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麻酔の初心者の方は けっして この方法を真似しないでください。
これから いよいよ
「読んだだけで かけれるオピオイド麻酔」 について、 具体的に書いていこうと思う。
まず 「概略」 として オピオイド麻酔の流れの全体像を示し、
次いで 「詳細」 として ソセゴンとレペタンに分けて それぞれ詳しく説明した後で、
「まとめ」 として ソセゴンとレペタンを比較しながら分かりやすくまとめて説明し直す。
さらに 細かい点については 最後に 「解説」 として書き記し、
順々に 説明のレベルを詳しく深くして 四部構成・五記事で説明することにする。
この「概略」 を読んでいる途中に より詳細に知りたくなった場合は、
「まとめ」 や 「解説」 の文字をタップすると 参照できるようにしてある。
オピオイド麻酔の概略
はじめに
オピオイド麻酔の導入
オピオイド麻酔の術直前管理
オピオイド麻酔の術中管理
手術終了に向けて
覚醒
術後管理
はじめに
まず 患者さんが手術ベッドの上に横たわったら、なるべく早くオピオイドを静注する。
そして 静注と同時に、ストップウォッチをスタートさせる。
ということで、「私の麻酔」をする場合は ストップウォッチ付きの腕時計が必要である。
私は アップルウォッチを使っているが、
これは ラップ機能を使って、 追加投与した時間の間隔も記録することが出来るので、
特に レペタン麻酔のときに便利だ。
ストップウォッチは、
追加投与のタイミングを知るため オピオイドの効果が出るまでの時間を測るものであり、
ソセゴン麻酔では あった方がいいレベルだが、 レペタン麻酔では 必須のアイテムになる。
オピオイドを静注した後、 モニターをつけ血圧を測ってから いよいよ麻酔の導入を行う。
導入は、プロポフォールを使った 迅速導入と
GOS(セボフルラン)の吸入による 緩徐導入を併用したものとなり、
気道確保終了時までの時間も、迅速と 緩徐の中間くらいになる。
(緩徐導入が有効なのは、
セボフルランによる導入が早いので 興奮期がほとんど見られず、
かつ セボフルランの気道刺激が少ないからである)
これは、なるべく 自発呼吸を残したまま
気道確保時までに 十分な麻酔深度にするための工夫である。
ソセゴンの 初回投与量は 15mg であるが、 2回に分けて 7.5mgずつ投与する。
レペタンの 初回投与量は 分割することなく 一度で 0.12 or 0.16mg である。
初回投与の後は、患者さんのオピオイド感受性と手術侵襲の大きさに応じて、
呼吸数を指標として 追加投与する。
そして 最終的には、
ソセゴンの 最大投与量は 60mgになり、レペタンの 最大投与量は 0.4mgになる。
始めの頃は 恐るおそる増量していたのだが、そのうちに 経験を積むことによって、
ソセゴンは 60mg・レペタンは 0.4mgまで増量可能であるという結論に達した。
この量までは増量効果が見られるが、
この量以上追加しても 効果もなければ 副作用もない、ということが分かった。
このくらい大量にソセゴンを使うと、普通なら 神経ブロックの併用を必要とするような
中程度の侵襲の手術にも ソセゴンだけで 対応できるし、
このくらい大量にレペタンを使うと、整形の手術では もっとも侵襲が大きいと思われる
THAやTKAも 神経ブロックを使わずに オピオイド単独で麻酔できる。
そして 単に術中コントロールだけでなく、術後疼痛に対しても十分 対応可能であり、
経過中の侵襲をしっかり制御することで PONVも少なくすることができる。
オピオイド麻酔の導入
導入は、 オピオイドを静注した後に プロポの迅速導入とGOSの緩徐導入を 同時に行う。
オピオイドとプロポフォールとセボフルランの 3種類の薬剤を組み合わせ、
さらに オピオイドのうちのソセゴンと プロポフォールを分割投与して
徐々に麻酔を深くすることで、
自発呼吸を残したまま 気道確保の侵襲に耐えうる 十分な麻酔深度を得ることができる。
私のオピオイド麻酔では、全経過に渡って
呼吸数を指標にして オピオイドを早めに投与し 侵襲を制御することが重要なので、
