○居酒屋にて



「最近、思った」



「何を?」



「結局、どう転んでもオレは不誠実だ」



「どう転んでも、って、転ぶ方向すら私にはわからないんだけど(笑)」



「彼女が欲しかったんすよ」



「うん」



「でも、オレはもてるわけじゃないから、

 たくさんの女の子に声をかけていったんだよ。

 数打ちゃ当たる的に」



「へー」



「メールしたり、電話したり、メシ行ったり」



「メシって、2人で?」



「そう、2人で」



「ふーん。

 それって、なんかもう、向こうも気があるような……

 まあ、いいや、で?」



「そしたらさ、まさかまさかで、どの子ともうまく行き出しちゃってさ。

 最近は、向こうから電話してきたり、

 週末、遊びにいく約束してきたりするのよ」



「よかったじゃん。モテモテだね」



「そうなんだけどさー。

 オレ、こんなにモテたことないしさ、

 ていうか、そもそも、こんなにうまくいくとは思わなかったんだよ」



「きっと、ダメもとでがんばったのが良かったのね」



「今、そんな感じで、良い雰囲気の子が4人いてさ」



「へー。へー。

 誰と付き合うの?」



「実は決められてなくって」



「モテる男はツライねぇ」



「てかさ、一応、向こうをその気にさせたのはオレじゃん?

 オレからアタックしてって、仲良くなっていったんだから」



「んー。

 ま、はい。で?」



「これで4人の中のうち、誰かと付き合ったら、

 残りの3人は、オレがもてあそんだってことになると思うんだよ」



「うん」



「それって、すごく悪いことするな、って思って。

 でも、いずれは誰かを選ばなくちゃいけないわけで」



「そうだね」



「だから、どう転んでも

 オレは不誠実な男になるんだな、と思ってるんだよ」

「入社してもうすぐ1年、仕事には慣れた?」



「はい、慣れました」



「そう」



「でも、仕事を始めてから、

 どんどんリアリティが、なくなっていくような気がするんです」



「リアリティ?」



「はい。生きている実感というか」



「どうして?」



「学生の頃、お金が無くて、明日を生きられるかどうかわからないくらい、

 這いずり回ってた時期がありました。

 何日もお腹を空かせて」



「ええ」



「その頃の方が、リアリティがあった、

 苦しかったんだけど、

 ああ、私は生きているって、足の指の先から髪の毛の先まで実感できた」



「……」



「会社員になって、仕事は忙しいけど、それなりに充実してて。

 きっと満たされているんだと思います。

 でも、どんどんリアリティが失われている気がするんです。

 なんだか自分の知らないところで、淡々と人生が進んでいくような」



「疲れているんですかね?」



「わからないです。

 でも、例えば今日、自殺したって、

 明日になれば、普通に生き返って、いつも通り会社で仕事している、

 そんな気すらしてくるんです」

○オフィス(夜)



「(パソコンに向かいながら)……ああ、そっか。ふむふむ」



「できましたよー。資料」



「おう、ありがと。助かったよー。大変だったろう?」



「まぁ、それほどでもないっすけど」



「もう、こんな時間か。

 帰っても大丈夫だから。ありがとな」



「いえ……。まだ帰れないんで」



「?」



「自分の仕事が残ってるんですよ」



「そうかぁ」



「……」



「(資料を見ながらパソコンを操作している)」



「……辞めちゃおうかなぁ」



「辞めちゃうのー?」



「いや、忙しいし。最近彼氏とも会えないし」



「そうかー。そりゃ寂しいもんなー」



「私のやってる仕事って、別に私じゃなくてもできると思うし」



「かもなぁー」



「虚しいっすよね。誰でもできることを自分がやってる、っていうのは」



「もしかして」



「はい?」



「この資料づくりも、『誰でもできるのにな』って思ってた?」



「あ、いや、その、先輩を恨んでたりはしないですよ?」



「思ってた?」



「まぁ、ええ」



「オレは、お前だから頼んだんだよ。

 お前じゃなきゃ頼まないよ」



「……」



「なかなかいないぜ?

