画像はWikipediaより拝借
1901年10月8日、テーレマルク(テレマルク)地方(Telemark)のロルダール(Lårdal)生まれ
最初は教師として働くが、作曲に専念するため、25歳で退職し、1927年にオスロに移住。
1930年に、ノルウェー放送協会(NRK, Norsk Rikskringkasting)に勤務するが、
1944年、ドイツの圧力によって解雇され、テレマルク地方のヘッダール(Heddal)に移り住む。
1945年、オスロに戻った。
グローヴェンは、1000を越える旋律を含むノルウェー民謡のコレクションを作成し、
幾つかの民謡に関する論文を書いた。
独自の電子オルガンの製作もしている。
1977年2月8日、オスロ(Oslo)にて死去。
作品には、2つの交響曲、6つの交響組曲を含む管弦楽曲、ピアノ協奏曲、4つのカンタータ、
室内楽曲、合唱曲、歌曲、オルガン曲があり、
ハーディングフェーレ(ハルダンゲルフィドル, Hardingfele)が編成に組まれる事がよくある。
※上記経歴は、主にWikipedia日本語版を参考にして、独自にまとめたもの。
【主な管弦楽作品】(Komposisjoner for orkester)
・交響詩『ルネサンス』(1935年)
Renessanse, symfonisk dikt, op. 24A
※ハンス・エルンスト・ヒンク(Hans Ernst Kinck)の
架空物語「ルネサンスの 人々」(Renæssanse-mennesker)に基づく。
・交響曲第1番『高原に向かって』(1938年 改訂1951年)
1. symfoni, "Innover Viddene", op. 26
※ハンス・エルンスト・ヒンク(Hans Ernst Kinck)の
ドラマ「家畜商人」(Driftekaren)に触発されて書いたとのこと。
・山の歌(1938年)
Fjelltonar, op. 27
※「雄牛の歌」(Stutarlåt)、「ヴィニエの歌」(Vinjesong)、「小川」(Siklebekken)
を用いているとのこと。
・イーヴァル・オーセン組曲(1946年)
Ivar Aasen suite, op. 33
・交響曲第2番『真夜中の時』(1946年)
2. Symfoni, "Midnattstimen", op. 34
・ピアノ協奏曲(1947 / 1949年)
Klaverkonsert, op. 39A
※「ハクサンチドリ」(Marihand)と「ラーリンと子守唄」(Laling og Sull)を引用したとのこと。
・ヤラルヨード序曲(1950年)
Hjalarljod, ouvertyre for orkester, op. 38
・ノルウェー交響舞曲第1番(1956年)
Symfoniske slåttar, op. 43
・宙を舞う頭飾り - ノルウェー交響舞曲第2番(1965年, 初演:1967年)
Faldafeykir, Symfoniske slåttar 2, op. 53
※「主な作品」は、主にWikipedia英語版とノルウェー語版等を参考に、まとめました。
【資料】
http://nbl.snl.no/Eivind_Groven
ピアノ協奏曲(Klaverkonsert)
演奏:トロンハイム交響楽団(Trondheim Symfoniorkester)
オーレ(ウーレ)・クリスティアン・ルード(Ole Kristian Ruud)
http://www.youtube.com/watch?v=J8QgJC88Ri0
今回紹介する作曲家は、20世紀生まれの20世紀に活躍した作曲家ですが、
作品を聴いてみればお分かりになる通り、
作風が後期ロマン派の枠内に留まっています。
より厳密に言えば、19世紀には見られない様な、
20世紀的な妙味も若干感じられました。
スウェーデンで言えば、
クット・アッテルベリ(Kurt Atterberg)や、
オスカル・リンドベリ(Oskar Lindberg)
辺りに立ち位置的に近いかも知れません。
作品の構成や、オーケストレーション技術は確かなものだと思います。
勿論、演奏者の演奏技術に支えられて、
魅力が引き出されているわけですけど。
彼の作風で極めて特徴的なのは、基本的に、
ノルウェーの民俗音楽の要素に基づいて作曲されていることです。
彼は、音楽一家の家庭に生まれ、伝統的な音楽に囲まれて育ったそうで、
それが、後に厖大な数のノルウェー民謡を蒐集し、
研究する切っ掛けにもなったと思われますが、
自作にもその影響が反映されたのだと思います。
◎「ヤラルヨード」(Hjalarljod)について
ヤラルヨード序曲(Hjalarljod ouvertyre)
演奏:スタヴァンゲル交響楽団(Stavanger Symfoniorkester)
指揮:アイヴィン・オードラン(Eivind Aadland)
http://www.youtube.com/watch?v=jYxAEwyEQMA
個人的に最も気に入っているのが「ヤラルヨード序曲」なのですが、
その理由は、ドラクエ(ドラゴンクエスト)に代表される様な、
RPG(ロールプレイングゲーム)に使えそうな雰囲気を漂わせているからです。
冒頭の、金管によるファンファーレ風の序奏の次に登場する、
ヴァイオリンの旋律が、特にそんな印象です。
ドラクエの交響組曲にさりげなく差し挟んでも、全く違和感無い感じ?
