今回は長期の有給休暇を請求された場合のお話です。有給休暇は原則時季指定をすれば利用できるものです。海外旅行のためでも全然かまいません。海外旅行ともなるとある程度まとまった期間を請求することになると思います。その反面、会社にすれば長期不在になれば、代わりの人の配置や業務の引継ぎをどうするか等の調整をしなければなりません。少々の無茶を言われても、有給休暇は請求された時季に与えなければなりませんからね。しかし調整しきれない場合だって当然出て来ます。こういう時に会社は労働者に対し、別の時季に取るようにと、時季変更権は行使できるのでしょうか。長期の有給休暇の取得に対して時季変更権を行使したことによる有名な裁判として時事通信社事件(最高裁平成4年6月23日判決)があります。

 

1,判例 

 科学技術庁記者クラブに所属する通信社の記者Xが、欧州の原子力問題の取材のために約1ヶ月間の連続する年次有給休暇を請求しました。Y通信社は、科学技術庁記者クラブの担当者は本人1人だけで1ヶ月も不在になると業務に支障があることや、代替勤務できる者の確保が困難なことを挙げて、2週間ずつ2回に分けて欲しいと回答し、後半の2週間は時季変更権を行使しました。しかし、Xはこれを無視して渡欧しました。そのため、Y通信社は業務命令に違反したことを理由にして譴責処分を行って、賞与を減額して支給しました。そこで、Xは譴責処分の無効と減額された賞与の支払いを求めて提訴しました。

 

2,判決

 判決は以下のように述べて、Xの請求を認めた原判決を破棄して、事件を原審に差し戻しました。

①長期休暇になれば、会社の事業の正常な運営に支障が生じる可能性が高くなる。労働者が業務計画や他の従業員の休暇予定などとの事前調整をすることなく時季指定すると、その期間についてどの程度の修正・変更を行うかに関し、使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ない。

②使用者の裁量的判断は労基法第39条が労働者に年次有給休暇の権利を保障している趣旨に照らして、合理的なものでなければならない。

③Xが専門記者で代替要員の長期の確保が困難だったこと、Xが長期休暇を取るにあたってY通信社との十分な調整を経ないで時季指定を行ったことからすると、Y通信社の時季変更権の行使は違法ではない。

 

3,考察

 長期休暇になれば、代替要員の確保が困難になったり、会社に不測の事態が起こったときに、その人の不在のせいで対応できなかったりというケースが出てくることは容易に考えられます。そのため、労働者には事前の調整が必要ですし、それでも調整しきれない場合は、取得時季を分けてもらうことは判例上も支持される対応です。本判決は使用者に一定の条件の下で時季変更権行使に対する裁量的判断を認めたものです。もちろん、会社は労働者の請求通りに休暇を与えるようにできるだけ配慮しなければなりません。ただ、唐突に請求されると会社側は困惑します。そのために長期休暇請求に対して、就業規則で長期の有給休暇を取得する場合は、ある程度前もって会社に届け出て、事前に調整しなければならないという旨の規定を入れておくのも一つの対策です。

 

 有給休暇の取得は結構な事ですが、取得した人の代わりに誰かがその分の仕事をしなければならなくなるのも事実です。私もそうでしたが、有給休暇で休んでいたとしても、会社で何か起きていないかが不安で気が休まらなかった経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか。会社も事前調整が不十分な状態で休まれると、業務に支障が出て休暇中の労働者に連絡して対応してもらわないといけなくなることだってあり得ます。労働者が有給休暇を取得しても、休んでいる間、会社の業務がスムーズに行えるように事前調整を当たり前にするように教育しておくことも重要です。それがきちんと行われれば、労使双方にとっても快適な職場環境を作ることができるでしょう。