FISルールの公式日本語訳が「フリースタイル・ジャッジング・ハンドブック」としてSAJデータバンクにアップロードされました。
https://sajdb.xcat.co.jp/saj/doc/info/rule140204_01.pdf
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2013 年 11 月の国際スキー連盟(FIS)作成のジャッジング・ハンドブックを基本に(公益財団法人)全日本スキー連盟(SAJ) 競技本部 フリースタイルスキー部 技術運営委員会 審判・計算小委員会が 2013 年 12 月に作成したものです。
*原文と和文に差異がある場合、原文を優先する。
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英語の原文を読むのがうっとうしいという方はこちらを読んでいただければよいかと思いますが、先日から問題にしているFISルールの矛盾について考えたいと思います。日本語訳は先にこのブログにアップした拙訳を使います。
6204.1.2 Carving(カービング)の第1項
6204.1.2.1 General(総論)
で述べられているカービングターンの説明についてみてみます。ここでカービングが次のように定義されています。
A pure carved turn is one in which the tail of the ski follows precisely the track made by the ski tip.
完全に切れたターンとは、スキーのトップが通った跡をスキーのテールが正確にたどるターンである。
これは理論的に矛盾していると思います。スキーのターンで、トップが通った跡をテールが通るということは物理学的に起きえない現象です。スキーは基本的には直線(線分)ですので、スキーのトップが進んだ跡をテールが正確にたどるのは、直線上を進むときに限られます。
トップが向きを変えたとき、テールは逆側に向きを変えます(テールの向きは常にトップと逆方向です)。トップが連続的に向きを変えていったとき、テールは大なり小なり、ターン弧の外側に外れます。このずれは必然的に生じます。直線で円を描くことができないのと同じ理屈です。直線で曲線を描くことはできません。
しかし、曲線でなら曲線を描くことができるのではないか、という反論があるかもしれません。スキーにはサイドカーブがついているし、何しろたわませることができる。サイドカーブとたわみをうまく使えば、トップが通った跡をテールがたどることができるのではないか。
曲線で曲線を描くことができるのは、曲がり具合が一致した曲線に限られます。円弧によって同じ半径の円を描くことができますが、半径がわずかでも違えば円は重なりません。スキーのターン弧に合わせた曲線にするためには、スキーをかなり曲げなければなりません。スキーの前側に目一杯、体重をかけて、テールを完全に浮かせても、モーグルのターン弧に合う曲線になるほどには、スキーは曲がらないと思います。
FISルールに書かれたように、スキーのトップが通った跡をテールが正確にたどるターンはありえません。
ではカービングターンの正しい定義はどうなるでしょうか。ぼくはこう考えます。
A pure carved turn
完全に切れたターン(純粋なカービングターン)では、スキーのテールの向きが常にスキーのトップが描いたターン弧の接線に一致している。
FISルールが言いたいのは、こういうことだろうと思います。このように定義し直すことで、第1の矛盾は解決しました。
本題は次の矛盾です。
6204.1.2 Carving(カービング)の第2項
6204.1.2.2 Body Position for Carved Turns(カービングターンのためのボディポジション)
Rotations in the upper legs are minimal, feet remain under the body (shoulders and hips) in both fore-and-aft and lateral planes, and knees remain flexed.
上脚部(太もも)の回転は最小限とし、足は前後方向、横方向とも体(肩と腰)の下にあり、膝はしなやかさを保つ。
SAJの日本語訳を読んで気づきましたが、 (shoulders and hips)はそれぞれ複数形になっているので、「両肩と両腰」と訳すべきでした。SAJ訳では「肩と股関節が作る四角形」とわかりやすく表現されています。また、knees remain flexedを「膝はしなやかさを保つ」と訳したのも誤りで、SAJ訳では「膝は曲げた状態を保つ」となっています。ただ、flexedは「曲げたままで固定する」という意味ではないと思います。スライドターンのように膝を伸ばしてスキーを振ってはいけないという意味でしょう。
ここで問題になるのは、足を体の真下に置かなければならないということです。前後方向(fore and aft plane)だけでなく、横(左右)方向(lateral plane)でも体の真下になければならないというところが問題です。腰幅はせいぜい40cm。両足がその真下になければならないということは、ブーツがほとんどフォールライン上になければならないということになります。ブーツの位置が腰幅の40cmからはみ出してはいけないということですね。はたしてそれでカービングターンが可能でしょうか。
「スキーのテールの向きが常にスキーのトップが描いたターン弧の接線に一致している」ようにして、なおかつ、ターン弧の左右の振幅を40cm以内に抑えるには、ターン弧をものすごく浅く(回転半径を大きく)しなければなりません。そんな直線的なターンでどうやってスピードをコントロールするのか。ミドルセクションをかっ飛ばしたとしても、エア台の手前では体勢を整えるために何らかのスピードコントロールをせざるを得ないでしょう。
あくまでカービングにこだわってターン弧の左右の振幅を広げるのか、それとも足を体の真下に置くことにこだわって、スキーの振り幅を大きくするのか。
FISルールが求めている(1)カービングと、(2)体の真下に足を置くという2つの行為は、体をフォールラインに一致させなければならないモーグル競技では、スピードコントロールを必要とする局面で、相反する二者択一の行為であるように思えます。はたしてこの難題を解決する方法があるのか。最もうまくこの矛盾を解決した選手が、世界を制するでしょう。
いつものことですが、長々と書きながら、答えがなくて、すみません。
https://sajdb.xcat.co.jp/saj/doc/info/rule140204_01.pdf
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2013 年 11 月の国際スキー連盟(FIS)作成のジャッジング・ハンドブックを基本に(公益財団法人)全日本スキー連盟(SAJ) 競技本部 フリースタイルスキー部 技術運営委員会 審判・計算小委員会が 2013 年 12 月に作成したものです。
*原文と和文に差異がある場合、原文を優先する。
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英語の原文を読むのがうっとうしいという方はこちらを読んでいただければよいかと思いますが、先日から問題にしているFISルールの矛盾について考えたいと思います。日本語訳は先にこのブログにアップした拙訳を使います。
6204.1.2 Carving(カービング)の第1項
6204.1.2.1 General(総論)
で述べられているカービングターンの説明についてみてみます。ここでカービングが次のように定義されています。
A pure carved turn is one in which the tail of the ski follows precisely the track made by the ski tip.
