ようこそ『つれづれショートショート』へ。
 こちら、書き散らしたSSやファンフィクを詰め込んでいく趣味ブログです。
 稚拙な文章ですが、ご意見ご感想などいただけると嬉しいです。大歓迎。


 ひとまず、テーマの説明など。


『当ブログ豆知識』
 ご挨拶やら、用語説明やらです。読まなくても平気かも。


『猫(ファンフィク)』
 劇団四季キャッツの二次創作です。主観が入りまくるのでたまにキャラが違…(オイ)
 ご贔屓はタガーとミスト。でも他の猫も出てきます(と思います)


『猫(オリジナル要素強)』
 魔女が裏路地で小さな黒猫を拾いました、から始まる、ご主人とミストと愉快な仲間たち(違)の日常話。
 出てくる猫はジェリクルキャッツたちですが、ご主人の魔女がやたらと出張っています(そしてミストがご主人ラブです)
 なので、ミュージカルのキャッツを純粋に愛する方には精神衛生上あまり良ろしくないかもしれません(…)


『二次創作』
 出てくる可能性があるのは、サモンナイトとか.hackあたりでしょうか。そのへんの妄想話になるかと思われます。


『オリジナル』
 楽しんでるのは私だけかもしれないオリジナル話。数種類のお話があるので、増えてきたらテーマ分けするかもしれません。


『その他』
 続きは書かないだろうなぁという単発モノや、台詞やネタだけの殴り書き等。



 こんなところでしょうか。


 そして私が『猫』というと、問答無用で『劇団四季のミュージカル・キャッツ』を指している事が多いです。テーマからそんなカンジです。
 話の流れからナマモノの猫かキャッツかを察していただけると有り難(殴)


 ではでは、ごゆっくりとお楽しみください。
 
「このばぁっかもん!!!!!」
「うわあっ!」
 劇場の中に響き渡った大音声に、ギルバートは思い切り耳を伏せた。
「お前の役はシャム猫軍の隊長じゃぞ、隊長!「やっちまえ!」なんぞというかけ声があるか!!!」
「や、だってその方が周りも気合いが入るかなーと…」
 帰ってきたのは先ほどを上回る怒声だった。
 
 
 全く最近の若いもんは。
 ぶつぶつ言いながら背を向けたガスに聞こえないように、こっそりと溜め息をつく。
「こっぴどくやられたわねぇ」
 入れ替わりに側にやってきたのは、グリドルボーンを演じるジェリーロラムだ。
 ギルバートは床に座り込んだままで彼女を見上げる。
「ガスはああ言うけどさぁ、オレって今まで演劇のエの字にも縁がなかったんだぜ? 隊長ならここでどう立ち回るかを想像してみろー!なんて言われてもさぁ…」
 再演される事になった『グロールタイガーの最期』
 そのシャム猫軍団隊長の役に、たぐい稀な体術をかわれたギルバートが引きずり込まれ…もとい、抜擢されたのはつい先日の事だ。
 やるからにはと一生懸命練習してきたが、何度やってもガスはあの調子だ。開幕はもう目の前だというのに。
 だってアドリブ入れていいって言ったじゃんなあ、と拗ねるギルバートにジェリーロラムはくすくすと笑ってみせる。
「なあ、どうしたらいいと思う…?」
 弱り切った様子で見上げられ、そうねえ、と口を開いた。
「グロールタイガーとシャム猫軍団総隊長は宿敵同士なのよ。だから手加減なんてありえないわよね。真剣勝負なの」
「そうだな」
「でもガスはそろそろ足腰が……(遠くを振り返って)あら、なんでも無いのよ、ガス(にっこり)……でしょう? だから本気で殴り掛かっちゃいけないわ」
「老人は大事にしないとな……(やはり遠くに向かって)あ、いや何でもないってばガス!」
「ということよ、ギル。わかってもらえたかしら」
「それは分かったけど…だから隊長らしくするにはどうすればいいんだ?」
「今の事をようく考えて忘れないでね。じゃ」
「じゃ、ってちょっと、ジェリー!?」
 追う手も虚しく、ジェリーロラムは軽やかに持ち場に戻っていってしまった。
 
 
 結局答えらしい答えも見つからず、とうとう初演の幕が上がった。
 矛盾するアドバイスに、ギルバートは始終眉を寄せて考え込んでいた。
 しかしその間も、みっちりと叩き込まれた台詞と殺陣を着々とこなしていく。
 劇の終了後に、別の事を考えながら舞台に立つなど言語道断!とガスの雷を受けたものの、観客の評判は上々だった。
 中でも
「眉間のしわが、重責を担う隊長の風格を表してるわよね~」
「凛々しくも悩める男の魅力ってカンジ!」
 等々の黄色い声が多かった事を明記しておく。
 
 カランコロン

 酒場の入口のベルが鳴る。
 足取りも軽く入ってきたのは、ハニーブロンドの髪を揺らした若い娘だ。口元はやわらかに微笑んでいて、顔なじみを見つけては挨拶を交わす。鈴を転がすような声が響くたびに店の中が明るくなっていくようで、客の誰もが笑顔になる。
 娘はマスターからグラスを二つと年季の入ったボトルを受け取ると、まっすぐに店の隅のテーブルへ向かった。
 
