ある非違行為で懲戒処分を行った。後になって別の非違行為が分かり、それを先に行った懲戒処分に追加できるか、という問題が発生する場合があります。
結論から言えば「できない」が答えです。懲戒処分は労働者に重大な不利益処分を科すので、それを行うには手続きが適正か厳しくチェックされます。その判断基準の中に「懲戒理由追加の禁止」があり、これに抵触することになります。懲戒処分はそれを行ったときに処分理由として認識していた事実を基礎に判断せねばなりません。
処分理由の追加で争われた有名な裁判で「山口観光事件」があります。懲戒解雇についての裁判です。内容は以下の通りです。
①Y社は同社で働いていたXに対し、突然の休暇申請等で懲戒解雇を言い渡した。
②これに対しXは原職復帰を求めて地位保全の仮処分を申し立てた。
③Y社はこれに対し、本件の懲戒解雇(解雇①)に加え、Xの「経歴詐称」の事実を新たに処分理由として持ち出して、これによる懲戒解雇も主張した(解雇②)
④第1審、第2審とも解雇①は無効、解雇②は有効とされた。そして解雇②の意思表示が行われた時点までの賃金は支払わなければなないとされた。
⑤Y社はあくまで解雇①が有効であると拘り、その理由として解雇①後に判明した経歴詐称を解雇①の処分理由として追加できるはずだと主張し上告した。
判決はこれまで説明した通り、先に行った懲戒解雇の理由に、後から分かった非違行為を理由に追加することはできない、というものでした。解雇①はXの休暇請求等を理由としたもので、その当時経歴詐称までは認識していなかったのであるから、経歴詐称の事実をもって解雇①の有効性を根拠づけることはできないとされました。