春は始まりの季節、だなんて。
「ふざけんなばーか」
誰が決めちゃったかなあそんなこと。まあ、たしかに四季の一番最初ではあるし学生の入学式やら社会人の入社やらで世間的には始まりの季節かもしれないけどさあ。
「こっちは全部終わったっつーの、」
個人的には終わりの季節として一生嫌な思い出が残りそうだわ残念ながら。
はああああ。なんて、重い溜め息を吐き出しながら体を倒す。蓄積した苛々を発散する方法すらこの狭い部屋の中では思いつかずに、テレビの音量を馬鹿みたいに上げて、けれどやっぱり後悔した。うるさ…とひとりで呟いてまた音量を下げる。何やってんだか。ほんと馬鹿だなあ私。
「会社も辞めて彼氏とも別れて、これからどーするわけ」
「煩いな、そんなの私が聞きたい」
「誰にだよ」
「…知らん」
悩みを人に相談できない性格は子供の頃からそうだった。というか、自分の甘さや生ぬるい考えを悩みと呼んでいいものか、とか馬鹿みたいに考えて、考えすぎで疲れて現実逃避に走っては、また考えての堂々巡り。最終的にはいつも自分自身を鼻で笑うような結末で曖昧に自己完結。いつも同じパターン。
そして何よりこれまでの人生、そんな感じでなんとかやってこれてしまったのが逆にまずかったのかもしれない。
「…お前、このままじっとしてたら鬱にでもなりそーね」
「うーわ。怖いこと言わないでくんない」
パンク、した。なんか、なんだろ、溜まっていた黒くて重いものが急に爆発した、みたいな。これまでなんとか、それなりに頑張って繋いでた糸はいつの間にかピンピンに張ってたみたいで、それに自分で気が付く前に、ぷつん、て切れちゃって。
手遅れな状態になってから気付くんだもんなあ、もうどうしようもない。惨めで申し訳なくて、もう辛いとか悲しいとかそーゆーんじゃなくてただ、情けなかった。救いようが無かった。後悔なら、死ぬ程してる。
「…春なんてさっさと終わればいいのに」
「えー。俺好きだけど。春」
「何も始まんない春でも?」
「いいじゃん、それならそれで」
そう言って彼はけらけらと笑う。うざいなあ、帰ればいいのに。だって私達、もう別れたんだし。
「だったらいっそ、全部終わらせればいい話だし」
「…は?始まんないから終わらせるって?」
「そーゆーこと」
にっこりと笑った彼の両手が、私のほうへ伸びてくる。そして首元に、触れた。
「お前の心臓くらい、お前の呼吸くらい、俺が終わらせてやれる」
ぐっ、と力を込めて。私の首を包むように掴んだ彼の手は驚くほど冷たくて、なのに酷く安堵した。「せめて笑ってよ」なんて、切ない顔して言うもんだから必死に笑顔を作ってみれば、彼もまた嬉しそうに笑って。それでもその頬には涙が伝っていた。
――ああ、そうか。
「終わりの春、始めてみようか」
春は始まりの季節、だ。
_120410