「わたし、電車のアナウンスをする仕事しようと思っているんです」
久しぶりの大佐藤との電話は、そんなやり取りから始まりました。
 あたしと同じライターの学校に通っていた彼女。確か東京で某公共放送に関係する雑誌の取材と編集をしていたはず。

 久しぶりの電話に驚きましたが、さらに驚くことがいくつか。年頃ですから結婚したようです。その割に淡々としていました。というよりもたいして気分が盛り上がっていなさそう。
 大佐藤さんことユミさんは、もう29歳になったそうな。出会った時は25歳ほどだったな。しかしどこか田舎者っていう風情でしたが。

 で、なんで電車のアナウンスの仕事なのかというと、
「首にスカーフ巻く仕事やったことないんで」だそうだ。たいした動機だな。

 で、今は何しているのと訪ねると、
「香川県で紀伊国屋でバイトしてるんですよ」なぜ香川県だ。
実家は岡山県倉敷市で、家業は刀剣の博物館。なのになぜ香川県なんだ。

 「それがですね、今、坂出に住んでいるんですけど、高松の紀伊国屋まで電車で1時間もかけて行ってるんですよ」まったく、的外れな答えは相変わらずのようだ。

 「でもね、最近気づいたんですけど、4時間しかバイトしないのに、1時間もかけて行くのもおかしいなあと思って」気づく前に先に考えるべき内容である。

 「だからスカーフ巻く仕事…」この時点であたしはほぼ聞いていない。どのタイミングでつっこむかだけを伺っていた。

 一方的に1時間ほど話している。あたしは仕事に追われている。朝八時から夜遅くまでの仕事が、ここのところ続いている。

 「そういえば、最近ムーミン観てるんですよ。ケーブルテレ…」壊れているのか壊れたのか、いや彼女は昔からこうだったということを思い出した。

 結局何も要領を得ないまま、あたしは電話をきった。だから、まだ仕事をしている。
 金曜日もしっかりと飲んで続く土曜日。仕事がぎりぎりまでとなり、急いで天神橋6丁目へ。
 土曜日は編集・ライターの学校時代からの友達の結婚祝い飲み会でした。

この業界の方は時間が不規則で、なかなか大勢で会うことはできません。その日はあたしを含め、リカさん、ウリちゃん、当人のカジの4人でした。
 みなさん編集に携わっています。

確かに、女性の結婚には年齢があって、ヒヤヒヤする一面もあります。あたしと歳が近いカジの結婚とあって、胸を撫で下ろす気持ちで一杯でした。

 しかし、女性ばかりなので恋愛トークも炸裂です。あたしはおっさんなので苦手な話ですが、女性が集まると必要なトークのようですね。
 それと、仕事の話か。

 しかし、結局大騒ぎするだけの彼女たち。一件目の泰三屋で熱燗、二件目のとぅるるんで泡盛。う~ん、酒が強いとかいう以前に酒の好きな方々です。
 しかしいわゆる女子力は皆無。これがこの業界の女性ならではと感じています。そのおかげで、こちらも気を張ることなく飲めて楽です。そして、そんなあたしは失礼です。

 焼酎飲みですから、ゆるく飲みたいです。ゆるく飲めるこの人たちとの飲み会は、あたしにとっても貴重な時間なのでしょう。
 何言っているか分からん、と豪語されましたが、それだけゆるい存在なんです。
、あたしは。
 お酒が強いということは、肝臓が強いということと関係ありません。肝臓は摂取したアルコール成分を分解するだけで、お酒を飲める・飲めないということに関わりがありません。
 あたしは生まれながらについてそこそこ飲める体質でした。ですが家族は誰も飲めません。お酒の強さは遺伝するもの、という噂はあくまでも噂です。
 体質的に受け付けないという場合は別にして、大抵飲み続けることでお酒に強くなるようです。
 ヒロキも、もともとはまったく飲めなかったそうです。今ではお酒が一番強いと言われています。

 以前の会社を退職したワカノは、まったくといっていいほどお酒が飲めません。ですが、それはつい先日まで。
 毎日うちの会社に通いつめているワカノは、このところお酒が好きになったようです。ビール一口しか飲めなかったのですが、昨夜に至っては、酎ハイ3杯も飲むようになっていました。

 これが毎日の楽しみなんです、とまるで別人になったかのような発言。まあ、以前はヒロキとあたしの二人でたまにゲストが一緒の飲みでしたが、ワカノが居るようになってから、毎回必ず三人なので、それはそれで楽しいものです。

 飲めば飲めるようになる、動けば答えが出る。彼は今、身を以てそのことを体験しているようです。
 以前とは異なり、毎日なんかしらの発見があるようで、それをうれしそうに話す彼は良い感じです。
 
 そんな空気はこちらにも良い影響を与えます。なんだか、自分も何か発見したような気持ちになり、わくわくします。
 
 自分だけでは、わくわくする気持ちを持つことは難しいです。