○レストラン(昼)



「街を歩いていると、キレイな女の人とすれ違うときがあるっしょ?」



「うん」



「めっちゃ、へこむ」



「なんで?」



「すごい、キレイだなって思うんだよ? キレイな人だなって」

 でも、『ああー、こんな人とオレは付き合うことないんだろうな』って思ってへこむ」



「そんなこと考えるの?」



「こんな気分になるなら、すれ違わなければよかったのにって

 不幸な気分になる」



「私はあれだな、干したばかりの布団に飛び込んだとき。

 ばふって。

 もぅねぇ、いい匂いがするし、ふかふかだし、

 くぅーーってなる」



「で、そのまま寝ちゃったりするんだろ?」



「そうそう! まだ夕方だったりするのに」



「やだよ、そんなの」



「なんでー?」



「不必要に睡眠を取るなんて、自己嫌悪に陥る」



「でもさぁ、そういうささやかな幸せってのが

 一番ステキなことなんじゃないの?」



「いい」



「いい?」



「ささやかな幸せなんていらない。

 1つ、どでかい幸せがあればいい」



「ふーん。

 それで毎日楽しいの?」



「楽しくなくてもいい」



「そう。

 でもね、ささやかな幸せを、幸せだなぁって思えたら、

 楽しい気分になるでしょ?」



「まぁ」



「楽しい気分でいられたら、もっと幸せなことが舞い込んでくる気がするの。

 そんな小さなことを積み重ねていくと、

 気がついたら、どでかい幸せになってるんじゃないかな」



「んー。それはそうかもしれないけど、でも」



「私はそう思うな。

 とりあえず毎日楽しいしね」

元の話はこちら



「あのね、彼に告白しようって決めてたわけじゃん?」



「うん」



「来週会う予定があるから、そのときに言おうと思ってたの」



「うん」



「そしたらね、昨日友達に急に誘われて、

 合コンに行ってきたの」



「……合コン?」



「もちろん、ただの人数合わせでさ。

 私の気持ちは彼に向いているから、ただの飲み会ぐらいにしか考えずに、

 行ったんだけど」



「うん」



「そしたらさ、そこにスゴイいい人がいて」



「おうおう。はいはい」



「かっこいいわけじゃないの。

 ただ、優しいし、気が利くし、

 その人の雰囲気が、すごく私に合ってる気がするのよ」



「雰囲気が。ははは。なるほどね

 それで、その人のことが気になると」



「(うなずく)」



「彼に告白する気じゃなかったの?」



「そうよ」



「その気持ちはウソだったわけ?」



「だから神様はいじわるなのよ。

 私についている神様は、いっつもこうなの」



「こうって?」



「私が心を決めると、いつも揺さぶるようなことをしてくるの

 彼にしよう!って決めたんだから、そのまま行かせてくれればいいじゃない?」



「今、彼と、合コンの彼と、どっちが気になるの?」



「わからない……、けど、正直、合コンの彼の方が気になってる」



「ふぅ」



「……」



「……困っちゃったね」



「ねぇ。

 これは、そういう誘惑にも負けず、彼に一途にいれるかってことを試されてるのか、

 それとも、ホントの運命の人は合コンの人で、

 それに乗り換えられる度胸を試されてるのか、どっちだと思う?」



「さぁ……(笑)

 神様の思惑は、私にはわからないよ」



「だから神様はいじわるなのよ。

 彼に告白しようと決めて、ずっと側にいようと思ったのに、

 こんなにあっさりと心が動くなんて、私はちっとも純粋な人間じゃないわ」



「もう1回、じっくり考えるしかないね。きっと」



「うん……」



「少なくとも、

 『もう1回じっくり考えた方がいい』っていうことに関しては、

 神様の思惑なんじゃないかな? って、

 私は思うよ」

「で、どうなの?

 彼には告白したの?」



「うーん」



「……もしかして、ダメだった?」



「ううん。まだ告白してないの」



「そうなんだ。 ……って、ええっ?

