発泡酒や第3のビールは、ビールと比べて泡の立つ割合が少ないこともあり、昔あった「ビールと泡についての論争」ほどには盛り上がらない。しかし、ビールの愛飲家にはジョッキに立つ泡の割合はやはり気になるようだ。
20年ばかり前に英国政府が、国内のパブ(居酒屋)で1パイント(0.56l)入りのジョッキにビールを注ぐとき、5%までの泡ならビールと計量してもよい、という政令を出したが、これに噛みついたのがビール愛飲家だった。
というのも、当時与党だった保守党が前年の総選挙の際、「ビールの泡は除いて計量する」と公約していたからである。たった5%とはいえ、これを年間のビール税に換算すると4億ポンド(当時約660億円)にもなるというから、ビール党が息巻くのも無理ない。イギリスのビールはエールのように泡の出にくい成分が多い。それをなみなみと注ぐパブがそれまでは普通だっただけに、5%の泡だけでも敏感に反応したのである。
わが国でも昔から泡論争はあった。昭和15年といえばかなり昔になるが、この年には法廷論争にもなり、「ある程度の泡はビールである」という結論に到達した。その時は、泡は2~3割なら認められる、となったから、それだけ日本人は鷹揚なのである。
日本でのビールの泡の割合を端的に示すのが別掲の写真である。今は亡き新井徳司さんというビール注ぎの名人が東京駅八重洲口に近いところのバーにいた。新井さんによると、「爽快感を演出する炭酸ビールは、ビールを注いでいる間にもどんどん逃げる。従って、時間をかけた注ぎ方は駄目。
常に、①早く ②同じ泡を一定に ③おとなしく注ぐ の3点を心がけていた。店にある430mlのジョッキは、5~6分で空けてほしい」との話だった。
新井さんが右手に持つのは業務用サーバーで、手前に引くとビールが出て、向こうに倒すと細かい泡だけが出る。新井さんは、1によって盛り上がった泡をヘラでそぎ落としながら注いでいた。泡もビールのうちというなら勿体無いことだ。
泡がきめ細かいことの証拠に、マッチの軸が泡の上に立ったのである。その新井さんが手にしたジョッキの泡の分量をご覧あれ。
