前回のブログでは「片山組事件」を取り上げましたが、今回はその続きです。

 

「片山組事件」の超ざっくりした内容は、会社が労働者の復職希望を拒否してそれが裁判になって会社が負けた、というものでした。今回はもう一つの論点の話です。

 

まず片山組事件で何を争われたかを確認しておくと、訴えた労働者に労働義務の履行と賃金請求権があるのか、ということです。(急に難しい言葉が出てきて恐縮ですが、こんなのが続きますのでご容赦ください。)

 

労働者が会社から命令された業務について労務の提供をしている場合(債務の本旨に従った履行の提供、民法493条)、使用者がその労務の提供を受けることを拒んだときは、使用者の受領遅滞(民法413条の2第2項)となります。受領遅滞は債権者の帰責事由と見うるので危険負担の債権者主義(民法536条2項)が適用されて、使用者は賃金の支払いを拒絶できないことになります。

 

上記を分かりやすくすると、

①労働者は会社に「ちゃんと働けます」と言った(債務の本旨の従った履行の提供)。

②会社は労働者の言ったことを拒否した(受領遅滞)。

③裁判で、会社の判断は間違いとされた。会社の落ち度で働けないという危険が発生して、その責任(賃金の支払い)は会社が負担しなければならなくなった(危険負担の債権者主義)。

 

 

この問題は労働契約における危険負担の問題でもあったのです。裁判では、労働者が元の職種は無理にしても他の職種なら働けると申し出があれば、労務履行の提供があると認めました。そしてそれを会社が拒むと、受領遅滞として会社の責任として賃金請求権を認め、労働者を保護しました。