部活の時間も終わり、最後のチェックをしようと教室へ足を運んだ。ガラリと音を立ててドアを開ければ薄暗い教室に1人、まだ生徒が残っている。たしか彼は帰宅部だったはず。部活動に所属している生徒たちでさえ、もう急いで帰宅して行ったのに。
「佐鹿くん、まだ残ってたの?」
「せんせー俺ね、」
出席番号6番。クラスの中では浮いているわけでもなく、かと言って目立つタイプでもない。教師に逆らうようなこともしないし、だからと言って成績優秀な優等生タイプというわけでもない。ごく普通の生徒だ。正直、教師としては一番接しやすいタイプ。
――だと、思ってたんだけど。
「神様に会いに行くの」
思わず素っ頓狂な声が出そうになった。神様に会いに行く?何を言ってるんだ彼は。からかわれているのか?というか、彼はそんなことを言うようなタイプだったのだろうか。そうだとしたら今までの半年で私なりに自分の受け持っているクラスの生徒達を観察し分析してきた結果が間違いだったことになる。残念だ。
「何言ってるの佐鹿くん」
「おれ本気だよ?」
「…そう。それなら、」
あーもう、嫌んなっちゃう。ほんと教師なんて辞めてやる。中途半端に悟った生意気な生徒たちを相手にするのも、中年オヤジの先輩教員たちに逐一嫌味や小言を吐かれるのももう嫌、うんざり。付き合って4年を過ぎてもプロポーズをしてくれない彼氏にこちらから求婚でもして、さっさと寿退社してやろうかしら。なんて、最近いつもこんな思考を繰り返すように同じことばかり考えている。鞄に忍ばせた退職願はいつになったら提出できるんだろう。
「神様によろしく」
話に乗る振りをしてそんなことを言えば彼は一瞬驚いたような顔をしたけれど、それからすぐに残念そうな顔をした。どうやら私の返答は彼の求めていたものと違ったらしい。残念ね。
「ほら、もー帰んなさい」
「はーい。じゃーね先生」
さよーならー。と、そう言いながら教室を出て行った彼は、いつも教室で見る雰囲気に戻っていたような気がしたんだ。けれど。
「…教師、辞めよ」
――その日彼は、自宅マンションの屋上から飛び降りた。
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「レイラの初恋」様より、お題「神様によろしく」お借りしました