ロシアのSFアニメーション特集 - その1 | 妄想印象派 自作のイラストや漫画、アニメ、音楽など

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ロシアのSFアニメーションのご紹介です。


この記事を書く切っ掛けとなったのは、

ポーランドのSF小説家、

スタニスワフ・レム(Stanisław Lem)原作の、

アゼルバイジャンのアニメーション、

『泰平ヨンの冒険』(Sakit Yonun macəraları)1985年

について調べていた時に、芋蔓式に幾つも発見したので、

纏めて紹介しようと思ったのです。


『泰平ヨンの冒険』は、

監督がロシア人の上、使用言語もロシア語なので、

実質的にソビエト・ロシアのアニメーションです。


ロシア語の題名も、

『泰平ヨンの日記より、インターロップへの旅行』

Из дневников Ийона Тихого. Путешествие на Интеропию.

という風に、アゼルバイジャン語の題名に対応していません。


その作品についても、追々紹介する事として、

取り敢えずは、ロシアのSFアニメーションをご紹介いたします。






ここに猛虎が棲んでいる(1989年)

Здесь могут водиться тигры

https://www.youtube.com/watch?v=Ns3FpGSikGY


Here There May Be Tygers


Здесь могут водиться тигры - Wikipedia Русский


監督(Режиссёр):ヴラディーミル・アナトーリエヴィチ・サムソーノフ

(Владимир Анатольевич Самсонов)


スタジオ(Студия):エクラーン(Экран)


レイ・ブラッドベリ(Ray Bradbury)の短編小説

『ここに虎あれ』(Here There Be Tygers)1951年

をアニメーション化。


第84恒星系第7惑星に、

宇宙船に乗って4人の男たちがやってきました。


彼らは、鉱物資源を求めて遥々地球からやってきた、

「惑星猟人」(охотники за планетами)です。


彼らの内の3人は、この地球に似た星が意識を持っており、

訪れた訪問客に、望みのものを与えてくれるのが分かった事で、

満足している中、一人、チャッタートン(Чаттертон)だけは、

この星の資源を奪おうと画策しますが・・・。


この10分程の短編作品は、

ソビエト連邦が崩壊しようとする激動期に制作されました。


その意味でも興味深いですが、この当時は、

地球的規模の環境問題が流行していた時期でもあります。


ソビエト連邦諸国でも環境問題が話題になっていたのかどうかは

よく分かりませんが、チェルノブイリ原発事故の直後なので、

恐らく多くの人々の関心を集めていたに違いありません。

(ソビエトなので、言論統制がされていたのかも知れませんが)


このアニメーションの原作が書かれたのは1951年ですが、

地球の恵みに感謝しよう、

という意図が込められているかも知れない内容は、

作られた時期と丁度合っていたのではないかと思います。


我々人類は、自然というものは、

自然の摂理によって機械的に物事が淡々と進んでいるだけ、

と思い込み、自然に対して感謝もせず、

只当たり前の様に収奪するだけという感じがいたします。


ここ最近、世界中で発生している異常気象、

自然界の不可思議な現象等は、

人類に対する警告の様な気がしてなりません。


このアニメーションに登場する地球型惑星の様に、

地球が本当に意識を持っているのかどうかは分かりません。

(その様に仰る方もおられますが)


しかし、地球を労わり感謝する気持ちを持つのは

大切な事なのではないでしょうか?


地球がダメになったら、我々は生きていかれませんし。


「自分さえ良ければいい」

とは思わない様にしたいですね。


未来を担う子どもたちの為を思いながら行動したいですね。






AMBA - 生体構築保型集団(1994-1995年)

АМБА (мультфильм)

https://www.youtube.com/watch?v=P7LoNafiwA8


АМБА


АМБА (мультфильм) - Wikipedia Русский


監督(Режиссёр):ゲナジー・イヴァーノヴィチ・チシチェンコ

(Геннадий Иванович Тищенко)


スタジオ(Студия):エクラーン(Экран)


ソビエト連邦崩壊直後の、1990年代に制作された作品。


第一部が1994年で、第二部が1995年。


私の知る限りでは、

1980年代頃までのソビエトのSFアニメーションは、

例えばメカやコスチュームのデザイン等に、

余り洗練されたものを感じません。


しかし、この作品では、

デザインがかなり洗練されている様に思いました。


内容についてですが、

ロシア語に精通しているわけでは無いので、

かなりの部分を想像で書きます。


舞台は「火星」みたいですが、そこで、

遺伝子操作技術によって100万人を養う事の出来る生物資源計画である、

「アンバ」(AMBA)を、科学者のハーパー(Харпер)が進めていました。


そこで、その計画の現状がどうなっているのかを確認すべく、

2人の男が調査に向かいました。


すると、ハーパーの愛娘ユリヤ(Юля)の乗った宇宙船があり、

同行調査する事となった、といった感じでしょうか?


