20日発行
■新潮社・刊 ■定価: 1680円
■面白度: ★★★
短編4作品が収められています。
最初の「まゆみのマーチ」は優れている、サスペンスタッチです。
他3編はあまりにも優柔不断で、なよなよしていて、しっかりしろよと、いいたくなる。
はがゆさばかりが感じられて読後感悪し。
装丁は豪華。
■その日の前に
■突然死、事故死、宣告された死。
昨年の、今日の、そして明日の死。
それを迎える人、送る人。
重松清は、無限に続く時の流れの中で、人もまた昨日は明日に続くはずなのに、不意にふっつりと断ち切られる今日を、七つの短編で描いてみせる。
少年の記憶にはじまり、「朝日のあたる家」「潮騒」「ヒア・カムズ・サン」と中年の生と死を描いた物語は、「その日の前に」「その日
」「その日のあとで」で円環を描いて閉じる。
5年前は僕に微笑みかけてくれた神さまが、今は背を向けて遠ざかる。余命一年足らずと告知された妻・和美の手を引いて。
どうして和美なんだ?
悲しい、悔しい。
一人で泣いた。二人で泣いた。
そして、20年前、結婚して最初に住んだ町、夫婦のふるさとへの、陽が暮れるまでには終わる旅、「昨日」への旅に出た。
告知から半年後、僕は中学二年の健哉、小学5年の大輔、三人で和美を見送る。
和美の遺した最後の手紙はただひと言、「忘れてもいいよ」。
「僕は和美のことを忘れる。けれど必ず、いつだって、思い出す」。
胸の底に居座る重石。
でも我が家は和美のいない歴史をゆっくりと刻み始めている。
初盆、僕とケンとダイは、あの町の夜空に焚かれた大きな迎え火を見上げる。
僕のそばに前四篇の登場人物が現れる構成は「うまい」というしかない。
しかも、寄せ書き、家庭の医学、ビートルズ、焼き鳥、豆まきセット、赤い歯ブラシ、宮沢賢治、タンポポの綿毛、ダイレクトメール、花火、トマトといった「小道具」も効果的で、帯にある「涙!涙!!涙!!!」の絶賛もむべなるかな。
小生も涙腺みごとにゆるみましたもの。
生きて何ぼや、死なんざ没関係の青年・中年も、長生き万歳老年も、この涙の甘やかさには白旗かかげて当然というもの。
井家上隆幸(コラムニスト)
(11月20日付朝日新聞「読書」欄「ベストセラー快読」より)