勇壮な雰囲気なので、ハリウッドのアクション映画にも使えそう?
こういったクラシック音楽の愉しみ方は、正統派的なクラシック愛好家からは
軽蔑される邪道なやり方なのだろうとは思いますけれど、
愉しみ方は人それぞれで良いのではないでしょうか。
「のだめカンタービレ」からクラシックに興味を持ったのだって、
邪道と言えば邪道かも知れませんし。
さて、この作品の題名の意味を調べましたところ、
Wikipediaの頁を発見いたしました。
Hjalarljod - Wikipedia Norsk bokmål
最初、大学書林の分厚い「ノルウェー語辞典」で意味を調べてみたのですが、
この言葉そのものは出ていませんでした。
せいぜい「ljom, ljomen」(反響、エコー)とか、
「ljome」(共鳴する、鳴り響く、反響する)等といった、近似の単語くらい。
が、Wikipedia頁があったので、その内容の概要を翻訳してみました。
1950年に、オスロ市設立900年を記念して新築された市役所の、
新築記念式典の際のコンテストの為に書かれたそうです。
ルードヴィーク・イルゲンス=イェンセン(Ludvig Irgens Jensen)、
カール・アンネシェン(Karl Andersen)、そして、
グローヴェンの3人の作曲家の作品が選ばれたそうです。
肝心の「ヤラルヨード」(Hjalarljod)の意味についてですが、
「Hjalar-ljod」という綴りもあるので、
「Hjalar」と「ljod」の2つの単語により構成されているという事が分かりました。
ではまず、「hjalar」(ヤラル)の元になっている「hjale」の意味についてですが、
「森と山に響き渡る歌声」
という意味だそうです。
で、残りの「ljod」(ヨード)の意味ですが、「lyd」(音、響き)と同意だそうです。
つまり「森と山に響き渡る歌声の序曲」といった感じでしょうか。
◎「グローヴェン作電子オルガン」について
冒頭の経歴に出ている「電子オルガン」がとても気になったので、
調べてみました。
演奏中に、純正律の転調を自動的に行う事が出来る、
「純正調ハーモニウム(リードオルガン)」
(Det renstemte harmoniet, The pure-tuned harmonium)
を、1936年に完成し、その電子式である、
「純正調電子オルガン」
(De renstemte elektronorglene, The pure-tuned electronic organs)
を、1965年に完成させたのだとか。
http://www.orgelhuset.org/orgel.htm
http://www.orgelhuset.org/en/orgel.htm
http://www.wmich.edu/mus-theo/groven/eivind.html
「純正律」というのは、
自然倍音(基準音の倍音が整数倍の周波数)を用いた音階で、
主要3和音が綺麗に響きます。
それに対して「平均律」というのは、
1オクターヴを単純に12等分で割った音階ですが、
和音が美しく響きません。
しかし、平均律は転調する事が可能ですけど、
純正律は等分に割っていないので転調ができません。
また、平均律では、例えば「ド#」と「レ♭」は同じ音として扱われますが、
純正律ではそれらの音は微妙に異なります。
http://www.hi-ho.ne.jp/tadasu/scale.htm
そこで、それらの問題を解決した、世界初の、純正調パイプオルガンが、
1889年に、ドイツで、田中正平によって発明されました。
ところが、鍵盤数が1オクターヴ53音もあり、演奏が困難であるため、
普及しなかったとのこと。
https://creofuga.net/audios/146
その純正調パイプオルガンは戦争で焼失してしまったそうですが、
その後ヴィーンで研究が進められ作られたという純正調オルガン。
http://junhime080520.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/post-a1eb.html
帰国した田中正平は、純正調オルガンを5台作らせたそうですが、
その内の最後の1台が、浜松市楽器博物館に収蔵されているそうです。
https://www.youtube.com/watch?v=ypkKEVm7Jms
で、話をグローヴェンに戻しますが、
電子式の純正調オルガンを製作したのが、グローヴェンというわけです。
現在では、コンピューターで音を調整する事で、
通常の鍵盤でも純正調オルガンとして演奏する事が可能だそうですが、
その元祖を制作したのが、グローヴェンという事の様です。
◎「ハーディングフェーレ」とは
冒頭の経歴に出ている「ハーディングフェーレ」とは、
ノルウェーの民族楽器の事ですが、一般的なヴァイオリンよりも弦が多く、
4本の演奏弦に加え指板の下部に、
4~5本の共鳴弦が張られているのが特徴。
西ノルウェーのハルダンゲル地方(Hardanger)で生まれたそうです。
英語では「Hardanger fiddle」(ハーダンガー・フィドル)と呼ばれていますが、
日本語では、それらの中間的な「ハルダンゲル・フィドル」
と呼ぶのが一般的の様です。
◎「ハンス・エルンスト・ヒンク」とは
【主な管弦楽作品】の項に出てきた、
ハンス・エルンスト・ヒンク(1865~1926)とは?