しかし実際は、ウイルス感染により突然変異を起こし、

生体が暴走してしまい、ハーパー自身も、

致命的な放射線を浴びた為に、

自立生存支援システムの働きにより、

蛸の様な姿に改造させられていました。


星自体に意識がある「ここに虎が棲んでいる」を彷彿とさせますが、

星全体に生体が張り巡らされているという所が、

設定的にちょっと異なります。

 

生体の部分々々にそれぞれ異なった意識でもあるのか、

生体の一部を犬やハーパーの姿に変化させる事が出来る様ですが、

生体には、遺伝子操作させられて死んだ犬のレックス(Рекс)

の意識も含まれている様です。


遺伝子操作技術(バイオテクノロジー)の危険性を暗に示した、

ディストピア作品なのでしょうね。


因みに私は、遺伝子組み換え食品、

ハイブリット種(F1種子)には反対です!!


「АМБА」とは、Wikipediaによると、

「Автоморфный Биоархитектурный Ансамбль」

の略だそうです。


「Автоморфный」は、

英語の「Automorphic」(保形)に相当すると思われます。


「Биоархитектурный」は、

英語の「Bio-architecture」(生体構築)

に相当すると思われます。


「Ансамбль」は、

仏語の「Ensemble」(一緒に)から来た言葉と思われ、

「集団」(主に芸術家の)を意味する様です。


日本語訳に苦労しました・・・。






実験場(1977年)

Полигон

https://www.youtube.com/watch?v=NnJbtbh4tDE


Полигон 1
Полигон 2


Полигон (мультфильм) - Wikipedia Русский


監督(режиссёр):アナトリー・アレクセーヴィチ・ペトロフ

(Анатолий Алексеевич Петров)


スタジオ(Студия):ソユーズムリトフィリム(Союзмультфильм)


ソヴィエトの空想科学小説家、劇作家、画家の、

セーヴェル・フェーリクソヴィチ・ガンソフスキー

(Север Феликсович Гансовский)

による反戦をテーマにした同名の空想科学物語が原作のアニメーション。


私がこの作品を見てまず驚いたのは、

3DCG技術が未だまともに無かったと思われる1970年代に、

こんな立体感のあるアニメーションが制作されていたこと。


エアブラシっぽいですけど、

一体どんな技法で制作したのでしょうか?


3DCG技術が発達していなかった時代の、

立体的なアニメーション作品は、幾つか拝見した事があるのですけど、

大体に於いて、余り動きの少ないものが多いという印象でした。


一枚描くのに通常のアニメーション作品よりも時間が掛かるわけで、

動きの少ないものになるのは致し方ないのかも知れません。


しかし、今回紹介した作品は、普通に動きがあります。


しかも、制作に何年も掛けていない様です。


Wikipediaによると、

『フォトグラフィカ』(Фотографика, Photographica)

という技術を用いているそうなのですけど、

その具体的な内容は分かりません。


この作品の内容ですが、

例によって言葉がよく分からないのでかなりの部分を想像で書きます。


とある南の島で、軍隊が島民から強制的に島を接収し、

最新兵器の実験場を造成する。


そこでは、自分の意思で敵の攻撃をかわすのみならず、

人の心を読み取る能力まで持つ人工知能を搭載した

戦車の試験が行われていた。


実はこの戦車の発明者は、

自分の息子を殺した犯人に復讐する為に、

この試験に立ち会ったのだった・・・。


といった感じでしょうか。


英語の字幕付きなので、

英語が理解出来る方は内容が分かるかと思います。


この作品には、

植民地主義に対する非難も込められているのが見て分かります。


というのも、軍人たちを攻撃する戦車が、

島民たちに対しては一切攻撃しないからです。


因みに、原作の概要を紹介しているブログがあったので、

参考にさせていただくと、軍隊が、インディアンの住む島を接収し、

人の恐怖心を感知して自動的に攻撃する

最新兵器の実験をするのですが、作動し始めると、

実験に立ち会った軍人達をも攻撃し始め、

更にその兵器の停止スイッチも作られていなかった為、

歯止めが利かず・・・、といった恐ろしい内容だそうです。

あまりにもオーソドックスな  F・ロッテンシュタイナー編『異邦からの眺め』 - 奇妙な世界の片隅で


最近「インディアンの言葉」に興味がありよく読んでいるのですが、

人の心を読み取って攻撃する兵器が反応しないのも頷けます。






というわけで、今回紹介した作品は3作品共、

色々と深く考えさせられるものでした。


いずれも、人間の「傲慢さ」への批判が、

貫かれているのではないでしょうか。


西側資本主義社会は勿論の事、

ソビエト政権とて、傲慢な所がありました。


今この世の中、

キナ臭い雰囲気が感じられなくも無いですが、

自分一人でも出来る

「世の中の為になること」

を粛々と実行して行きたいと思います。


もし「思考が現実化する」というのであれば、

嫌な事は考えない様にしたいですね。


勿論、「現実を直視しつつ」です!!


ロシアのSFアニメーションはまだまだありますので、

後日また取り上げられれば、と思います。


因みに、ロシアでは『空想科学』(Science Fiction)の事を

『ファンタスチカ』(Фантастика)

と呼ぶ様ですが、コチラの頁の説明によると↓

高野史緒『時間はだれも待ってくれない 21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集』(高野史緒編)

「SF」だけでなく「ファンタジー」や「歴史改変小説」「幻想文学」

「ホラー」等も包括した、幾分広い括りだそうです。