エストニアの管弦楽作品集(カップ、リュディグ、レンバ)+パルヌ音楽祭+エストニア日本アニメ映画際 | 妄想印象派 自作のイラストや漫画、アニメ、音楽など

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Kapp / Lemba / Lüdig: Orchestral Works - Chandos Records

 

念願の作品がやっと聴けました。

「Mihkel Lüdig」の「幻想序曲第1番」です。

YouTubeにも出ているのですけど、

良い仕事をしている人にはお金を出したい主義なので、

敢えてアルバムを購入しました。

 

ネットの時代、只で手に入れるのが当たり前みたいな風潮ですけど、

正直どうなのかな?と思います。

 

例えば、自分が心を込めて作ったものを無料で消費されるというのは、

余り気分の良いものではない気がします。

というか、文化の衰退に繋がると思うので、

この世の全てのクリエイターやアーティストが、

その仕事に見合った利益が得られる様になれれば良いなあと思っています。

 

それはともかく、1987年と1989年に、

「エストニア管弦楽作品集」

(MUSIC FROM ESTONIA)

という2つのCDがCHANDOSからリリースされたのですが、

その内の第2集の解説書に、「Mihkel Lüdig」の「幻想序曲」が、

エストニア民謡を用いた初の管弦楽作品と紹介されていて、

その曲がずっと気になっていました。

 

【CHAN8525】

【CHAN8656】

 

あれから30年以上経過してやっとCD化ですが、

取り敢えず良かったです。

 

それではレビューと行きます。

自分で調べた内容の他に、

輸入元の㈱東京エムプラスによる日本語解説書も参考にしています。

(日本語解説書の同封されているものを購入しました)

トラック番号順です。

 

幻想序曲 第2番 ロ短調(1945年)

ミヒケル・ルティク(リュディグ)(1880~1958年)

“Avamäng-fantaasia” nr 2 h-moll

Mihkel Lüdig

1945年、ルティク65歳の誕生日を祝う演奏会にて初演。

9分ほどの作品。

如何にも「祝典序曲」といった面持ちですが、

晩年の作品だけあり、完成度は高く感じます。

 

民謡っぽい旋律がありますが、

「幻想序曲第1番」(後述)の様に、

民謡を用いたりしているのかどうかは不明です。

 

躍動感溢れる旋律がどことなく、フィンランドの作曲家

ヘイノ・カスキの交響曲ロ短調の第2楽章を思い出しましたが、

フィンランドとエストニアは兄弟民族ですので。

 

「Lüdig」の日本語表記について。

公式には「リュディグ」となっている様ですが、

私も最初そう表記していました。

 

しかし、エストニア語には音声学的に有声音が無いそうで。

つまり、「B」は「P」、「D」は「T」、「G」は「K」の発音となる様で。

(「Bは多少濁るらしい)

 

しかも、語末など詰まる発音になる場合があるのも要注意。

二重子音でも無いのに詰まる発音にもなる事があります。

(例:「Läte」→「ラッテ」)

 

それから、変母音は、

ドイツ語の「ウムラウト」の様な「エ」に近い感じにならず、

「Ä」は開き気味の「ア」、

「Ü」は「ユ」よりもくぐもった「ウ」な感じに聴こえます。

 

また「B」「D」「G」は「短子音」といって詰まる発音をしないので、

それらを総合的に鑑み、

「ルティク」「リュティク」が原音に近いのではないかと想像。

敢えてその様に表記しました。

発音サイトのFORVOに出ていれば良かったのですが。

 

でも、エストニア語話者の喋りを聞いてみると、

普通に有声音を発音しているのですね。

DとかBとかGの発音をしているのです。何故?

 

人によっては、区別している方もいるみたいです。

若い世代なのか外国系なのか?

 

なので「リュディグ」でも良いのかもと思いますが、

いずれにしてもネイティヴに訊かないと分かりません。

 

何かエストニア語って、有声音が無いというよりも、

北京語話者や朝鮮韓国語話者が、

清音と濁音の違いを意識していないのと似た様な感じで、

有声音と無声音の違いを殊更意識していないだけなのかも?

あくまで素人の私の想像ですが。

 

※「p」「t」「k」が詰まる発音なのは「長子音」だかららしい。

「pp」「tt」「kk」と重子音の場合は「超長子音」といって、

詰まる間が長い発音の様です。

 

ピアノ協奏曲 第1番 ト長調(1905, 1910改訂)

アルトゥル・レンバ(1885~1963年)

Klaverikontsert nr 1 G-duur, op. 2

Artur Lemba

エストニア史上初の交響曲を書いたレンバですが、

彼のピアノ協奏曲第1番は、

エストニア史上初のピアノ協奏曲とはなりませんでした。

 

エストニア初の職業音楽家と言われる、

ルトルフ(ルドルフ)・トビアス(Rudolf Tobias)が書いた、

ピアノ協奏曲 ニ短調(1897年)が、

エストニア初ピアノ協奏曲の様です。

CD化は確認していませんが、YouTubeには出ています。

(LPからYouTubeに出したんでしょうかね?)