導入中の自発呼吸をなくさないこと そして 気道確保の侵襲を与えないこと
は非常に大事であり 第一の関門となる。
麻酔が浅いと声門上気道器具のフィッティングが悪くなるので、
いつも この 「バランス」 を考えながら 導入を行わなくてはならない。
ちなみに、第二の関門は
手術侵襲に合わせて 術前・術中・終了時の呼吸数を目安にして オピオイドを投与して
この手術侵襲をできる限りコントロールすることであり、
(この際 過量投与にならないように注意する)
第三の関門は メイン操作が終わって侵襲が少なくなるのに合わせて
セボフルラン濃度を下げながら なるべく苦しませずにに抜管・覚醒させることである。
(早く覚まそうとすると 苦しむ可能性が高まるので、このバランスが難しい)
麻酔の終了時に苦しませないのも、侵襲を与えないためであり、
とにかく 導入・術中・覚醒の 全経過を通して、
不安・緊張・ストレス(侵襲)を与えないように心がける。
ソセゴンの分割初回量(7.5mg)または レペタンの初回量(0.12 or 0.16mg)を投与した後
写真のように 麻酔回路の先端を 挿管チューブを利用した 「蓋」 で塞ぎ、
回路内を 5%セボフルランの GOSガスで満たしておく。
このとき 酸素・笑気は 3L/分・3L/分にしておく(2L/分・2L/分でも 可)
(こんなことをしなくとも、
使うときにGOSガスを流し始めるのと比べて 時間は そう変わらないかも知れない。
ただし こんなことをするのは、 少しでも 麻酔ガスで手術室を汚染しない意味もある)
血圧を測り終わったあと
ソセゴンの場合は2回目のソセゴンを静注しながら、 レペタンの場合は測定後すぐに、
『これから全身麻酔がかかります。
マスクを 口と鼻の上に載せますので、
そこから流れてくる麻酔のガスを普通に呼吸して吸い込んで下さい。
1分以内に眠ってしまい、後は まったく分からないまま手術が終了します。
少しだけ臭いがしますが、大したことはありません』
と 話しながら 少しでも 患者さんが安心できるように努め、
その後 マスクを 「軽く」 顔の上に載せ、 同時にプロポフォールを静注する。
プロポフォールを、
①体重 ②性別 ③オピオイドの種類 ④年齢や 見た目の元気さや 体格の程度に合わせて、
初回量として 1.5〜6ml ほど静注すると、ほとんどの人は1分以内に就眠する。
[プロポフォールの投与量については、 「まとめ 1.」 を参照のこと]
プロポフォールを静注するタイミングは、
最初にオピオイドを静注してから1〜2分後くらいになることが多い。
女性の場合は 0.4 or 0.5mg/Kg ・ 男性の場合は 0.5 or 0.6mg/Kg とする。
(ソセゴンのときは 少ない量、レペタンのときは 多い量にする)
なお この量のプロポフォールで血管痛を訴えた人は、 今まで一人もいない。
就眠せず 量が足りない場合は さらに 1〜2ml 追加してもいいが、
プロポフォールの量が 多過ぎると and/or 5% GOSの 換気時間が 長過ぎると
無呼吸になるので 要注意だ。
無呼吸になる原因は、初回投与のオピオイドの呼吸抑制により
呼吸を刺激する血中CO2濃度のレベルが 高い方へシフトすることが 前提となる要因であり、
これには 個人差がとても大きい。
それに加えて、
①導入前からの緊張による過換気状態のため ETCO2が低いため か
②プロポ and/or セボフルランによる 麻酔が深過ぎるか の どちらかである。
が、プロポフォール過量の方が 頻度としては大きいので、
プロポが過量にならないように注意するのが この麻酔の一つのポイントである。
無呼吸になったときは、
なるべく換気しないで待っていると CO2が溜まって呼吸が出てくることが多い。
[詳しい説明は、「解説 5.」 を参照]
就眠するまでは 軽くマスクを当て、
就眠後は 酸素・笑気を 2・2に下げ、マスクを 顔にピッタリと密着させ、
CO2モニターで 呼気の排出を確認し、 必要があれば軽くアシストしながら
なるべく自発呼吸を残したまま 換気して、GOS麻酔を深くする。
1回換気量が少ないために 上手く呼気のCO2を検出できないこともあるが、
