第九話 スケルツォの叙情詩 | 炊き込みホビー倶楽部

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現在自主制作アニメ製作中。

「気が付きましたか、スケルツォさん・・・」

「うっ、なんとかな・・・56は!?」

「どこかに連れてかれて、今追ってるとこよ」

「そう、なのか・・・」

サムライ号はアナログワールドの上空をさまよっていた。



「あの・・・聞いてもいい・・・?」
「なんだい、マドモアゼル。」
「スケルツォさん、あなたは、いったい誰なの?仮面なんか、かぶったりして・・・」
「・・・ああ・・・僕は、実は・・・」
「うん」

「・・・・・・人間じゃないんだ・・・」
「えっ!?」
「僕は、本当は、歌を歌うためのソフトウェアなんだ。」
「それ、もしかして・・・」
「VOCALOID!?」
「それって、初音ミクとかの!?」
「ああ、そうだ。僕は、男性のVOCALOID。」

するとスケルツォは急に声を子供のようにし、
「声を変えるなんて―」
そして今度は野太い声にし、
「お手のものだ」


スケルツォの話は、こうだ。

スケルツォはかつて、VOCALOIDの一人であった。美声であったがあまりに高価だったため、、なかなか売れなかったらしい。スケルツォはある金持ちの少年に購入され、パソコンに住んでいた。少年は姿も顔もない自分に、学校のことを話したり、励まして欲しいと泣きついたという。

スケルツォは、画面の外に出て少年を直接励ましたいと思うようになった。
スケルツォは方法を探してネットの世界をさまよい歩いた。
すると、ある男とネットの中で会ったという。

「トキオだ」

「トキオ・・・!?」

トキオは、形のないスケルツォに機械の体を与えると言ったという。
「トキオが、あなたに体を与えたというのか!?」

トキオは、腕のいい、いやもっと言うと天才的な腕を持った、機械工だったという。
見た目には人間にそっくりなうえ、食事すらできるロボットの体をスケルツォに与えた。
スケルツォは少年に会いに行き、たくさん話をした。
スケルツォは遠くの郊外の空き地に住み、いつもはネットで、時には友だちとして少年のうちに遊びに行く事にした。
何年も何年もそれは続いた。
少年には人間の友だちができ、スケルツォも一緒に遊んだ。
しかし、少年はどんどん成長する。
しかし、スケルツォは、いつまでも若いまま。
きっと、彼の友人は自分に疑問を持つだろう。
自分が何者か話す?
少年にはもう友だちがいる。あえて、自分がいつまでも一緒にいる必要はあるのか?

少年は、家にいるより外にいる時間のほうが長くなった。
スケルツォは、少年の成長を見届けると、静かに少年の元を去った・・・

「僕は郊外に今も棲んでいる。僕は年を取らない男だ。だから、不審がられぬように仮面をかぶったんだ。そして、声を変え、名前を偽り―」
「いや、それも充分不審ですよ」
「え」
「都市伝説の、山奥に仮面怪人が住んでるってやつ、もしかして・・・」
「僕、そんなに有名だったのか・・・」

「俺たちに会ったあと、この世界にきても仮面をかぶっていたのはなんでなんだ?あなたを知る人はいないだろうに」

「あれは、」
スケルツォは何か言おうとして、再び口を開いた。
「・・・そういえば、郵便受けの彼は。彼はどこに行った?」
「あ!いない!?」
いつからだろう、サムライ号の中にポストさんがどこにもいない。
「彼は、知らないんだな・・・?」
「なにを、です」
「彼は、感染している・・・」
「何・・・!?」
「デジタルワールドに住む者が放ったウイルスにな」

「彼は、元々アナログの国の者だ、しかしそれにしては彼、現実世界のポストだった時の口調が抜けていない。どこか、ぎこちなかったはずだ。」

「ああ、」

確かに、機械のような敬語が抜けきっていなかった。

「あいつは、本人も知らないうちに、現実世界のポストのコンピュータを通じてコンピュータウイルスに感染しているんだ」
「なんですって・・・」

「僕がさっきまで仮面をかぶってたのは、ロボットである僕の頭脳コンピュータをウイルスから守るためだ。でも仮面が割れた今、僕も、どうなるかわからん。」

「それで・・・」


「俺と同じ国の者が迷惑をかけている話は何回も聞いた。56が変になったのも、きっと彼らの仕業だ・・・急いで、ポストを探さないと!!」

「待ってくれ、この中には、頭にチップの入った人はいないはずだ、コンピュータの入っているポストはまだしも、なんで人間の56が!?」




        つづく・・・





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