完全に切れたターンとは、スキーのトップが通った跡をスキーのテールが正確にたどるターンである。
これは理論的に矛盾していると思います。スキーのターンで、トップが通った跡をテールが通るということは物理学的に起きえない現象です。スキーは基本的には直線(線分)ですので、スキーのトップが進んだ跡をテールが正確にたどるのは、直線上を進むときに限られます。
トップが向きを変えたとき、テールは逆側に向きを変えます(テールの向きは常にトップと逆方向です)。トップが連続的に向きを変えていったとき、テールは大なり小なり、ターン弧の外側に外れます。このずれは必然的に生じます。直線で円を描くことができないのと同じ理屈です。直線で曲線を描くことはできません。
しかし、曲線でなら曲線を描くことができるのではないか、という反論があるかもしれません。スキーにはサイドカーブがついているし、何しろたわませることができる。サイドカーブとたわみをうまく使えば、トップが通った跡をテールがたどることができるのではないか。
曲線で曲線を描くことができるのは、曲がり具合が一致した曲線に限られます。円弧によって同じ半径の円を描くことができますが、半径がわずかでも違えば円は重なりません。スキーのターン弧に合わせた曲線にするためには、スキーをかなり曲げなければなりません。スキーの前側に目一杯、体重をかけて、テールを完全に浮かせても、モーグルのターン弧に合う曲線になるほどには、スキーは曲がらないと思います。
FISルールに書かれたように、スキーのトップが通った跡をテールが正確にたどるターンはありえません。
ではカービングターンの正しい定義はどうなるでしょうか。ぼくはこう考えます。
A pure carved turn
完全に切れたターン(純粋なカービングターン)では、スキーのテールの向きが常にスキーのトップが描いたターン弧の接線に一致している。
FISルールが言いたいのは、こういうことだろうと思います。このように定義し直すことで、第1の矛盾は解決しました。
本題は次の矛盾です。
6204.1.2 Carving(カービング)の第2項
6204.1.2.2 Body Position for Carved Turns(カービングターンのためのボディポジション)
Rotations in the upper legs are minimal, feet remain under the body (shoulders and hips) in both fore-and-aft and lateral planes, and knees remain flexed.
上脚部(太もも)の回転は最小限とし、足は前後方向、横方向とも体(肩と腰)の下にあり、膝はしなやかさを保つ。
SAJの日本語訳を読んで気づきましたが、 (shoulders and hips)はそれぞれ複数形になっているので、「両肩と両腰」と訳すべきでした。SAJ訳では「肩と股関節が作る四角形」とわかりやすく表現されています。また、knees remain flexedを「膝はしなやかさを保つ」と訳したのも誤りで、SAJ訳では「膝は曲げた状態を保つ」となっています。ただ、flexedは「曲げたままで固定する」という意味ではないと思います。スライドターンのように膝を伸ばしてスキーを振ってはいけないという意味でしょう。
ここで問題になるのは、足を体の真下に置かなければならないということです。前後方向(fore and aft plane)だけでなく、横(左右)方向(lateral plane)でも体の真下になければならないというところが問題です。腰幅はせいぜい40cm。両足がその真下になければならないということは、ブーツがほとんどフォールライン上になければならないということになります。ブーツの位置が腰幅の40cmからはみ出してはいけないということですね。はたしてそれでカービングターンが可能でしょうか。
「スキーのテールの向きが常にスキーのトップが描いたターン弧の接線に一致している」ようにして、なおかつ、ターン弧の左右の振幅を40cm以内に抑えるには、ターン弧をものすごく浅く(回転半径を大きく)しなければなりません。そんな直線的なターンでどうやってスピードをコントロールするのか。ミドルセクションをかっ飛ばしたとしても、エア台の手前では体勢を整えるために何らかのスピードコントロールをせざるを得ないでしょう。
あくまでカービングにこだわってターン弧の左右の振幅を広げるのか、それとも足を体の真下に置くことにこだわって、スキーの振り幅を大きくするのか。
FISルールが求めている(1)カービングと、(2)体の真下に足を置くという2つの行為は、体をフォールラインに一致させなければならないモーグル競技では、スピードコントロールを必要とする局面で、相反する二者択一の行為であるように思えます。はたしてこの難題を解決する方法があるのか。最もうまくこの矛盾を解決した選手が、世界を制するでしょう。
いつものことですが、長々と書きながら、答えがなくて、すみません。