 この前電話したときには、

 『私、今すぐにでも告白する!』って言ってたじゃない」



「言ってたよ」



「また、ためらいだしたの?

 自分を守りたい気持ちはわかるけど、ときには思い切ることも大事だって

 あれほど言ったじゃない」



「ためらってるわけじゃないの。

 確かにすごく悩んだけど、

 彼は好きだって言ってくれたのは嬉しかったし、

 うん、この人だ。この人とならうまくやれるって

 思ったんだよ」



「じゃあ、告白しちゃいなよ。

 ぴゅーっとさ」



「それがさ」



「何よ」



「神様って、いじわるだよねぇ」



「だから、なにが」



「私、悩んじゃってるよ」



「だから、なにがってば」

「だからオレは有名になりたいんすよー。すぐにでも」



  居酒屋「のむべぇ」で飲んでいる2人。



「どしたらなれますかねぇ~?」



「だいぶ、酔ってるわねぇ」



「酔ってないっすよ。オレも早く先輩みたくなりたいんすよ」



「先輩なんて、やめてよ(笑)

 そんな柄じゃないわ」



「先輩じゃないすか。オレよりも早く芸能界に入ったんだから」



「まぁ、そうだけど」



「先輩、なんでそんなに有名になれたんですか?

 教えてくださいよ、秘訣っていうか、攻略法を。

 オレが明日から有名になるためには、どうしたらいいんすか?」



「秘訣って言ってもねー。うーん。

 一生懸命仕事するくらいかな」



「そんなの!

 そんなの、秘訣でも何でもないっすよ。

 ていうか、一生懸命仕事して有名になれるなら誰でもなってますよ」



「でも、それができないから

 有名になれないんじゃない?

 みんなも、あなたも」



「違うんすよ。

 オレはもっと、びゃっと有名になりたいんすよー。

 そんなケチくさい努力なんかしないで」



「そういう考えじゃ、

 きっと、あなたはきっとなれないわ。有名に」



「なんでー?」



「トントン拍子で行く人なんて、滅多にいない。

 仮にいたとしても、

 トントン拍子で成功した先に、あなたの実力が伴ってなければ、

 あっという間に舞台から引きずり降ろされるわ」



「大丈夫っすよ。

 オレ、もう十分実力ありますから」



「……そう。

 じゃあ、早く有名になれるといいわね」



「早く先輩追い越してみせますからー」



「うん……。がんばってね」

元の話はこちら



「結局はさ、レストランなわけよ」



「レストラン?」



「前に付き合ってた彼氏のことを気にしてしまう、っていうのはさ」



「それの何がレストランなの?」



「今までレストランに行ったことない人だったらさ、

 ファミレスに連れていっただけでも喜んでくれるだろ?

 こんなにたくさんメニューあるんだーって」



「うーん(笑) そんな人いるかなぁ?

 で?」



「でも、そのうち、ファミレスのメニューじゃ満足できなくなる。

 だからちょっと高いレストランに行ったり、

 近所じゃないレストランに連れて行ったりする」



「うんうん」



「つまりさ。

 今まで彼氏がいたってことは、きっともう、いろんな経験をしてきてると思うんだよ。

 キスとか何だとか、そういうことだけじゃなくて、

 一緒に旅行行ったり、

 一緒に浴衣を着て花火を見に行ったり、そういうイベントを。

 もう相手だって、いい歳なんだからさ」



「そだね。うん」



「するとさ、

 オレはもう、彼女にしてあげられることがないんじゃないかって思ってしまうんだよ」



「どうして?」



「さっきのファミレスだよ。

 高級レストランや、いろんな種類のレストランを見てきた彼女を、

 いったいオレは、どんなレストランに連れて行けばいいんだろうって。

 もう、連れて行ける先がないんじゃないかって」



「そうね。かもしれないね」



「彼女に何もしてあげられないオレは、

 果たして彼女にふさわしいのかって、そう思うんだ」



「難しいこと考えるのね」



「そうかなぁ」



「うん。

 でも、うん。

 わかるよ。言いたいこと」