原作: 江戸川乱歩
キャスト: 崎山つばさ(白髪の蓑浦)/藤森陽太(蓑浦)/鯨井康介(諸戸)他
公演: 2015年
鯨井康介さんの鬼気迫る演技に釘付けだった!
こんだけ感情が画面越しに伝わるのだから、実際客席でそれを目にしたらヤバいな、深沼に垂直落下だな……と思った。
医師・諸戸に愛されている青年・箕浦。
受け入れずとも思わせ振りな箕浦は、恋人や友人の謎の死を切っ掛けに、諸戸の故郷である孤島に一緒に渡る。
そこで起こる更なる事件、そして諸戸の忌まわしい家系の秘密が明かされる。
ザッとこういう感じのお話。
場面展開が多いのだが、全てを研究室のワンセットだけでやっているとっても攻めた舞台。
そしてこれが成功している。
衣装の統一もいい。
全員トーンを合わせた服におどろしい血糊を必ずどこかにくっつけている。
それにしても…これは原作以上に狂気合戦かも知れない。
自分がかわいい箕浦。
恋の奴隷諸戸。
鬼と化した男。
鬼の犠牲者秀ちゃんと吉ちゃん。
真実探求に取り憑かれた探偵。
誰が最もイッちゃってるか競ってんのか?ってくらい。
原作で私は主人公である箕浦に好感が持てず、彼を一途に愛するも報われなかった諸戸寄りで読んでいた。
この舞台映像でもそれは一切変わらなかった。
鯨井さんの切ない表情が完全に諸戸道雄だったから。
叶わずとも止められない想いを抱え続ける強さ。
想うだけは許して欲しいと訴えながら、激情を抑えられなくなり爆発させた弱さ。
諸戸は人間くさい。
最後まで箕浦の鬼畜な甘えを拒絶できなかったところも。
やはり箕浦は諸戸の愛をこれっぽっちも理解していず、諸戸はそれでも箕浦を突き放せないのが顕著な場面はここだと思う。
秀ちゃんと吉ちゃんを手術で切り離す事が可能だと知った箕浦が諸戸にそれを問う。
「君さっき秀ちゃんと吉ちゃんを分離するのはわけない事だといったよね!?」
「……ああ…いったよ…」
目を二度閉じたあと箕浦に微笑みながらそっと小さく告げる諸戸。
ここ…無邪気に残酷な問いをする箕浦が怖いって思った。
そして、それでも箕浦を求めずにいられない地獄にはまり込んでる諸戸が哀しい。
愛されずとも箕浦の声が聞けて姿を見れている瞬間瞬間に喜びを噛みしめている。
他の人の名を発する唇であろうと愛おしくて狂おしい、そんな表情だった。
鯨井さんは何度も言うけど完全なる諸戸だった。
最後、病死間際に箕浦の名を呼び続けていた諸戸の事を手紙で知った彼の叫びがあるのだけど、この演出に心が二分した。
「諸戸が自分を愛している事をたった今知ったかのような慟哭はあり得ない、ウソくさいでしょ?」という気持ちと、「箕浦はあれだけ拒絶していたにも関わらず、その実諸戸を決して離すまいと無意識に執着していたのだからこれでいい」という気持ち。
正解は出ない。
ああそうだ、これだけは忘れず書いておこう。
鯨井さんの斜めからの立ち姿って恐ろしく美しいと思った事。
後ろ姿も品がある。
美形な役者なんて他にいっぱいいるけれど必ずしも立ち姿がいいとは限らないもの………鯨井さんは絶妙にいい。