ラストサポート 協栄ジム 「最後の試合」 | BOXING MASTER first 2006-2023

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輪島功一選手の試合に感動、16歳でプロボクサーを志し、ボクシング一筋45年。ボクシングマスター金元孝男が、最新情報から想い出の名勝負、名選手の軌跡、業界の歴史を伝える。

大竹マネジャーを通じ、協栄ジムから『契約解除』が言い渡されたのは、5月3日、タイで佐藤洋太(協栄)選手がWBC世界Sフライ級王座から陥落してからまもなくの5月下旬。


「辞めろと言われたら仕方ないですよ」


3月31日、神戸サンボーホール。帝里木下(千里馬神戸)選手の持つ日本Sフライ級王座挑戦に敗れ、引き上げる白石豊土(協栄)選手は、コンビニの袋に氷を詰めた即席の氷嚢で冷やした右足首を引きずりながらのよろめき状態。


会場出口では帰られるお客さん一人ひとりに千里馬啓徳会長が、「ありがとうございました」と感謝の言葉を伝えていた。


「興行師ですねェ」


「立派だよ!」


「お前、大丈夫か?」。千里馬会長が白石選手に声をかけてくれた。すかさず大竹マネジャーが、「大丈夫ですよ。会長、ありがとうございました。また何かあったら、呼んでください」。


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白石選手が痛めた右足首は、アキレス腱付近の亀裂骨折と診断された。休養の後、練習は再開したが、それは健康のために体を動かす程度。そんな時、ジョー小泉氏からメキシコ遠征の話しが来た。6月30日・メキシコシティで世界ランカー、ホセ・サルガド(メキシコ)の持つ北米王座に挑戦するというものだ。


「白石はやるって言ってるけど、金元さん、メキシコ行けるのか?」


「いや、20日(6月)までですから。辞めときますよ。仕事もあるし」


「これが最後なんだから、一晩よく考えてみなよ」


「最後か」。一晩考えた末に、大竹マネジャーに「お願いします」と伝える。白石選手をはじめ、他の選手、トレーナーには辞めることは何も伝えていない。さて、気になるのは白石選手のウェイト。「お前、体重落ちるのかよ?」。


「今度ばかりはやってみないとわかりません」(^^ゞ


試合まで3週間ちょっと。ジム奥にある一角を特別製のカーテンで遮断し、暖房を目一杯にかける。室温も上がるが、空気も薄くなり、メキシコだからちょうどいいかという環境で、ひたすらミット打ちの毎日が始まった。


それでも右足には負担をかけるわけにもいかずで、ウェイトは思ったように落ちない。食事カット、水分だけでは代謝が悪くなり、余計汗が出ない逆効果。これでは落とせない。ヨレヨレの毎日を送るだけだ。


「白石、食べなきゃダメだよ。まだ時間あるんだから、しっかり食べて、動けるようにしないと。代謝をよくしてやったら、ちゃんと落ちるから」


大竹マネジャーが長年の経験でアドバイス。「とにかく、言われた通りにやってごらんよ」。他に方法がない。頑固者の白石選手も、これには素直に従い、少し元気が出て、汗が出る量が増えていった。


「最後はメキシコシティで2日あるから」などと算段を踏んでいたら、試合地がグアダラハラになったと聞かされる。そして出発間じかになって、「車で1時間のアパッチンガンらしいよ」となった。


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日暮里駅のスカイライナー乗り場に現れた白石選手はヘロヘロ。「白石、新田さん(川崎新田ジム勢)もいるんだから、みっともないところ見せるなよ。元気があれば、何でも出来る!」。大竹マネの言葉に返す返事もうつろな白石選手。


とうとう成田空港では座り込んでしまった。運悪く、その横を川崎新田勢が追い越していく。遠い先から大竹マネの鋭い視線。これはマズイ(;^_^A。なんとか最悪な展開を乗り越えアエロメヒコの直行便に搭乗。かなり座席は埋まっていたが、うまく横になれるスペースを確保。これも「早いもの勝ち」の経験が活きた。


試合は勝ちにいって、強打のサルガドに捕まってしまったが、「白石、お前の人生でこんなに写真せがまれることはないぞ」というほど、試合後、メキシコ人は喜んでくれた。


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「お前、ここに残った方がいいんじゃないの」('-^*)/


帰りは夜食用に用意されていたカップ麺、おにぎり、サンドイッチもたらふく食べて、長いフライトを楽しんだ?白石選手。7月3日早朝、成田空港に帰って来た。


JR日暮里駅。川口へ帰る私と、新宿方面へ向かう白石選手とは同じホーム。山手線が入って来た。


「先に行っていいよ」


「次で行きます」


最後まで言うのは辞めようと思っていたが、白石の顔を見たらここで言おうと思った。


「俺、協栄辞めることになったから。自分から望んだわけじゃないけどね。仕方ないよ。まだ若いんだから、自分の目標に向かって頑張れよ!」


帰宅後、白石からメールが来た。


「この3週間、最高の舞台に最高の状態で送りだそうと、毎日ミットをもっていただき、ほんとうにありがとうございました。18歳で上京し、今日まで丸9年です。プロになって8年。辛い練習、減量に耐えることができたのも金元先生のおかげです。ほんとうに、ほんとうにありがとうございました」


この言葉だけで十分満足。こちらこそ、ありがとうという気持ちです。o(;△;)o

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