部屋の隅にそれはある。
引越を重ねても、それは捨てられずについてきた。
けれど、それが登場する機会はもうない。
たとえ俺が望んでも、
もう「できない」のだ。
あれほど好きだったけれど
もう好きじゃない。
思い出に提供できるほどの「空間」もない。
だから
捨てようと思う。
それはどこかへ運ばれ
どこかで灰になるのか
どこかで土へと還るのか
この手を離れた後のことは知らない。
思い出に提供できるほどの「領域」は
心の中にもない。
だから
わずかな思い出も、次の日には消え失せ
もう思い出すこともないだろう。
そうやっていくつもの
消滅を見送ってきた。
人にしろ、モノにしろ。
いいとか悪いとかじゃなく
そうやって俺は生きている。
たぶん、誰だって。
けど、それを手放すと決めた時、
少しだけ悲しんであげる。
たとえ、もう好きでなくても。