1978年8月29日後楽園ホール。メインエベントは、中島成男(ヨネクラ)vs 金 煥珍(韓国)の10回戦。半年前、老雄バーナベ・ビラカンポ(比)に敗れ世界戦線から一歩後退していた中島選手は、再起第2戦目。対する金は、プロキャリア1年を過ぎたばかりで6勝(3KO)1分という戦歴。まだ10回を戦った経験はない。
ホール4階控え室には出場予定に入っていない選手が一人。複雑な表情で、ウォーミングアップに入っていた。全日本新人王を獲得したばかりの伊波正春(カワイ)選手がその人である。
韓国から来る予定の金の姿はまだない。
ビザの発給に手間取り、試合当日の計量はソウルの韓国コミッションで済ませ、そのまま後楽園ホールを目指しているはずである。プロモーターは、メインエべントに穴が空くことを恐れ、急遽伊波選手にピンチヒッターを要請したのだった。
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伊波選手はデビュー以来7連勝(2KO)無敗。まだ8回戦を1試合経験したばかりだったが、中島選手を喰って一気に上位進出を果たそうという魂胆である。
元世界王者とはいえ、ロートルと見られたビラカンポのボディブローでキャンバスに崩れていた中島選手。ボディが弱点。伊波陣営の河合会長は自信満々。勝つ自信が大いにあるからこそ、無敗のホープをホールに連れてきたのだ。
出番を待つ控え室。選手にとっては、「いやな時間です」。
試合をするのか、しないのかわからぬ伊波選手の胸中は、さぞかし複雑であったと想像される。
韓国を出国したが金が後楽園ホールに滑り込んだのは、最終決定まで後30分というタイミング。金の到着を知った伊波選手の本音は、ホッとしたのか残念だったのか。
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ホールの観衆は、てんやわんやの舞台裏を知る由もない。すぐさま着替え、支度を終えた金はあわただしくリングへ向った。
そして、試合。
朝からあわただしい1日を過ごした金が、判定で中島選手に勝ってしまった。まったくもっての大番狂わせである。ウェイトのきつい中島選手は夏場が苦手だったのかもしれない。
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試合を見た伊波選手の胸中やいかにである。
金は連勝を続け、具志堅用高(協栄)選手からWBA世界Lフライ級王座を奪っていたペドロ・フローレス(メキシコ)を降し世界王者になる。この試合の3年後のことである。
一方、敗れた中島選手も、1ヶ月半前に決まった80年正月の代打世界タイトル戦出場のチャンスをものにし、絶対不利の予想を覆し、 金 性俊(韓国)を破りWBC世界Lフライ級王座に輝いた。
あの日の後楽園ホール第3の主役、伊波選手は世界挑戦のチャンスには恵まれるも、チャンピオンベルトには届かずじまい。あの日、伊波選手がリングに上がっていれば・・・。
チャンスの女神は、気まぐれですね。