ここは深夜のレンタルビデオ店。

いらっしゃるのは夜の世界の住人の方々。


続かないと思ってたのになぁ。世の中そんなに甘くないって事か?これは。。。


相も変わらず、レンタルと返却と検品と棚戻しをずっと繰り返している。

おっかしいよな。いいのかね?この生活。


おいおい。ちょっと待てよ。

俺って今年28だよな?世間一般ではそろそろガッチリ足元固めていく時期だよな?

一応社員は社員だけど、バイトの延長みたいなもんだぞ。

いいのか?俺の人生っ!!



「せんぱ~い…」



おや、心配しすぎてどうやら幻聴が聞こえ出したようだな。いかんいかん。



「せんぱ~い…せんぱ~い」




それとも寝不足か?何でこんなに働いてんのに給料安いんだよ。。。





がすっ!!




「…てめぇ…。何殴ってやがる…。」




いいか。俺は大人だ俺は大人だ俺は大人だ。手は上げない手は上げない手は上げないぞ。





「だって先輩全然俺の話し聞いてくれないんですもん。」


「何で俺がお前の話をにこにこにこにこ聞いてやらにゃあかんのだ?」


「それは先輩が俺の先輩だからですよ!」



コイツはホントに。。。

他のヤツなら「しかたねぇなぁ…」とかなると思うが、こいつの場合は滅殺したくなるなマジで。

半ば握り締めすぎたこの右腕の行き先はお前の左頬でイイデスカ??



「せんぱ~い。彼女から全然連絡こなくなったんですよ~。しかも1週間会ってないんですよ!」




「だから??」




「え?」




「だから?それだけか?」




「え、まぁだから寂しいなぁって。」




「そうか。残念だったな。俺は一切寂しくない。つらいと思うが頑張ってくれよ!」




ぐったりしたところで俺は検品に戻る。

正直なところこのやり取りはもはや何回目なのかもわからない。

コイツはその娘に会えれば会えたでデレデレデレデレとノロケ話を聞かされ、

ほんのちょっと会えないとか、メールが来ないだけでその愚痴を聞かされるわけだ。

コイツは俺の女房か?女房なのか?



悪いな。俺はお前だけは愛せねーよ。



「先輩ひどいっすよ~。少しは傷心の後輩を救おうとかいう気持ちはないんですか~?」



「悪いな。俺は全く進展のない見込みが薄すぎる、もしくは進展すら望めない力量の男を甘やかす趣味はないんだわ。付き合いたいなら勝手に頑張れ!よろしくっ!」



呆然としてやがる。このやろう。



「おい。呆けてる暇があったら手を動かせ。この量を朝番が来る前に片すんだからな。」



作業テーブルの上には積み重ねられたDVDとビデオテープの山。

それに加えて続々と返却に来る客。カウンター裏に溜まっていくDVD達。

もう見るのもウンザリしてきた。

その上でこいつのヨタ話なんぞ聞いてる余裕なんてない。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



外の空が白んできたようだ。今日の勤務時間もあと1時間だな。


ここは朝の5時に日付切り替えとなる。

そのため期限ギリギリまで借りてた奴らが必死こいて返却に来る時間。

今はそれも終わって当日の売上管理のために一旦レジを閉じてデータをPCに移している。

まぁ、マニュアルに従ってるだけだから俺もよくわからねーけど。


さっきから後ろでぶつぶつ言ってるクソガキは置いといて。。。

店長も来たことだし俺は帰るか。





事務室でさっさと着替えて、バイクを取りに向かう。

出掛けに一服しようとタバコに火をつけた瞬間、目の前に女の子が出てきた。



「あの~、すみません。ここの店員さんですよね?」



「…えぇ。そうですけど。どうなさいました?」



「えっと…。深夜に入っているバイトの子ってもう仕事終わりました?」



「あぁ、あいつの友達ですか?なんなら呼んできますけど?」



「あ…いや…あの、違うんです!!待ってるわけじゃなくてDVDを…」




ん。。。この反応。。。この雲行き。。。

俺はまた面倒に巻き込まれる予感がする。。。



「あれ!?梓ちゃん!どーしたの??」



びくっとしたその娘は俺の後ろに隠れるようにしてしがみ付いた。



「…先輩。…どーいうことですか?」




おいおい…。勘弁してくれよ。。。

ガキどもの痴話喧嘩に俺を巻き込んでくれるな。。。

俺は一服したらさっさと帰って寝てーんだよ。。。



「あんたには関係ないでしょ!!この人は私の大事な人なんだから!!」



ポカーン。。。

何言ってんだ?このガキは。。。

あ~あ、俺に安住の地はないわけね。






ここは深夜のレンタルビデオ店。

いらっしゃるのは夜の世界の住人の方々。

ここは深夜のレンタルビデオ店。

いらっしゃるのは夜の世界の住人の方々。


俺は学生時代にここでバイトをしていて、就職難に見舞われたことを不憫に思った店長に雇われた、いわゆる社会のはみ出し者。今日も検品、昨日も検品、明日も検品。。。


「先輩!俺、やりましたよ!」


元気に話しかけてくるバイト君。大学生、まだ10代。

先日大学で一目惚れをしたらしく、その相手のことをひたすら話してくる。

現物見てねーんだから、俺は楽しくもないんだが、わかってるかい?少年?