気道の閉塞がなくわずかでも呼吸していれば SpO2が下がることはなく、
徐々に麻酔が深くなる。
アンダーマスクで 呼吸を軽くアシストすることもあるが、
自発呼吸だけで 問題ないことも多い。
一方で、マスク換気の時間が 通常の迅速導入より長くかかるので、
まれに舌根沈下により 換気が一時的に不能になることもある。
だが、これも 用手的な気道確保手技だけで なんとかなり、
今まで マスク換気のために 経口エアウェイなどの補助具を使用したことはない。
ただし マスク換気中にSpO2が下がるときは、 笑気を切って純酸素で換気することもある。
換気がまったくないときは、セボフルランが吸入されないので
麻酔が深まらないことに 留意する。
したがって、
アンダーマスクによる換気が上手くいかないからと言って 早めに気道確保するのでなく、
やはり ちゃんと換気してセボフルランを吸わせて 麻酔を深くしてから、
気道確保する ようにすること。
この状態で おもに血圧(と脈拍)を指標にして 麻酔深度が十分になるまでしっかり待つ。
待つ間に、 尿カテーテルを入れてもらう。
だいたい 3〜5分で 収縮期血圧が 麻酔直前の値より 40以上低くなり、
この血圧の下がり具合で 十分な麻酔深度になり、
4分以上経過したことを ストップウォッチで確認してから、
気道確保の前に 酸素・笑気を 2L/分・2L/分 から 1・1 に下げて、
(これは 1・1 でセミ低流量麻酔を行うためなので、 2・2 のままでも構わない)
同時に 5%のセボフルランも 2%に下げておき、
もう一度 初回の70%量のプロポフォールを静注し、
30秒以上待ってから ラリンジアルマスク または i-gel で 気道を確保する。
(ソセゴンを 2回に分けて静注した後、プロポフォールも 2回に分けて投与する。
レペタンは 初回の1回の静注だけであるが、プロポの方は やはり分割投与する)
このような声門上気道確保器具が スンナリと適正な位置に収まるためには、
麻酔が 十分深くなっている必要があり、
ここで ある程度 シッカリ待って 麻酔を深くすることが 一つのポイントになる。
3〜5分という時間は、普通の急速導入と比べるとかなり長く感じるので、
「意識的に待つ」 という感覚を大事にし かつストップウォッチでも確認すべきだ。
このことを意識するようになってから、
明らかに 麻酔がスムーズに行えているという実感がある。
このようにしてから 気道を確保すれば 確保後も 血圧はほとんど上がらず、
気道確保に伴う侵襲を 0 に近づけることができる。
一方で 弱めだった呼吸が この気道確保の小さな侵襲で刺激され、
自発呼吸はしっかりすることが多い。
このくらい十分に麻酔を深くすると 脈拍は40台にまで下がることも多いが、
私は 脈が40回/分を切るまでは 原則としてアトロピンを使っていない。
しかし オピオイド麻酔の導入から気道確保までの過程で、
収縮期血圧が 80mmHg未満になることは ほとんどない(全体の 1%くらい)
そして気道確保した後軽く陽圧をかけて換気し リークがないことを確認するのは当然だ。
しかし このオピオイド麻酔では 完全に自発呼吸だけでいけることが多いので、
気道確保具のフィッティングが多少悪くても 仰臥位の場合は、問題になることはない。
(伏臥位で筋弛緩剤を使う可能性のあるときは かなり慎重にフィッティングを確認する)
文章だと ごちゃごちゃと面倒くさそうだが、 何度か自分でやってみれば すぐに慣れる。
オピオイド麻酔の術直前管理
気道確保した後も セボフルラン濃度は 2%のままで、
まずは自発呼吸の有無をチェックし、 次いでLMや i-gel のフィッティング状態を確認する。
[自発呼吸がないときは、「解説 5.」 を参照。
気道確保具のフィッティングについては、「解説 6.」 を参照]
この後、セボフルラン濃度は 2%のまま 自発呼吸 「数」 を目安にしながら
手術開始時までに
各侵襲度の手術に合った適正な呼吸数になるように、オピオイドを追加投与する。
[追加の仕方は 「まとめ 2.」 の記事参照] セボフルラン濃度が 2%の状態で、
一般的な手術の場合の「術直前」目標呼吸数は10回/分以下だが、
