相も変わらずこのオフィスは電話が鳴り響いている。
当初は電話の呼び出し音を夢で見ることもあったが、今となってしまっては仕事をこなす上でのBGMでしかない。慣れとは怖いものだ。
今日はさほど忙しくない。僕のところにも負荷がかかる案件は回ってこない。
もちろん苦情ばかりではあるが、所詮パターンだ。まとまった規模のものはもちろん会議にかけるが、会議にかける以前のものばかりが普通だ。
彼女もこのごろは処理数も伸びて力をつけてきている。
何か困ったことがあれば必ずといっていいほど僕に意見を求めてきた。
「木崎さん、この案件なんですけど、どういった言い回しがいいですか?」
「あ、木崎さん。
先ほどの案件ですが、木崎さんの言うとおりにやったら無事納得して頂けました。」
「木崎さん?今、お時間よろしいですか?」
……………。
このとき、僕は現場で既に最終ポイントの対応を任されるところに居たわけで。基本的に相当重たいのがこない限りは事務仕事中心だ。
この部署にいて、僕は相当殺伐とした雰囲気を持っていたらしい。哲ですら仕事中の僕には話しかけたくないと飲んだときに打ち明けられたぐらいだ。こんな僕に彼女はめげずに相談に来る。
ときに煩わしさは確かに感じていた。自分の仕事が止まるのを僕はひどく嫌だったからだ。
だが、彼女に接していく中で次第に、どこと無く緩んできている自分を感じていた。
いつの間にか、彼女の質問にすら親身に答えている自分がいた。この雰囲気が好きだった。
なんともハッキリした口調の中に、どこと無く甘えたような調子を持つ彼女の声が、僕は好きだった。それでいてさばさばしていて、言うことは理路整然としている。口を開けば、熱い心の持ち主だった。仕事においては彼女は僕が最も信頼を置く人物であった。
ただ、彼女は誰よりも女の子であった。
僕はそんな彼女を知らなかった。
そして誰より知りたかった。