 

エストニア初の管弦楽作品を書いたのも、トビアスです。

序曲「ユリウス・カエサル」

Avamäng “Julius Caesar”

です。1896年作曲。

 

話を元に戻します。

叙情性と技巧性に溢れたロマンティックな作風は、

夢と希望に燃えるかのよう。

3楽章制ですが、2楽章から切れ目なく3楽章に突入します。

22分ほど。 

 

この作品には凄いエピソードがあり、1908年の、

サンクト・ペテルブルク音楽院の卒業式の際に、

レンバ自身のピアノ独奏で初演された際、

何と、プロコフィエフが、打楽器担当で参加していたそう。

 

実は以前、FINLANDIAからこの曲のCDが出ていて、

AmazonかHMVかTowerRecords辺りで購入を試みようとしたものの、

既に廃盤となっていた様で、大分待たされた挙句に、

「入手不可能と判明しましたので予約を取り消させていただきます」

と通知が来たりしていました。

 

Lemba, Sumera, Vahi - Estonian Piano Concertos - Amazon.com

 

エドゥアルド・トゥビンとレポ・スメラのピアノ協奏曲との抱き合わせ。

ちなみにフィンランディアは、ワーナーに買収されてしまったそうです。

ユダヤ資本ですし、お金持ってますからね。

 

ちなみに、レンバは5曲ものピアノ協奏曲を書いていますが、

全てYouTubeに出ています。

 

交響的情景《夏の夜》(1910年)

ミヒケル・ルティク

Sümfooniline poeem "Jaaniöö"

Mihkel Lüdig

エストニア語では「交響詩」を意味する名前で出ているのですが、

日本語の公式題では「交響的情景」と出ています。

英語版で「Symphonic Scene」と出ているので、

英語版に倣って「交響的情景」とした様です。

 

夜想曲風ですが、

フルートや弦によって奏でられる民謡風旋律が印象的。

実際に民謡を用いているのかどうかは不明ですが。

 

中間部では、円舞曲風に大きく盛り上がりますが、

グリンカの管弦楽作品を彷彿とさせます。

 

1869年から現在も続く、

「歌と踊りの祭典」(Laulu- ja tantsupidu)

の第7回(1910年)にてタリンで初演されたとの事。

6~7分ほど

 

幻想序曲第1番ロ短調(1906年)

ミヒケル・ルティク

“Avamäng-fantaasia” nr 1 h-moll

Mihkel Lüdig

エストニア民謡を用いた初の管弦楽作品と見られていますが、

先輩格の作曲家、アレクサンテル・ラッテ(Aleksander Läte)が、

「エストニア舞曲」(管弦楽のための)(1904年)

(Eesti tants, sümfooniaorkester)

という作品を直前に書いているとの情報もあります。

ラッテについてはこちらを↓

アレクサンテル・ラッテ(Aleksander Läte)エストニアの作曲家

2010年7月5日

 

エストニア音楽の演奏会 YouTubeの削除された音楽を復活

2018年8月2日

 

タルトゥに建築された「ヴァネムイネ劇場」開場を祝し、

1906年に初演されたとの事。

晩年に書かれた第2番と調性が同じというのが興味深い。

 

哀愁の民謡風メロディではじまり、段々と高揚していき、

盛り上がりが頂点に達すると、フルートによる可愛らしいメロディが奏でられる。

それが、民謡「目覚めよ、目覚めよ…」(Üles, üles...)を引用したもの。

 

原曲と思われる、

「目覚めよ、目覚めよ、愛しい兄弟」(Üles, Üles, Hellad Vennad)

がYouTubeに幾つかでています。

 

その後、金管がファンファーレ風に咆哮したり、

劇的で歌心溢れる旋律がオペラかと思う様な描写で、

とても聴き応えありました。

 

最後の告解(ヴァイオリンと弦楽合奏)(1905年)

アルトゥル・カップ(1878~1952年)

編曲:チャールズ・コールマン

“Viimne piht”

Artur Kapp

Orkestreerinud Charles Coleman

アルトゥル・カップは、ルドルフ・トビアスらと共に、

エストニアクラシック音楽黎明期から活躍した作曲家。

 

1899年に、劇的序曲「ドン・カルロ」を作曲。

「カップ一族の管弦楽作品集」

(Kapp Family Orchestral Works)

に収録。

編成にオルガンを伴った大規模なものですが、

彼は元々オルガンを学ぶつもりだった事と関係しているのでしょうか?

【CHAN10441】

 

肝心の「最後の告解」ですが、

元はピアノとオルガンのための作品を、

ヴァイオリンと弦楽オーケストラの為に編曲したもの。

 

瞑想的で牧歌的。

叙情性溢れる優しい旋律、といった感じ。

6分ほど

 

交響曲第4番「青年交響曲」(1948年)

アルトゥル・カップ

Sümfoonia nr 4 “Noortesümfoonia”

Artur Kapp

20世紀半ばながら、19世紀後半的作風。

表題の通り、若々しさに溢れた作風です。

 

自身の若い頃を振り返る懐古的な作品ですが、

エストニアの民謡を用いた、文字通りエストニアの交響曲。

全4楽章で23分ほど。

 

この曲が書かれたのは、

エストニアがソ連に占領されてしまった直後です。

 

まだスターリンが存命中だったからなのか?

