失踪  高村薫 | 世界の隅っこで読書するパンダ

世界の隅っこで読書するパンダ

小説・漫画の雑食系読書感想ブログです。
(一般・ミステリー・ホラー・耽美・BL・・・その他何でも)
ネタバレ時は「※注意!」を入れてます。
妄想体質ゆえ、あらぬことを口走ってます。。。

 

 

◆あらすじ殺人を犯したと警察に電話してきた男が、その足で自殺をした。合田雄一郎が所属する七係は、男が殺したという人物を捜索する。そんな中、七係の色男 有沢三郎が単独行動に出る。そのわけとは・・・?1993年に小説現代に連載され、単行本化されていない『警視庁捜査一課第三強行犯捜査第七係』の第三話。

 

挿画: 北村公司

 

おすすめ: ★★★

 

前話の感想: こちら

 

 

 

 

昔の雑誌を図書館でコピーし、ちびちび読んでる『七係シリーズ』の第三話レビューです

読み切っちゃうのが勿体無くてホントちびちび。

 

 

前作はチラとしか出てこなかった又三郎。

この第三話は彼が主役といってもいいくらい。

又三郎ファンにはたまらんわー。

最の高っっ!

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

七係の中でも明るく声でかく、元気者なイメージの有沢三郎

いつも現場に颯爽と現れるもんで、ついた渾名が(風の)又三郎

三十五歳の二枚目デカ。

でも意外としっかり家庭持ち。

地味で控えめな嫁持ち。

 

 

そんな又三郎の過去が垣間見えた本作。

事件そのものは「ヤクザ絡みの殺人事件」という、単純に表現できるものでした。

犯人の一人が電話で自首したものの自殺。

なのでなかなか主犯格と遺体に到らずでしたが、又三郎の掟破り行動、そして彼の為一丸となった七係によって早期解決でした(連帯責任なんで各々の保身の為もある)。

 

 

とにかく何がよかったって、又三郎のセリフがむっちゃカッコよかった!

高村さんの「命張った男の言葉」はどうしてこんなにカッコイイのか。

このお話書籍化されてないし、私このペラッペラのコピー用紙を失くしてしまうかも知れない。

なので自分の為、そしていつか漂着するかも知れない同志の為に記しておきたい~~~!

 

 

 

注意引用あり↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆暴力団だろうが左翼だろうが平気で口をきき、リスクに見合う情報網を築いてきた又三郎。

口八丁手八丁、男気と愛嬌があるせいで他人の懐に入るのが上手い男。

でもそれは「虚勢・反抗・屈折の複雑な所産」とあるんですよね。

高村さんは明るいだけの男は書かない。

だから又三郎といえども心奥は複雑怪奇なのであ~る。

 

 

 

◆この事件、又三郎の旧知のヤクザが関わっていました。

なんと又三郎はそのヤクザ・秦野の女を一日で落として秦野の関与を吐かせちゃった(キャーーーアセアセどう口説き、どう押し倒したの?教えて!高村さん!!)。

でもそれって「ス巻きで東京湾」レベルの自殺行為!!

合田さんはそんな又三郎に打ちのめされるの。

自分にも情念はあるものの、又三郎のような発露の仕方は真似できない、と。

嫉妬を覚えるの。

本作、合田さんの又三郎に対する「嫉妬と羨望」が色濃かった。

こういうアナタも好きです 合田雄一郎ラブラブ

 

 

 

又三郎を衝き動かしていたのは「怒り」でした。

ウィスキー三杯をストレートで呷り、命賭す覚悟で秦野のベンツの助手席に乗り込んだ又三郎。

 

 

・「少なくとも俺は恥じる心がある。人殺しと兄弟の杯交わしたのかと思うと眠れん。同郷の恥だ。俺もあんたも」

 

・「心中しようぜ。兄弟だろ?」

 

・「要するに、人ひとりを殺したら、取返しがつかねえってことよ。あんたは改心する見込みはねえし、ひとりで罪を償う勇気もねえだろ。だから一緒に死んでやると言ってるんだ。さあ、行こう」

 

・母さん、ごめん!

