(元の話はこちら)



○ダイニングバー「F'Style」



「昔、オレが大学受験したときさ、

 むちゃむちゃ頭悪かったのよ。オレ」



「うん」



「だから、ものすごく勉強したんだ。どうしても大学行きたかったから」



「うん」



「でも、ホント、勉強嫌いで。

 やるんだけど、やっぱりイヤだから体が拒否反応示しちゃって。

 髪の毛とかボロボロ抜けるんだぜ?」



「……大丈夫だったの?」



「なんとかね。

 で、無事、大学受かりましたと。

 するとさ、今思うと、しんどかったあの頃が、とても良い思い出のように思えるんだよ」



「良い思い出? なんで? 大変だったんでしょ?」



「うん。でも、あれのおかげでオレは大学に受かったんだよなぁー、とか、

 あれがあったから、今は多少の辛いことじゃへこたれないよなぁ、とか。

 大変だったけど楽しかったなって思えちゃうんだぜ?」



「そうなの?」



「だから思うんだけど、

 お前も今は苦しいかもしれないけど、

 これを乗り越えたら、『あー、がんばってよかったな』って思えると思うんだよ。

 『やっぱ、私小説が好きだ』って」



「そう、かな……」



「それによ。苦しんで、もがいて、書くべきだよ」



「どうして?」



「片手間で、鼻歌交じりで書いたような小説を、

 お客さんが『おもしろい!』って言って読むと思う?」



「それは……」



「苦しんで、もがいて、自己嫌悪して。

 それでも書き上げた作品だからこそ、読みたいって思うんじゃない?

 オレだったら、そう思うよ。

 だって魂入ってるじゃない。その作品には」

 

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「ちょっと気になったんだけど、

 あなたは彼女のことが好きなの?」



「んー、いや、好きだよ。そこは」



「昔の彼氏のことが気になったり、

 彼女にしてあげられることが少ない気がしたり、

 その気持ちはわかるけど、

 やっぱり仕方のないことじゃないかな。

 あなただって、今までいろんな経験をしてきて、今があるんだから」



「うーーん」



「もし、それがイヤだったら

 彼女を諦めて、恋愛経験のない子を探した方がいいと思うよ」



「……」



「そうしたら、相手の昔の彼氏のことで悩むこともないし、

 恋愛初心者の相手から見たら、

 一緒になって楽しめることはたくさんあると思うし」



「結局、オレは主導権を握りたいだけなのかな」



「うん。そう思うよ。聞いてて」



「はぁー、やっぱりそうか」



「主導権握りたくてもいいんじゃないの? 

 悪いことじゃないよ」



「そうかなぁ」



「しっかりと引っ張っていってくれる男の人なら、

 たいていの女の子は、ステキだなって思うと思うよ」



「でも、オレの場合、

 主導権を握りたい、ってのは、

 裏を返すと、オレ様に反論するなってことだと思う」



「オレ様かー(笑)」



「そこには、自信がないって気持ちが隠れてるってことじゃん?

 なんか情けねぇわ」



「そう?」



「彼女相手にオレ様な態度とって、

 それで自分の自信を保つなんて、

 情けねぇよ」

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「まあ、いいや。

 で?

 ラブホでマネージャーと一緒に寝て、朝は一緒に出勤しましたと」



「違うよ。まだラブホだよ」



「だって、やる気じゃないんだろ? お互い。

 じゃあ、寝るでしょ」



「だから、寝ようとしたら、

 私の横にマネージャーの筋肉質な体があるから、

 つんつん触ってたんだってば」



「それで?」



「そしたらマネージャーが、

 『そういう風に触られてると、だんだん変な気持ちになるんだけど』

 って言ってきて」



「まぁ、そりゃなるだろうな」



「やっちゃいました」



「は?」



「だからエッチを。その流れで」



「してるんじゃねぇかよ!!

 結局!!」



「する気はなかったんだけどなぁ。

 しまったなぁー。

 なんかもう、そんな流れになってたからなー」



「その流れを作ったのはお前じゃないか」



「だって、お酒飲みたかったら誘うでしょ?

 目の前に筋肉があったら触るでしょ?」



「はいはい」



「仕方ないのよ。これは」



「別にイヤじゃなかったんだろ?

