一般社会では法律ではないけれど、集団特有のルールが存在するものです。それは地域であったり、少人数のグループであったり。特に古くから受け継がれてきたルールのことを習わしとか慣習と言ったりします。法律にも慣習法とか事実たる慣習というものが書かれており、一定条件を満たせば法律と同等の力を持つことがあります。

 

職場においても慣習というものは存在します。労使慣行と言われるものです。それが就業規則などでは定めきれないところを補完する作用で働いてくれれば良いのですが、問題になるのは就業規則と反していたり、就業規則では認めていない有利な慣習(例えば手当など)がある場合です。実際に労使慣行をめぐる裁判もあります。

 

法的効力のある労使慣行が認められる要件は3つあって(労使慣行の3要件と言います)、それは以下の通りです。

①同種の行為または事実が一定要件の範囲において長期間反復継続して行われていたこと

②労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないこと

③当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていること

 

労使慣行が争われた裁判で有名なのは商大八戸ノ里ドライビングスクール事件です。簡単に概要を説明すれば、就業規則や労使協定書に書いてある定めとは異なる休日出勤手当が支払われていたのを、新任の勤労部長が根拠のない手当を支払うのはおかしいとのことで支給を廃止した。これに対して労使慣行が有効だとして従業員が訴えた、という事件です。

 

結果は、会社側の勝ちで労使慣行は認められませんでした。判決で就業規則などの成文で明記されている取り扱いに反する労使慣行については、原則として書面による規定が優先すること、そして成文のルールと異なる労使慣行が有効とされるには、労使慣行の3要件の③労使双方の規範意識に支えられるていることが必要であり、かつ労使双方の「強い規範意識」が必要なことも示されました。

 

就業規則と異なる独自ルールをしている会社は要注意です。それが就業規則の労働条件を上回る場合に、就業規則並みに戻そうとしてトラブルになる可能性は十分あります。今一度、独自ルール(労使慣行)がどうなっているかを調べておいても良いのではないでしょうか。