「帰ってこない父」
その衝撃から何時間経ったでしょうか。暗くなり、
庭に出てみると、縁側のすぐ下まで、水が流れて
いまず。縁の下から、幼稚園で使った、ゴムボール
など、いろんな物が出てきています。
「これは何だ!」
驚き、周りを調べてみますと、家の裏側、屋根の高さ
まである、畑の石垣が崩れ、我が家の壁を覆って
います。そのため、雨が行き場を失い、溢れてしまっ
ているのです。
すぐ、父に帰って来てもらおうと勤務先に電話を
かけると、
「ちょっと前に出た」
との答えでした。台風のため、いつもより、何時間も
早い退勤ではあったのです。
夜、激しい雨の中、
「消防団が来ました!」の声と共に、
消防団の皆さんが、この石垣の崩れによる浸水を
見てくれました。
その後も、父はまだ、帰ってきません。
当日は、テレビのプロレス中継がありましたので、
いつも楽しく見ていた父のこと、
「プロレスを見ているのだろう」
と、家族で呑気なことをいっていました。
まさか、その時、そこで、そんなことが起こって
いるとは、つゆ知らず・・・。
父は、その日は帰ってきませんでした。僕と
弟は、そのまま床につきました。
母は、起きていたのかもしれません。