就業規則をせっかく作ったのに周知しない経営者が結構います。「大切なものですからちゃんと金庫にしまっています」という人がいますが、とんでもないことです。「就業規則を見せたら勘違いした奴が馬鹿なことを言ってくるかもしれない」という人もいます。そうなった場合は話し合いになるのですが(馬鹿なことを言ってくるのは会社と喧嘩をするつもりである場合が多いです)、そもそも周知していないと就業規則が無いのと同じなのです。

 

周知されていない就業規則の法的効力での有名判例で「フジ興産事件」があります。この事件は懲戒解雇された労働者が懲戒解雇無効と雇用契約上の従業員たる地位確認を求めたものです。従業員が勤めていた事業所に就業規則が備え付けられていなかったため、会社が負けたのですが、この事件から周知がいかに重要かが分かります。

 

この判例でなぜ周知が必要なのかは①懲戒処分と②就業規則の法的性質論の二つから考えることができます。

①懲戒処分する場合は、就業規則に合理的な懲戒事由の定めがあること、就業規則は周知されていること及び懲戒事由該当行為の存在が必要とされます。刑法の罪刑法定主義の同様の考え方をするので「懲戒規定の事前開示(周知)」が求められます。

②就業規則の法的性質は、様々な学説があるなか、裁判所は約款説に立っています。約款説は約款内容の「事前の開示」と「内容の合理性」を根拠とします。そのため「就業規則の事前の開示(周知)」が求められるという帰結になります。

 

ここでいう「周知」とは、その事業場で働く労働者が、現に就業規則の内容を知っているか、いつでも知りうる状態にしておくことです。例えば労働者なら誰でも出入りできる場所に備え付けているだけでも周知したことにはなります。ただ裁判など争いになった場合、周知の立証責任は会社側にあります。立証できずに会社側敗訴ということもあります。そうならないためにも労働者に就業規則を配って受領書をもらう、朝礼などで就業規則のある場所を言っておいて、その後朝礼の内容をまとめた文書に労働者から印鑑をもらうなどの工夫は必要でしょう。