 適当に仕事するヤツが多いってのに、

 ここまで正確に資料作ってくれるヤツ。

 他のヤツには頼めないよ。だったら自分でやった方がいい」



「……」



「(パソコンを見ながら) あー、やっぱりそうだ。ここの設定が間違ってるんだ」



「……」



「見てみろよ。このデータによると、うちの会社には社長が10人いることになってるんだぜ?

 そりゃ、数字が合わないはずだよ」



「……仕事、がんばります」



「おう。

 がんばれ」

(元の話はこちら)



○電話で(夜)



「結局、先週彼には告白したの?」



「ううん。しなかった」



「会ったんでしょ?」



「会うには会ったけど、別にそんな話も出ずに、

 私もせずに終了」



「あんなに『彼に告白する』って言ってたのにねぇ。

 そんなに合コンで会った男のことが気になる?」



「まあ、正直」



「そっかー」



「そうだよ……」



「合コンの彼とは連絡取ってるの?」



「ううん」



「え、なんで?」



「だって、番号知らないもん」



「番号知らないの? 合コンのときに聞かなかったの?」



「聞けないよー」



「聞けないよー、って、あんた」



「恥ずかしいもん」



「じゃあ、答えは出てるじゃん。

 合コンの彼が気になるけど、連絡先知らない、

 だとしたら、最初好きだった彼と付き合うしかないじゃん」



「別に無理に付き合わなくても」



「彼氏欲しいんでしょ?」



「それはそうだけど……。

 でもさ、

 連絡取れないってわかってるんだけど、

 そのせいで逆に気になっちゃうんだよね」



「合コンの彼のことが?」



「そう。

 あれだよねぇ。

 逃がした魚はでかいってことだよね」



「まだ合コンで会っただけなのに、逃がしたって言い方はないでしょ」



「じゃあ、逃がす前から」



「なんかもう、完全に合コン彼のことの方が、気になってるね」



「うん、もう、完全に気になっちゃってるよ……」

○ダイニングバー「F'Style」



「どうですか? 作家の調子は」



「まだ、作家じゃないよ。卵の卵だよ」



「今、作品作ってたりするの?」



「うん。一応。来月賞があるから」



「いいの、書けそう?」



「わかんない」



「頼りないなぁ」



「最近、悩んじゃって」



「スランプってやつ?」



「ううん。もう、そういうのじゃなくて」



「(座り直して) どうしたよ。聞くぜ? 話」



「ときどき雑誌とかに、有名人をインタビューした記事が載ってたりするでしょ?」



「あー、あるね」



「そういうのを読むと、大抵みんな、

 一生懸命夢に向かってがんばってるのよ」



「うん」



「『もう、オレにはこの道しかないと思ったから』とかいって」



「うん」



「あとは、

 『好きで好きでしょうがなくてやってたら、いつの間にか今の仕事についてました』

 みたいなやつとか」



「あるよね。そういう雑誌」



「私もね、小説書くことが好きなの」



「うん」



「でもね、一日中書いてることとかできないの。

 すぐに飽きちゃうの。没頭できないの。

 朝から書き始めて、気がついてたら日が暮れてたなんて、

 そんなこと一度もないの」



「そりゃあ、気分がのるときとか、いろいろあるんじゃない?

 オレはよくわからないけど」



「ときどき原稿から逃げ出したくなるの。

 やめちゃいたくなるの。

 楽しくないの」



「うん」



「それってさ、

 私は小説家になりたい、ってほど、好きじゃないってことなのかな?

 熱意が全然足りないってことなのかな?」



「うーん。そうとは思わないけど……」



「でも、私なりには一生懸命やってるのよ。

 書きたくないな、って思いながらも、

 机にしがみついて、1枚でも、1行でもってがんばってるの」



「うん。オレはすごいと思うよ。そういうところ」



「それでも、

 朝から晩まで没頭できない私は、

 好きじゃないってことになっちゃうのかな。



「……」



「……もう、わかんなくて。

 どうしたらいいか、わかんなくて」