第八・五話 ちょっと、昔の・・・話。 | 炊き込みホビー倶楽部

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ヴァーチャルマニアのブログ。
現在自主制作アニメ製作中。

「俺はこの工場に住んでるんだ。」
「へぇ。変わってるね。でも楽しそう。」

あんずとはそうして出会った。
一年前の12月のことである。



工場を訪れた少女は、工場の中でサイバーゴスの男と出会った。
頭に鎖を巻き、顔に56とペイントされた男を見ても、彼女は動じない。

彼女は、その後なぜか何度もこの工場に来るようになった。

17歳くらいの女の子が、この工場地帯に、何をしに来たのか。
それは、誰にもわからない。
ただ、彼女はたびたび平日昼間に、制服で来た。


56も最初は彼女のことをうっとおしいと思ったが、
そのうち、何気なく缶コーヒーをさり気なく机に置いていた。
彼女は工場に来て、夕方までなにもしないで、そのまま帰る。
その繰り返しであった。


12月24日。
100年後でも、この日、赤い服のおじいさんはプレゼントを届けていた。


「メリー・クリスマス、五十六君。」
「お前、クリスマスならもっとやることあるんじゃないのか」

今日は、あんずは夜までいた。

夜は更け、工場に光が灯る。

彼女の綺麗なオレンジ色の髪はキラキラと光る。

「綺麗だなぁ」
「わたし、もっときれいな光、知ってるよ!」
「工場より綺麗なんて、んなの、あるわけ、ない。」
「こっちだよ!」

あんずに袖を引っ張られ、56はいつの間にか電車に乗せられていた。
着いたところは、今で言う後楽園・・・100年後では「ザ・ビッグエッグシティ」である。
そこの東京ドームシティに、その光とやらはあった。
悔しいことは、あまりのきれいさに呆然としてしまったことだ。
「どう?きれいでしょ」
「ああ。特に、あの緑色の部分がいいな。」





二人は、東京タワーを眺めていた。
「東京タワー、もうすぐ取り壊されちゃうんだよね。」
「なんだ、あと一年三ヶ月後の話じゃないか。それに、反対の声も多いし、中止じゃないか?」
「でも、壊されると嫌だね・・・」


「東京タワーの明かりが消えるのを二人で見届けると」
「ああ、なんだっけ?」
「わかんないけど、なんかいいことがあるんだって」

「そっか、じゃあ見よう。」
「あと3分ね」

「ねえ、五十六君。」
「なんだ?」
「わたしね・・・引っ越すの・・・」
「え・・・」



「どこに?」
「・・・九州!・・・・・・長崎。」
「そっか・・・・・・」





「長崎か・・・」
「ねえ、あと1分よ。」
「ああ、そう、だな。」





東京タワーのライトが消えた。
ずっと灯りを見ていたから、一瞬何も見えなくなる。
「ねえ五十六君!」
「ん?」
何も見えない五十六の唇に、もう一つのくちびるが重なりあった―――









       つづく・・・・・・・









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