運よくコトバンクに出ていたので、参考にさせていただくと、
ノルウェーの新ロマン主義文学の代表的小説家だそうです。
自然主義から出発したが、1894年のパリ滞在の後、
幻想と象徴に溢れた作風へと転じたそうです。
グローヴェンは、ヒンクの作品に基づく楽曲を幾つも書いている様です。
◎「イーヴァル・オーセン」とは
【主な管弦楽作品】の項に出てきた、
イーヴァル・オーセン(1813~1896)とは?
デンマーク語の影響を排した新しいノルウェー語の確立に努め、
「ランスモール」(Landsmål)(現在のニーノシュク)を創生した人物です。
400年以上にわたり、デンマークに支配されていたノルウェーが、
19世紀初頭にその支配から脱した時、
文化的にもデンマークから独立しようという運動も活発で、
その様な社会情勢の中で、言語の面でもデンマーク語からの強い影響を
受けているノルウェー語を見直そうという動きが出てきました。
この動きには2つの流れがあり、一つは、
従来のデンマーク語風ノルウェー語を基盤としつつ、
ノルウェー独自の語彙をこれに加えようとするもので、
後の「リスクモール」(Riksmål)がこれです。
もう一つは、デンマーク語の影響を排して、
古来からあるノルウェー独自の言語を復活させようというものでした。
オーセンは、全国各地を旅行しながら、地方文化と言語について、
記録と研究を行い、その結果として「ランスモール」が完成されました。
前者は「リスクモール」から「ブークモール」(Bokmål)に改称され、
後者は「ランスモール」から「ニーノシュク」(Nynorsk)に改称され、
それぞれが公用語として認められましたが、
一時勢いのあったニーノシュク教育は、1945年以降は後退してしまい、
現在では、ブークモールが圧倒的に優勢だそうです。
◎CD化について
CDは、主要な管弦楽作品の他、声楽作品等が、一通り出ていますね。
交響曲第2番とピアノ協奏曲の収録されているCDは、
20年も前にリリースされたものですが、
最近でも某大手の販売サイトで手に入れられました。
下に示したものの他にも、
NAXOSの『ノルウェー・クラシック名曲集』(8.557018)に、
『夕べに』(Om kvelden, op. 60)という管弦楽作品が収録されているそうです。
山脈に向かって(Towards the Mountains)
・ヤラルヨード序曲
・交響曲第1番『高原に向かって』
・ノルウェー交響舞曲第1番
・ノルウェー交響舞曲第2番『宙を舞う頭飾り』
演奏:スタヴァンゲル交響楽団(Stavanger Symfoniorkester)
指揮:アイヴィン・オードラン(Eivind Aadland)
BIS【BIS-CD-1312】2006年
ピアノ協奏曲 交響曲第2番
・ピアノ協奏曲
・交響曲第2番『真夜中の時』
演奏:トロンハイム交響楽団(Trondheim Symfoniorkester)
オーレ(ウーレ)・クリスティアン・ルード(Ole Kristian Ruud)
SIMAX【PSC3111】1993年
【追記】(翻訳について)
・「Laling og Sull」→「ラーリンと子守唄」
「Laling」には意味があるのか、それとも固有名詞なのか、よく分からないので、
とりあえず「ラーリン」としました。
インドに「Laling Qila」という砦があるそうですが、無関係そうに見えます。
・「Symfoniske slåttar」→「交響的舞曲」
「slåttar」の意味を「ノルウェー語辞典」(大学書林)で調べてみると、
「ノルウェー民謡」「メロディー」「歌曲」と出たのですが、CD化にあたって、
「Symphonic Dances」「交響舞曲」と出てしまっているため、
その表記を踏襲しました。
・「Marihand」→「ハクサンチドリ」
「Marihand」を上述の「ノルウェー語辞典」で調べてみた所、
「ラン」(蘭)と出たものの、ノルウェー語で蘭科は、
「Orkidéfamilien」(ブークモール)、「Orkidear」(ニーノシュク)です。
しかし、ハクサンチドリは、蘭科の植物なので、間違いではありません。
「Marihand」で画像検索すると、ハクサンチドリの画像が出てきたので、
ハクサンチドリとしました。
【追記:2022/9/1】
CD画像差し替え