セルゲイ・ロズニツァ〈群衆〉ドキュメンタリー3選/粛清裁判 | 沸点36℃

沸点36℃

他愛のない日常と歴史散策、主観

2021年4月11日「セルゲイ・ロズニツァ〈群衆〉ドキュメンタリー3選/粛清裁判」鑑賞



ウクライナ出身のロズニツァ監督は近作10作全てが世界三大映画祭に選出され、うち2作でカンヌ国際映画祭の栄冠を勝ち獲った鬼才ながら、その日本公開は今回が初だという

三つの主題へ迫るロズニツァ監督ドキュメンタリー作品3選〈群衆〉から「粛清裁判」


1930年モスクワ
8名の有識者が西側諸国と結託しクーデターを企てた疑いで裁判にかけられる(産業党事件裁判)
発掘された90年前のアーカイブフィルムには無実の罪を着せられた被告人達と、それを裁く権力側が記録されていて、そこに熱狂する群衆の映像が加えられ再構成されていました


この裁判に出てくるエリート技術者たちの陰謀は今日では全くのでっち上げであったことは判明されていて、いわゆる茶番劇を皆が演じていたわけなんですね
そもそも産業党なるものは存在しないわけで、被告人とされた人たちは身に覚えのない罪を着せられ、法廷に引きずり出され、我が身を守る為に誰もが同じ言葉で予め用意されていた虚偽の陳述を口にする
裁判官も検事も書記官もシナリオどおり
その裁判を見ている傍聴人たち、深夜に被告人たちを銃殺せよと標語を掲げ狂気じみた街頭デモ行進をする群衆の姿…


判決が出たときの人々の反応には、流石に背筋が凍りました
死刑が宣告されると傍聴者は歯をむき出して笑い、歓声を上げ手を叩き合う
まるで娯楽とも思えるような、ショー的な雰囲気そのもので、そういうノリが怖いと思ったけれど、日本も死刑囚に対する世間やネットの反応ってこれと同じだよね、と思ってしまった


社会主義体制への転換を印象付けるため、産業党というエリート技術者や大学教授達からなる組織が五ヵ年計画を妨害し、国家転覆を企てたというストーリーに仕立て、資本主義の手先として見せしめにした産業党事件裁判

スターリンの権力を強めるためにでっち上げられた裁判であって、真っ先に知識人が狙われ、味をしめたスターリンはやがて大粛清に乗り出すわけですが


事件をでっち上げ、民衆を煽って不安にし、制裁を加える
民衆は流されやすく、真実なんてものには到底届かず、そうして民衆の心をコントロールしたんですね


被告人たちのその後は、自由と公民権を剥奪され、全財産を没収され、秘密警察の研究所で働かされ、銃殺されたり行方不明となっていて、

権力側も銃殺された者もいれば、スターリンの死後に亡命し自殺を遂げた者もいて、やはり悲惨な最期でした

見せしめの恐怖を描かれてますが、なんとも不気味で奇怪な映像でした
ロシア・ソ連史を知らなかったので驚愕するばかりです


2020年11月14日日本公開
映画「セルゲイ・ロズニツァ〈群衆〉ドキュメンタリー3選/粛清裁判」
監督/セルゲイ・ロズニツァ
上映時間/123分



あなたもスタンプをGETしよう