「で、何をやったって??」


「ようやくアドレスゲットしましたよ~!帰る時間帯調べて待ってた甲斐がありましたよ~!!」


ほぅ…。待ち伏せとな。。やるねぇ、少年。


「へ~、やったじゃん。早速メールしたんだろ?」


「あったりまえじゃないですか~!いや~、やっぱりかわいいっす~!」


おいおい、お前が話してくるからこっちは合わせてやってんだぞ…。。。大体俺は顔知らねぇ。。。


「もう、絶対渋谷とか歩いてたらスカウトされますね!足とか超色っぽいんですよ~!!」


さいですか…。。。


「あんな美人とヤッたらさぞや気持ちいいんだろうな~…」


おいおい…、既に話はそこかよ…。こえーよ、10代の性欲。


「つーか、そんなに美人だったら彼氏ぐらいいるんじゃねーの??」





ガタンッ!!!!


おいおい、新作のDVD傷つけんじゃねーよ。。。


「先輩!何でわかったんですか!!」


こいつ、そのリアクション本気かよ。。。


「そうなんですよ~、いるんですよね~。遠距離らしいんですけど。ま、俺が奪いますからどーでもいーんすけどね!」


どっから出てんだ、その自信はよ。。。



「いや、でもさ。そんなに美人だったら他の男も放っておかないんじゃないの?」


「そうなんですよね~、まぁ俺の女に手は出させないんでっ!」


おいおい、アドレス聞いただけでお前の女かよ。。。平和に出来てる頭だな、おい。。。



「まぁ、頑張ってくれ。とりあえず検品終わったヤツ片してこい。」


「了解ッス~!!」




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ここは深夜のレンタルビデオ店。

いらっしゃるのは夜の世界の住人の方々。


俺のこの店での楽しみといえば、どんなヤツがどんなAVを借りていくのかを観察するぐらいだ。


案外、びくついてキョドってるヤツのほうが結構エグイのを借りてったりするんだよな。

ガテン系はまさに見た目そのままな趣味だし、ホストはへんなフェチがあるヤツが多い。

たまに女の子が借りてく。悪いね、レジ女の子じゃなくて。しっかりチェックしてるよ、俺は。


なんか背後からとんでもなく重い空気が漂っているんだが…。


「先輩~」


ほう…、俺も空耳が聞こえるようになったらしい。


「ね~、先輩~」


猫でもいるんかな?まぁそのうち出てくだろ。。。


「聞いてくださいよ~」


やかましい!!!!




「なんだよ。そんなに負のオーラ漂わせて。おい、近寄んな!負がうつる!!」


「うわ~、先輩ひでーな~。彼女から返信返ってこないんですよ~。」


知らねーよ、そんなん。よくある話だろ。俺だってこないだ送ったメールの返信なんてねーよ。


「なんか、結構ノリノリで弾んでたんですよ~、会話も。そんで、こんなメール来たんですよ。」


そういって差し出された携帯には、(私がいないぐらいで残念がらないで。昨日頑張ってたせいか疲れて首が痛いな。)とある。おいおい、他人にメール見せるってどうなんだよ、少年。


「いや~、昨日休んでたんで残念だなって送ったんですよ。そんでこのメール来たんで、じゃぁ、マッサージしてあげるって送ったんですよ。そしたらぱったり返ってこなくなったんですよね。」


なんで、会って間もない男に首マッサージされんだよ、その子は。。いやいや、そのバイタリティーというかリビドーの強さは認めるよ、少年。


「それ、やりすぎじゃない?」


「やっぱそうですか!!でもでも、他の女の子にはこれで通じてマッサージしたんですよ!」


おいおい、お前にとって女は全員一緒か…。そういや、こいつキープが何人とか言ってたな。の割には頭わりーな、おい。。。


「ま、彼氏持ち相手だったらつかず離れずぐらいが理想だろ。」


「でもでも~…」


「好きにしろよ。AV棚に戻して来い。」


「はーい…」




俺、ここで夜任されるようになってから、


AV借りるヤツの観察と、恋に恋してるバカの話しか聞いてねーけど。


いいのか、まだ若いのに…。






ここは深夜のレンタルビデオ店。

いらっしゃるのは夜の世界の住人の方々。


このお話はまだまだつづ…かない。

限りなく痛めつけるように、それでいてしなやかに、出来る限り強く爪を立てる。

耳元で小さな呻き声が聞こえる。


聞こえないフリをして、またシンボルをなぞる。

じっくりと、気が遠くなるほどの時間をかけて。


ざわめきが遠のいていくと共に、周囲の景色さえ視線の向こうに収束していく。

ただ、静寂の中に脈打つ心臓の音が聞こえる。


微熱を帯びた額を押さえながら、木目調の天井を仰ぎ見る。

ちょっとだけ目眩がする。


心をそこに置き忘れるほどに、強い力でまた引き戻される。

俺はまた、生暖かいうねりの中に飲み込まれていく。


深く


深く


意識の外で、口の中まで思いの丈が入り込んでくる。

今は言葉を紡ぎ出す必要は無いのだろう。だから代わりのものを紡ぎ出している。


単調な波の中で、これ以上ないほどに力を込める。

今まで、微かに聞こえていた耳元の呻き声は、急に叫び声に変わる。


俺のそのときの顔は誰も知らない。


普段のペルソナの奥に潜む本当の自分。





潰れかけた箱から、最後の一本を取り出してマッチを擦る。

火薬の匂いに包まれて、いつもより深く吸い込む。


吐き出された青白い煙。


その向こうで、焦点の定まらない視線を現実の裏側へ向けながら、

脈打つシンボルが横たわっている。



どうせ、お前も知らないんだろう?本当の俺の顔を。