社員が在職中は、会社に労働契約上様々な義務を負います。その義務の中に競業避止義務があります。在職中であれば当然に果たさなければならないのですが、会社を辞めた後もこの義務を負う必要はあるのでしょうか。この点については、退職後はこの義務を当然には負いません。広範囲に認めてしまうと労働者の職業選択の自由や生存権に重大な脅威になるからです。

 

しかし会社にとって退職後の競業避止義務が認められないと非常に具合の悪いことがあります。例えば退職した労働者が、会社の営業秘密や特殊な技術を扱っていた場合です。会社の利益の源泉になるものを他社に持っていかれたりそれで商売されてしまうと、非常な脅威になり得ます。このため会社は労働者に対して、退職後も競業避止義務を負わせようとします。

 

こういう場合の会社と労働者との利害の調整、すなわちどこまでなら退職後の労働者に競業に関する制限をかけることができるかは、企業の利益(企業秘密の保護)、被用者の不利益(転職、再就職の不自由)、社会的利益(独占集中の恐れ、一般消費者の利害)の3つの視点から次の要素を検討します。

①就業制限の期間、②制限の場所的な範囲、③制限の対象となる職種の範囲、④代償の有無

 

現在、企業は雇用の流動化を前提として退職後の労働者に一定の制限を加えようとする動きがあります。それに対し雇用の流動化は、自由な転職による自己実現を可能とする等の良い側面もあります。そのためには「職業の自由」をできる限り保障する必要があります。

 

最近の判例では退職後の競業避止義務は「職業の自由」を重視して、制限の範囲が必要最小限に止まることや、代償措置を求めるなど厳しくなってきています。