「こんばんは、ガス。今日もお話を聞かせて」
 
 年老いた毛並みの猫が顔を上げる。そのむっつりと曲げられた口が何か言いたげに開かれる前に、ついとグラスが差し出された。
 うっかりと受け取ってしまったそれに、なみなみと注がれる琥珀色の液体。
 ごまかすような咳払いの音を、娘は華やかな笑顔を浮かべて聞いてた。
 
 
 家に戻ると彼女がベッドに突っ伏しているというのは良くあることで。
 
 
 お昼の時間に少し遅れて家に着いた。
 玄関が閉まっていたので、家の隣の木に登る。
 寄り添うほどに近い枝から屋根に飛び移り、屋根裏の窓を爪先で押した。立て付けの怪しくなっている窓はキィときしんで簡単に開く。ホコリっぽい空気が鼻につく前に、小さく吸って息を止める。
 床に飛び降り、薄暗い中隙間をぬって。
 ホコリのつもっていない線の手前で立ち止まった。
 前足で床を叩く。光の差し込む隙間が出来る。
 入り口だ。
 僕はそこに体を滑り込ませた。
 
 
 まだてっぺんを過ぎたばかりの日の光が差し込む家の中は明るい。
 誰もいない台所を抜けて奥の部屋へ。
 この家でいちばん日当たりのいい場所、窓辺に置かれたベッドに彼女の姿はあった。
 きちんと整えられた布団の上、膝から下はベッドからはみ出していて、うつぶせに倒れ込んでそのまんま、といった風情。やわらかな毛布に突っ伏した顔はこちら半分だけが見て取れた。
 無造作に投げ出された手を飛び越えて、のぞき込む。
 気持ちよさそうな寝顔。
 もう1歩近づくと、目蓋が薄く開いた。
 片方だけの黒い瞳がぼくを見つける。
「お昼だよ」
 一応声をかけてみた。
 けれど彼女は聞いているのか分からないような様子のまま、ぼんやりと2回まばたいて、また瞳を閉じた。
 すぐに聞こえてくる小さな寝息。
 
「しょうがないなぁ、もう」
 ぼくはため息をつく。
 でもその声もため息も彼女には聞こえないように。
 肩口に寄り添って丸くなる。
 ほんとはお昼なんてどうでもいいんだ。
 
 
 くすぐったい距離と、時間。
 ぼくの特等席。
「手品っていうんだよ」
 小さな黒猫はそう言った。


「おい、タネも仕掛けも知らねぇヤツがなんか言ってんぞ」
「"マジック"には変わりないさ」
 庭での一部始終を眺めていたものたちが語る。
 けれどこれは騒ぎの当事者たちには預かり知らぬことと終わる。


「みんなと出かけてくるね」
 ミストフェリーズはそう言って、ほかの猫たちとともに木立の向こうへ駆けていった。
 それを見送った彼女は、家に戻って一輪挿しを取り出す。
 水切りの鋏の音を響かせながら、だれもいない部屋の中でこう言った。
「花を貰い損ねたな」
「べっつに」
 返事は窓の外の、さらにその上から降ってきた。
「手品製の花なんざいらねぇよ、魔法製なら考えてやってもいいけどな」
 窓際に花瓶を置く彼女の視界の隅で、長い尻尾の端の房が揺れている。
「魔法製なら、か」
 彼女が喉の奥で笑うと、気に食わなそうな沈黙を挟んで、派手な毛並みが出窓に音もなく降り立った。
「大体な、オマエが余計な知恵を付けさせるから、あのチビが臆病なまんまなんだろうが」
「処世術の一つくらい教えておくのは保護者として当然だろう」
「あーそうかよ」
 どっかりとあぐらをかいた派手猫は、紫の花を見上げた。
 遠い国の花だ。あの小さな黒猫が知る由もないだろうに。
「大したもんじゃねぇか」
「そうだな」
 視界の外の彼女は笑ったようだった。
「……」
「懐かしいか」
「そうでもないさ」

 それからしばらく静寂が続いた。
 空気の揺れる気配だけが満ち、まるでこの空間だけが過ぎ去った時間に繋がっているような錯覚さえ感じそうだ。
 それを断ち切ったのはわざとらしいため息ひとつ。

「昼寝の気が削がれた。場所が悪ィ」
「それは悪かった」
 彼女の手がひらめいて、すいと派手猫に差し出される。
「詫びの代わりだ。持って行け」
 そこにあるのは、活けられたのと同じ紫の花。
 派手猫はひとつ瞬いて、口の端を持ち上げた。
「コリャどうも」
 くわえようと顔を寄せ、ああ、とおもしろがるような夏の緑の瞳が彼女を見上げた。
「オマエの"手品"もそれなりだぜ?」
 それだけ言うと、彼女の手から花をさらって風のような早さで去っていった。
 
「…皮肉と取るべきか、素直に取るべきか」
ひねくれ者は扱いに困る。
そう呟いた彼女も、やがて部屋の奥へと姿を消した。