~その⑤からの続き~
病室で向かえる2回目の夜が明け、看護師に起こされて、3日目の入院生活が始まった。何とか一眠りできたのは良かったが、全身の症状が明らかに悪化している。前日と一番違うのは熱っぽいこと。測ってみると、38度近くある。相変わらず食欲はあるが、腕が重く、茶碗を持つのがやっとの状態。飲み込み難さも続いていて、人一倍食い意地の張っている僕が、食事がちっとも楽しくない。既に自力では、どうあがいても立ち上がることはできず、検査等へ向かう時の車椅子の使用でさえ、ベッドから車椅子への移動が無理な為に、不可能となった。だが、ふて腐れている余裕はなかったのだ。これから、密度の濃い、長い長い一日が始まるのだ。
9:00を過ぎた頃、M先生が来て、こう言った。
M先生、「今朝一番で、××医院(僕の掛かりつけの個人病院)から連絡がありまして、細菌検査の結果が出たんですが、カンピロバクターという細菌に感染していたということです」
携帯からネットで調べられる範囲でも、カンピロバクターが、ギランバレー症候群を引き起こす主な原因の一つであることは知っていた。今調べると、カンピロバクターが原因の場合、他の理由と比べて、重症化する可能性が大きく、後遺症の残る確率も高い。この時は、そこまでは把握してなかったが、かなり危険な状況だったことになる。
僕、「ということは、僕はやっぱり、ギランバレー症候群なんですか?」
M先生、「まだ、断定はできませんけど、ほぼ間違いないでしょうね。これから、脚の神経の伝達速度を測る検査(末梢神経伝導検査)を受けてもらいます。ストレッチャーに乗って行ってもらいましょうかね」
ギランバレー症候群は、末梢神経が損傷を受ける部位によって、「軸索(じくさく)型」と「髄鞘(ずいしょう)又は脱髄(だつずい)型」に分類される。「末梢神経伝導検査」で神経の伝達速度を測り、グラフ化した波形の幅や高さ(リンク先の画面を下にスクロールすると出てくるグラフを参照)を比較することにより、軸索型か髄鞘(脱髄)型かを調べるのだ。
ストレッチャーに乗せられて、検査室に着くと、検査技師と男性看護師の二人がかりで、僕を検査用のベッドに押し上げた。「電気を通すので、ピリッときますよ」と言われたのだが、症状の進行で、感覚が鈍っているのか、あまり感じなかった。結果をしつこく聞こうとする僕に対して、「解り次第、先生にお伝えしますから、聞いて下さい」と言うだけで、教えてはくれなかった。
僕は、自分の身体の事なのに、検査結果や病状の詳細など、なかなか思い通りに情報が得られないことに、強い苛立ちを覚えていた。カンピロバクターへの感染が分かり、ギランバレー症候群であることはほぼ確実になった訳だが、軸索型か髄鞘(脱髄)型かによって、重症化する可能性や予後に大きな差が出る。僕は、早くどちらの型なのか知りたかった。症状が進行する過程にある患者に細かく説明することで、かえって負担を掛けないようにとの配慮があったのかもしれない。でも、できるだけ早く、詳しい情報を知りたいと思う性格なので、体調の悪化と情報不足で、イライラがピークに達しようとしていた。しかし、長い長い一日は、まだまだ続くのだった。
以下、その⑦へ続く
では、また。