 マネージャーとHするの」



「うん。

 私は、あんまりそこにこだわりがある人じゃないから」



「じゃあ、いいじゃん」



「ただ、妻子持ち、ってのがさー。

 そこだけは相手にしないって決めてたのに」



「でも、その日から不倫が始まったわけでしょ?」



「ううん」



「え?」



「とりあえず寝ちゃったから、不倫っちゃ不倫なんだけど、

 ほら、法律でも継続性がないと不倫だって断定できないらしいよ」



「ああー、うん」



「それからは、今まで通り仲の良い上司と部下でいたもの」



「……続きがあるでしょ? この話」



「うん。もちろん」

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○創作料理屋「てっか」(夜)



「なるほどねー、

 どうせイヤな部分が見えてくるってわかってて、

 彼氏探す気もしないってか」



「いい人はたくさんいるのよ。

 好かれもするし」



「わおー。さらっと言うなあ。もてる人は違うね(笑)」



「おかげさまで」



「だけど、そのいい人も、付き合っていくうちに

 イヤなところが見えるようになる」



「そう。

 『いいな、この人』って思っても、

 『でも、イヤな部分もあるんだろうな』って思うと、

 ふっと冷めちゃうのよね」



「だけどさ。

 人間誰にだって、良い部分、悪い部分あるもんじゃん?

 誰にでも。

 もちろん、お前にも」



「うん」



「それはわかるんだよな?」



「うん」



「じゃあ、イヤなところはあるものだ、って思って

 受け入れるしかないんじゃないか?」



「んーー。

 うーーん。

 その理屈はわかるんだけどさー」



「ていうか、そういうイヤなところを見せられても、

 それでも好きでいられるかどうかが大事なんじゃない?」



「うーーん……」



「オレの彼女なんかさ、

 すぐに頭に血が上る人でさ、

 しょっちゅう『ムキーッ!!』ってなってのよ。

 気に入らないと、八つ当たりしてくるし。

 オレは、そういうところ嫌いなんだわ」



「うん」



「でも、それ以上に良いところもたくさんあるわけよ。

 結構気が利くし、素直に甘えてくる子だし。

 だから、イヤな部分も受け入れて、

 オレはずっと一緒にいたいなって思うんだ。

 わかる? こういう考え方」



「なんかおかしい」



「おかしいことないだろ」



「おかしいよ。

 それってホントに嫌いな部分なの?

 嫌いなのに、なんで受け入れられるわけ?」



「なんで、って、そりゃ他に良いところがあるからだよ。

 今、言っただろ」



「つまり、デメリットがメリットを上回ったから、

 プラスマイナスでプラスになるから、ってこと?」



「そういう夢のない言い方やめろって(笑)

 要は、嫌いな部分も含めて好きになれってことだよ」



「私にはわからない。

 嫌いな部分は、『嫌い』だから、嫌いなわけで、

 なぜ、そこを好きになれるの?」



「好きにならなくてもいいけど、

 ほら、なんつーか、受け入れるっていうか」



「私は好きなところがあるから、その人を好きになる。

 でも、その人の嫌いな部分まで好きになる自信はない。

 そもそも、

 嫌いなところなのに好きになれるなら、

 それは『好きな部分』なんじゃないの?」

○創作料理屋「てっか」(夜)



「そんなに彼氏欲しいなら、オレの友達紹介してやるよ」



「うーん。それはいいや」



「だって、バレンタインまでに作るんだろ?」



「それは調子乗って言っただけだし」



「はっきりしねぇなぁ。

 欲しくないなら欲しくないで、通せよ」



「や、欲しいんだよ。

 やっぱ一人寂しい夜もあるわよ」



「お前見た目はいいんだから、その気になれば

 すぐ作れると思うぞ」



「わかってる」



「わかってる、言うな(笑)」



「でもさ、今まで何人かと付き合ってきて思ったんだけど」



「なに?」



「最初は好きなのよ。相手のことを。

 ああ、この人だって思うの。

 でも、付き合っていくうちに、相手のイヤなところとか、

 好きになれないところが見えてくるでしょ?」



「そりゃあ、誰だって、そういう部分はあるよ」



「そうすると、どんどん冷めていっちゃうの。

 100年の恋も、っていうかさ。

 あー、なんかこの人違うかもって」



「あー、なるほどね」



「わかる?」



「わからなくもない」



「だから、次に好きな人ができてもさ。

 また、同じようになるんだろうなって思っちゃうの」



「そういうことか。で、彼氏作れずにいると」



「もったいないよねぇ。

 花の命は短いっていうのに」



「何? 花の命って」



「……男にわかるもんか、この気持ちが」