侵襲の強い手術では 6〜8回/分以下・侵襲の軽い手術では 12回/分以下とする。
[キチンとした目標呼吸数は、 「まとめ 3.」 の記事で述べる]
初回投与だけで十分で 追加を必要としないこともあり、
そして 非常に稀ではあるが 呼吸数が 1〜2回と 極端に少なくなることもある。
[ 「解説 5.」 を参照]
セボフルラン2%で 手術開始前の呼吸数が 上記の値になったなら、
皮膚切開時の侵襲に備えて セボフルラン濃度を 3%に上げて待機する。
皮膚切開部に 局麻で浸潤麻酔が施されている場合は 切開時の侵襲が 「ない」 ので、
セボフルラン濃度は 2%のままでよい。
ただし 収縮期血圧が 80mmHgより下がったり、 1回換気量が 100mlを切るときや
ETCO2が 60mmHgを超えるときは、 セボフルランを3%にできないこともあるし、
上記の値のため セボフルランを 2%よりも低くしなくてはならないこともある。
(1回換気量が 100mlを切るときは、CO2モニターの波形が潰れたようになる)
オピオイド麻酔の術中管理
「手術中」 の目標呼吸数の一応の目安は 16回/分以下であり、 上限を 20回/分と考える。
ただし、 侵襲が強い手術のときは この 16回を 12回/分以下にすることもある。
(キチンとした目標呼吸数は、各オピオイドの 「詳細」 と 「まとめ」 の記事で述べる)
呼吸数が 16(または12)回を超えるときは、 これが
一時的な侵襲によるものでないときは、 オピオイドをなるべく早く追加する。だが
一時的な侵襲による可能性があるときは、追加しないで様子を見る。
20回を超えるが 様子を見たいときは、 セボフルラン濃度を上げて 麻酔を深くし、
20回を超えないようにして 様子を見る。
オピオイドを追加して 増量するときも、呼吸数が20回を超えていれば、
オピオイドが効いて呼吸数が下がるまでは麻酔を深くして 20回を超えないようにする。
上記のようにして「20回/分を上限とする」
自発呼吸数が 20回以下であれば、手術侵襲は ほぼコントロールされているとみなす。
呼吸数が速くなっていて 手術侵襲がコントロールされていないときは、
この痛み刺激により、痛みの感受性が亢進し 余分なオピオイドが必要となったり、
PONVの発生率が高まったりする。
オピオイド麻酔の「術中」 の適正な呼吸数の目安は、 おおむね8〜14回である。
ただし 侵襲度の違いや 患者さんのオピオイド感受性により、 この値は変化する。
[キチンとした目標呼吸数は、 「まとめ 3.」 の記事で述べる]
手術中に 呼吸が速くなり 麻酔深度のコントロールが必要になるのは、
① 新たな手術部位に進んで組織の破壊が進むときと ② 術中の 「痛い」 操作のときだ。
① の場合は オピオイドを追加投与し、
② の場合は オピオイドを追加投与しないで、吸入麻酔を深くして じっと待つ。
① は 乳房全摘術のときに典型的に見られ、非常に分かりやすい。
乳腺周囲を 「広く」 剥離していく過程で、その進展につれて呼吸数が速くなるので、
それに合わせて 「目標呼吸数」 以内に収まるように オピオイド(ソセゴン)を追加する。
それに比べて、剥離範囲の 「狭い」 温存手術では このようなことは起こらない。
[乳がん手術の検討]記事を参考。
② は、局麻のない皮膚を切開するときや、
椎間ヘルニア摘出時やリンパ節郭清時などで 神経を圧迫したり 引っ張ったりするときや、
人工関節置換術のとき 痛みのある関節を動かしたり、骨折の整復時 などの
「痛い」 操作をするときである。
このときに、血圧が上がったり 頻脈になったり 呼吸数が増えたりする。
しかし これらの変化は一時的なので、 オピオイドを追加せず セボフルランを濃くして、
侵襲が収まり 呼吸数が再び下がるのを じっと待つ。
THAのときなど、 手術操作によって 呼吸数が増えたり 減ったりを 繰り返すことがある。
この増減の上が20回/分を超える場合は、 呼吸数の動きを見ながら20を超えないように
セボフルラン濃度をこまめに調節する。
セボフルランは ときに 4〜5%に上げることもあるが、
5%にするときは 時間は1分以内とし、 気化器から手を離さないようにする。
