坂田健史・再起宣言・師匠の心中 | BOXING MASTER first 2006-2023

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輪島功一選手の試合に感動、16歳でプロボクサーを志し、ボクシング一筋45年。ボクシングマスター金元孝男が、最新情報から想い出の名勝負、名選手の軌跡、業界の歴史を伝える。

1月26日月曜日。練習も終わった。時刻は9時を過ぎようとしている。

「やっぱりトラッシュの時の様に、大竹さんから言った方がいいんじゃないですか」

「世界チャンピオンになった男にそうは言えないよ。自分で決めなきゃダメだよ」

02年4月30日。若き日本王者坂田健史(協栄)選手は、天才と謳われたトラッシュ中沼(国際)選手に敗れ王座を失った。試合後、池袋の後援会”路草(みちくさ)”を目指す間言葉はない。初めての敗北、王座を失った焦燥感。世界チャンピオンへの道が途絶えた現実。

「坂田、泣くな」と暖かい後援者の皆さんは声を掛けてくれた。

22歳の若者に大竹マネジャーは言った。「トラッシュともう一度、やるぞ!」



3ヶ月弱での再起戦に勝つ。翌年のチャンピオン・カーニバルでの挑戦権を手に入れる為には、ランキングを落とす訳にはいかない。中沼選手への再挑戦はボクサー人生を賭けた大きな一戦だった。

「中沼君に雪辱出来なければ、世界なんて言ってられないよ。だけど、坂田にはつらい1年だったと思うよ」

「だけど朝青龍も凄いな。モズリーだって37歳だもんなァ」

「キャリア16年ですからねモズリー」

「凄いよなァ。坂田、今頃なに考えているのかなァ」

大竹マネジャーの携帯の呼び出し音が鳴る。

「案外こういう時、坂田だったりするんだよな」(~~)

「坂田だよ!」

ドキッ。予期せぬ出来事に、一瞬のうちに笑いが緊張へ。

「はい、デンカオセーンです。今ちょうどサンちゃんの話してた所だよ。何か用事ですか」(~~)

「もう一度世界チャンピオンになります!」

決意。”死ぬ間際になって後悔したくない”は、いかにも坂田選手らしい。



「10年間、毎日積み重ねて来た事を無駄にするなよ。それはあなたの財産だよ。もう一度、チャンピオンなりましょう」

大竹マネジャーも実に嬉しそうだ。この言葉をずっと待っていた。

「タイミングは仕方ないけど、あそこ(側頭部)に貰ったのはアクシデント。負けたのは俺の責任だけどな」

ハワイの伝説のトレーナー、スタンレー・イトウ 先生にもテープを送り感想を伺っていた。「そうか、イトウ先生もそう言ってくれたか」。

「打たれたの上原(康恒)と同じネ。すこし休んで、またやればいいよ」

ブログ未更新をたしなめた大竹マネジャー。いつもなら動き始める時期になっても連絡はない。「なにやってんだろうなァ」苛立ちは隠せず、その想いは募るばかり。「お前電話して坂田に言ってやってくれよ」師匠の心中は察するに余りある。

2階道場では2度の王座カムバックを果たした輪島功一(三迫)選手のビデオを連日流す。選手、練習生、女子会員に至るまで、その意味することは感じているように思えた。坂田再起初練習終了後、後楽園ホール控え室で輪島会長に遭遇したのは縁起がいい。(~~)



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相当な覚悟で世界王座奪還という新たな目標に挑戦する坂田選手。しかしそれは、師匠にとっても同じだ。「三迫の夢は俺の夢」と公言してはばからなかったのは、野口一門の創始者”ライオン”野口 進 会長。己の全てを持って指導にあたっておられたと聞く。

三迫仁志(現三迫ジム会長)選手が、3度目の日本王座に挑戦する際、短刀をしのばせていたという野口会長。それは、腹を切る為に・・・。

「三迫は2度負けてるんだ。3度目の今度三迫が負けたら、もうこれは俺の指導が悪い。先輩やファンに対して申し訳ないから、俺がリングの上で腹を切ってお詫びする」

”ライオン”野口ならやりかねない。この気迫が通じたのか、三迫選手は3度目の挑戦をモノにし日本王者となった。この野口会長の勝負に賭ける執念は、協栄ジム先代金平正紀会長へ、そして、大竹マネジャーにも受け継がれている。 故野口会長の月命日には、先代会長に連れられ野口家をよく訪ねたという。



昭和37年野口ジムから初の世界フライ級王座挑戦が決まった野口 恭 選手(野口氏次男・右)。中央は野口選手の母堂里野さん、左は 恭 選手とは同学年になる金平会長の秘蔵っ子海老原博幸選手。”ライオン”野口 進 会長の遺影が三人を見守る。

野口会長に育てられた先代会長。そして坂田選手は、先代会長最後の弟子である。そして先代会長から最後の弟子を託されたのが大竹マネジャー。

08年大晦日。坂田選手は泣いた。勝ったデンカオセーンも泣いた。同じ涙でも意味合いは全く違うが、新王者デンカオセーンの心中は理解出来る。それは07年3月19日後楽園ホールのリング上で見せた坂田健史選手の涙と同じだったから。



坂田選手の載冠劇。後楽園ホールは、たくさんのうれし涙であふれた。人生最高に嬉しかった瞬間に違いない。

「パパねェ、夜中ビデオ見て泣いてた」

大竹マネジャーの末娘がソッと教えてくれた言葉は、今も昨日の事の様に、深く耳に残る。

「坂田の夢は俺の夢」

新たなチャレンジ!頑張れ、大丈夫だ坂田健史!

たくさんのコメント、ありがとうございました。皆様からのご声援が大きな励みになっています。今後も、坂田選手を見続けていける事は、私に取っても幸運です。少しでも皆様に伝えられたらと思います。今後もよろしくお願い申し上げます。

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