(これは「」なし)

 

 

又三郎と秦野は、地元である川崎で一緒にやんちゃしてた間柄だったんですね。

女ナンパして遊び歩いて。

一方はそのまんま腐れた道を行き、もう一方はどういうわけか刑事になった。

でも二人の付き合いは途切れていたんじゃないかな?と思う。

「警視庁の刑事と青竜会の幹部」という立場な時点で再会したのかもな。

それにしても、兄弟の杯交わしたうんぬんには妄想膨らみます。

お互い道は間逆ですが、男として認め合ってなければこれはないもんね。

 

 

初期の高村作品ってやっぱ独特。

何かが燻ってると思ったら、突如異様に熱が沸いてグワッと噴出するんだもんなー。

又三郎のこの「心中しようぜ。兄弟だろ」にはほんと驚いた。

そんなキャラだっけ?

でも何でもいい、飄々と世渡りしてる男にこんな熱さがあったら惚れるし!

現に秦野の女も又三郎のそこに落ちたんだろうし!

 

 

首都高を走る車内で本当に心中に踏み切った時の母さん、ごめん!もたまらんです。

彼の家庭環境がどんなだったかはわかんないけど、母親の愛を受けていたからこその言葉ですもの。

そう思うと、秦野の環境が劣悪だったろう事が想像に難くない・・・。

 

 

一つ考えちゃう事。

命を投げ出す覚悟を決めた又三郎は、嫁に何も言葉を残さずだったかどうか。

うーん、いつも通り家を出た気がするなぁ。

嫁は同郷の女性とな。

又三郎の仕事が朝出てった姿で帰って来るとは限らないって事を受け入れてそう。

軽く見えても、そういう覚悟のある女を選ぶ男な気がしますねぇ。

 

 

 

◆又三郎と秦野のような「幼馴染」「三角関係」といえば・・・。

『リヴィエラを撃て』のシンクレアとダーラム侯。

それから『照柿』の合田さんと野田達夫。

合田さんと義兄も三角か。

 

 

高村さんの書くこういう関係ってものすごーーーく絡まってる。

ギチギチの組み紐なんだけど、所々ほつれてて、ピュッと愛が出てたり憎悪が出てたり。

なんつうか、何よりツボです。

ああ~~~、又三郎と秦野の話も過去を詳らかにして、事件ももうちょい複雑にして長編で読みたかったあ!!!

 

 

 

◆あーそうそう、合田さん達完全に職務を逸脱してましたね。

雪之丞が病院の受付でヤクザを演じてる隙に、合田さんとお蘭がストッキング被って被疑者の病室に押し入ってゲロさすっつータラー

ペコさんも他の被疑者に電話で青竜会騙っておびき出すし。

 

 

全員が逆上していた。普段ならやらないことをした。それなりの自制、あるいは保身のための防御は働いていたにしても、朝にはせせら笑っていた事柄について、夜はこんなふうになる自分たちの短絡にほとんど気付くこともなく、普段はてんでばらばらの仲間が突然一枚岩になる不気味さにも気付かず、皆がほとんど無意識に走ったのだった。

 

 

ここ・・・・・好き。

七係、特段仲よしこよしじゃないのに。

ツンツンツンデレなんだからも~~~ハート

 

 

 

◆最後まで、合田さんと又三郎の間には僅かなわだかまりがありました。

それでも又三郎はチラと「俺はな・・・・・自分が情けねえのよ」なーんて弱音を合田さんに吐くし。

合田さんは合田さんで又三郎の退院祝いをパーッとやってやろうなんて内心思うし。

いい終わり。。。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

第四話レビューにつづく。

(超不定期)

 

 

 


にほんブログ村