4%のときも、可能な限り早く3%にまで下げる。
あくまでも これが原則だが 実は ①と②との区別はかなり微妙であり、 この鑑別が難しい。
オピオイドを追加投与すべきか どうか 迷うこともある。
そして メインの手術操作が行われている間は 侵襲が大きいことが多いので、
「原則」 として セボフルランは 2%のままにしておく。
ただし 手術の種類によってはこの限りでなく、
たとえば 膝の関節鏡手術のときなどは セボフルラン濃度 1%で維持できるし、
その時のオピオイド量ではコントロールしきれずに 3%で維持する方がいい場合もある。
メインの手術操作が終わったら、 ここから覚醒に向けてセボ深度を浅くしていく。
手術終了に向けて
メインの手術操作が終わり 閉創操作に移ったら、
覚醒に向けて セボフルラン濃度を 急速に または 徐々に下げていく。
終了までの時間が 20分以内と短いときは、
まず いったんセボフルランを切って なるべく早く濃度を下げる。
さらに急ぐ場合は、酸素・笑気 1・1から 2・2 または 3・3に流量を上げる。
そう急がなくてもいいときは、ゆっくりと 徐々に 2→1% 1→0.5%と、
そして 最後には さらに 0.5→0.3%と セボフルラン濃度を下げてゆく。
この際に 麻酔ガスモニターがあると、とても心強い。
ガスモニターがないときは、
気化器濃度を変更してからの呼気濃度の変化を 経過時間で推測する。
このときも ストップウォッチが役に立つ。
呼気中のセボフルラン濃度が、
メイン操作中の 2.0%から 覚醒レベルの 0.1%になるまでは 10〜20分、
1%で維持しているときは、5〜10分かかる。
ただし、これには個人差があることを踏まえておく。
十分な量のオピオイドが投与されていて 笑気も併用されているときは、
原則として セボフルラン濃度が 0.1%になるまで 覚醒しない。
(十分なオピオイドが投与されていて 0.2%で覚醒する症例は非常に稀で、
この場合 オピオイドの追加が必要になることもある)
十分量のオピオイドが投与されているので、
皮膚または皮下縫合時に セボフルラン濃度を かなり浅くしても、
若く元気な人では 0.5%で維持していれば 早期覚醒することはない。
そうでない人 もしくは 皮膚に局麻で浸潤麻酔を施した症例では、
0.3%で維持していれば 早期覚醒することはない。
つまり 手術の最後の頃は、
皮膚切開部の局所浸潤麻酔がなく かつ 若く元気な人の場合に限って
セボフルランを 0.5%で維持するが、
それ以外は すべて セボフルランを 0.3%で維持できる。
ここまでセボフルランを浅くできれば、
手術終了とともにセボを切ったとしても 5分以内で覚醒させることができる。
手術が終了し 創のドレッシング等 すべて終わり、
それ以上 何もすることがなくなる1〜2分前まで、笑気は使い続ける。
ただし 高齢で元気のなさそうな人は 早めに 純酸素にすることもある。
こうやって 笑気を利用することで 早期覚醒することなく、
デスフルランと同じくらい 早く覚ませる。
「手術終了時」セボフルランを切る直前の 望ましい呼吸数の目安は、
一般的な手術の場合は 10〜14回/分であるが、 これも 侵襲度によって異なる。
[キチンとした目標呼吸数は、 「まとめ 3.」 の記事で述べる]
覚醒
さて、 いよいよ ここからが 「覚醒」 である。
覚そうと思う直前くらいに 自発的に 目を開ける人もいるし、
声をかけることで 目を開ける人もいる。
半分くらいの症例が このどちらかである。
覚醒時に苦しそうな表情をすることは、普通 まず見られない。
残りの人は、呼びかけに反応しない。 しかし 反応がなくても、私は抜管している。
抜管の刺激でさらに半数が目を開けるか頷いたりして、 覚醒していることが分かる。
だが、これでも覚醒しない人が 2〜3割いる。
でも、 舌根沈下がなく 呼吸に問題がなければ 「よし」 としている。
この半数くらいは 手術室を出るまでに 覚醒が確認できるし、
残りの人も ほとんどは 病棟に帰ってから 30分以内に覚醒する。
しかし 中には いびきをかいて 気道狭窄があったり、完全に気道閉塞している人もいる。