全連邦レーニン共産主義青年同盟創立30周年記念に献呈。

スターリン賞「大規模器楽作品部門」第二位(1950年)

でも内心どう思っていたのでしょうかね?

 

当時のソ連には表現に「社会主義リアリズム」が求められ、

前衛に走るなどその理念から外れると批判されました。

 

「批判」されると生命に関わります。

なので、名誉回復を図らないといけない。

所謂「分かりやすい作品」を作らないといけない。

 

カップの場合は、

元々ロマン派を志向していたと思われるので

関係ないとは思います。

 

でも、この交響曲は、

ソ連に侵略される前のエストニアを

懐かしむ意図を持っていた事を考えると、

なるほど、と思ってしまったり。

 

解説書によると、複数の民謡を用いているとの事ですが、

フィナーレに使われている、

「私がまだ若かった頃」

(Kui mina alles noor veel olin)

しか紹介されていませんでした。

他の民謡も知りたいと思いました。

というか、

まさに「青年交響曲」で引用されるのに相応しい民謡ですね。

ちなみに、この民謡と思われる歌もYouTubeに出ています。

 

エストニアの交響曲と言えば、

エドゥアルド・トゥビンのもの(全10曲)がよく知られていますが、

前述のレンバや、「エストニア近代音楽の父」と呼ばれる、

ヘイノ・エッレル(Heino Eller)も書いています。

カップは、5曲の交響曲を書いています。

 

それと、カップの仕事で気になったのは、

組曲第1番「エストニアの歌」(1906~1912年)

Süit nr. 1 eesti rahvaviisidest

という、民謡に基づいた4曲からなる管弦楽作品。

 

組曲第2番「ルーンの歌」(1931年)

Süit nr. 2 eesti runoviisidele

という作品も書いています。

残念ながら、どちらもYouTubeに出ていない様です。

 

Artur Kapp – Vikipeedia

 

Mihkel Lüdig | ディスコグラフィー | Discogs

 

Artur Lemba | ディスコグラフィー | Discogs

 

ネーメ・ヤルヴィ/カップ、リュディグ、レンバ: 管弦楽作品集

Artur Kapp, Mihkel Lüdig and Artur Lemba: Orchestral Works

指揮:ネーメ・ヤルヴィ

Neeme Järvi

演奏:エストニア国立交響楽団

Eesti Riiklik Sümfooniaorkester

ヴァイオリン:トゥリーン・ルーベル

Turiin Ruubel

ピアノ:ミヒケル・ポル

Mihkel Poll

【CHAN20150】

 

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Pärnu Music Festival

パルヌ音楽祭2020年

Pärnu muusikafestival 2020

 

パーヴォ・ヤルヴィが、子どもの頃に過ごしたパルヌにて、

父であるネーメ・ヤルヴィと共に、2010年に立ち上げたのが、

パルヌ音楽祭。

しかも、今年は10周年!!

パルヌ音楽祭 | Pärnu Muusikafestival | 月刊音楽祭

 

2020年7月16~23日に開催予定の様ですが、

新型コロナウイルスの影響は大丈夫でしょうか?

 

過去に、日本人の演奏家も参加していた様ですが、

今年はどうなのでしょう?

 

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ANIMEFEST

エストニア日本アニメ映画際

Jaapani Animatsiooni Filmifestival (JAFF)

 

タリンとタルトゥで毎年開催されているという、

日本のアニメの上映会。

今年(2020年)で14回目となる様です。

 

サイト内の上映作品一覧を見ると、

日本の実写映画も取り扱っている様です。

黒沢明監督の作品まで。

 

日本とエストニアの関係史の200年を本に纏めるプロジェクトの方が、

Twitterで紹介していましたが、これは知りませんでした。

 

このプロジェクトは、エストニア外務省公認だそうで、

クラウドファンディングするとの事。

支援しようかな…。

凌霜隊のクラファンにも支援したし。

 

話を元に戻しますが、確かこのイベント、

元は4~5月頃開催予定だった様な(余り憶えていませんが)。

 

それが、10月2~11日に変更となってしまった様です。

しかも、タリン単独開催でしょうか?

新型コロナウイルスの影響でしょうね。

 

ポスターに出ている桃色の髪の女の子、

マスクをしていますが、元はマスクをしていませんでした。

見ていて辛いものがあります。

 

無事開催できる事を祈っています!!

 

【追記:2020/6/16】

「パルヌ音楽祭」「日本アニメ音楽祭」の記事追加。

 

【追記:2021/1/13】

「日本とエストニアの関係史の200年」

プロジェクトは、事情により中止となりました。

クラファンに協力していただけに、非常に残念です。