会社が労働条件を不利益に変更する場合、労働者の同意を得ることが必要です。同意を求める方法は口頭、書面、個別面談による説明など会社によって様々です。問題はその同意が労働者の自由な意思に基づかなければならないことです。

 

変更就業規則への同意について争われた裁判で「山梨県民信用組合事件」があります。この事件は、経営破綻を避けるためにある信用組合が別の信用組合に吸収合併される際に、退職金の支給基準を大幅に引き下げる退職金規程の変更がなされました。このことについて会社は説明会を開き、消滅する信用組合の職員であった原告らからの同意書も得ていました。ところが原告らが退職する際に支給された退職金は著しく低いもの(控除された後は0円になった)になりました。これを不服とした原告らは旧規程による退職金支払いを請求するための裁判を起こしました。第1審、第2審は原告らは一応の説明を受け同意書も提出しているとのことで負けたのですが、最高裁ではひっくり返り原告らの請求を認め事件を高裁に差戻しました。

 

最高裁で逆転した大きな理由は変更後の退職金に関して、退職金が0円になる場合があるなど、具体的な不利益の内容や程度を十分に説明されていなかった点があげられます。会社にはこういった具体的な不利益まで十分な説明を行い労働者に理解させた上で、同意が自由な意思に基づいていると認められるだけの合理的な理由が客観的に必要だと最高裁は判断しました。このことから会社側の説明責任が非常に重いことが分かります。

 

尤も自由な意思に基づいているかの判断は難しいと思います。労働者に決断を迫らなければいけない場面が出てきたとき、会社側で選択肢を用意しておくのも一つの手でしょう。