この場合も、用手的に気道を確保して 1〜2分待つか、
耳元で 大きな声で呼びかけ刺激すると 半数くらいは 覚醒する。
これでも覚醒しない人にはドプラムを使う。
普通の体格の女性で 20mg、 普通の体格の男性で 40mg で覚醒する。
これで覚醒しないときはかなり麻酔が深いままだと思われるので それ以上は使わない。
この量で覚醒する場合、ほとんどは あと5〜10分待てば覚醒する症例である。
ドプラムを使うのは 今では全症例の2%くらいだが、始めの頃は もっと多かった。
[覚醒遅延については、「解説 9.」 を参照のこと]
私の麻酔を行った症例の 99%以上は 術後の状態を確認しているが、
術後覚醒不良+嘔吐で誤嚥した症例は 過去数千例の中で 1例もなかった。
なかには、こちらが覚まそうと思っているタイミングよりも早く覚醒する人もいる。
この場合は 二通りの対処の仕方がある。
セボフルランを切ってから時間が経ち過ぎて 麻酔が浅くなり過ぎたときは、
5%セボを 5〜20秒くらい吸入させて 覚醒を遅らせ、
静かに落ち着いているときに抜管する。
これは、覚醒時に苦しんでいると そして その状態が 長ければ長いほど
それが侵襲となって PONVが増えると思われるからである。
もう一つの場合は かなり稀ではあるが、 オピオイドの量が足りなかったときである。
目標呼吸数通りにコントロールできて、覚ますタイミングも早過ぎず、
術野で強い刺激が加わったわけでもない場合は、
わずかな濃度のセボフルランが効いていたのに、
その濃度が下がることによってオピオイドの不足が明らかになったとしか考えられない。
この場合は オピオイドの種類に関わらず、 すぐに効くソセゴンを 15mg 静注する。
(それまでのソセゴン総量が22.5mgのときだけ 残ったソセゴン 7.5mgを利用する)
レペタン症例に対し、 このようにソセゴンを使っても まったく問題なく 有効である。
「私のオピオイド麻酔」 では覚醒度が低く ボーッとしているのが普通なのだが、
しっかり覚醒している人の場合は 術後鎮痛剤を使う割合が かなり高い。
その中には 特に痛そうな表情もなく 痛みを訴える人もいて、
そのまま帰室させると ほぼ100%の確率で 術後鎮痛剤を使用することになる。
それが 経験的に分かっているので、その時点で ソセゴン15mg を静注しておく。
この場合15mgで十分であり 特にその効果を確認することなく帰室させても問題ない。
(それまでのソセゴン総量が 22.5mgのときだけ、 残ったソセゴン7.5mgを利用する)
術後管理
術後の ① 疼痛 ② 嘔気・嘔吐 ③ 低酸素対策について。
[さらに詳しい説明は、「解説 12.」 の記事で述べる]
①[疼痛対策]
女性の場合は、手術終了時に ロピオンを1A静注投与し、
男性の場合は、手術終了後 麻酔終了前の 覚醒前に ボルタレン座薬50mgを挿肛する。
ただし 女性の場合も、術後の疼痛発現の可能性が高そうな時は、
ロピオンに代えて、または追加して ボルタレン座薬50mgを挿肛する。
さらに、術後にオピオイドを点滴投与することもある。
[ 「まとめ 3.」 を参照のこと]
②[嘔気・嘔吐対策]
この 術後嘔気・嘔吐対策が もっとも難しいと感じている。
といっても 現在の術後 嘔気・嘔吐率は 20%ほどで、 その程度もずいぶん軽くなった。
現在の 術後嘔気・嘔吐対策は、 手術終了時に全例 PZC1A静注し、
術後 嘔気・嘔吐のあるときは プリンペラン1A静注というものだ。
③[低酸素対策]
オピオイドを十分に使った 「私の麻酔」 では、術後 低酸素血症が起きやすい。
特に ソセゴンよりも レペタン麻酔で起きやすく、その程度も大きい。
しかし 原因はオピオイドによって 呼吸が抑制され、
CO2が溜まって 肺胞酸素分圧が下がったためなので、
酸素を投与するだけで、「簡単」 に改善する。
私は 術後の SpO2モニターを指標にして、
その値が低いときに限って 酸素を投与してもらうことにしている。
半数の症例では 術後酸素投与は不要であり、
酸素投与が必要な症例でも 数時間で酸素投与は必要なくなる。
翌朝まで酸素投与が必要な症例は、1%以下である。