62.宿縁

「いい加減にせいっ！お前たちは、既に二人だけで婚儀は済ませたのであろう？！ウロウロするでない！うっとしい！」

「ふぉふぉふぉ、意外と肝っ玉の小さき男よのぉ…わしのように５回も婚儀をすればだなぁ…」

「うるさい！侍医は黙っておれ！」

皆はすでに、準備を整え宣仁殿でウンスが来るのを待っていた。チェ・ヨンは落ち着かずに、先ほどからうろうろと宣仁殿を歩き回っていたのだ。

王に王妃、チェ・尚宮…重臣たちも集まってくれていた。

「チェ・尚宮よ…仕方のないことであろう。チェ・ヨンも人間であったのだと思えるわ！」

「陛下！何を…」

その時…ウンスが女官に手を引かれゆっくりと歩いてくるのが目に入る。チェ・ヨンは息をするのも忘れ…ウンスに目を奪われてしまった…

「王妃様…叔母様…こんなに素敵な婚礼衣装をありがとうございます…本当に嬉しいです…あっ…あなた…どう？おかしくない？鏡が良く見えなくて…」

「げほっ！はぁ…とても綺麗です。これを」

チェ・ヨンはウンスの髪に、ピニョを差す。

「ありがとう…チェ・ヨン…」

「う、うん…では皆揃ったようなので普済寺へ参ろう…」

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普済寺の僧侶を先頭に王様と王妃様、その後ろを二人は歩く…

澄み渡る秋空の下…広い宣仁殿の庭に出ると、両側には迂達赤の証である麒麟の模様が入った鎧を身につけた隊員達が、威儀を正して堵列している。この、絵巻の中に入り込んでしまったかのような荘厳な光景を、いつまでも忘れることはないだろうとウンスは思った…

中には隊長であるチュンソク、そしてテマン、トクマンなどの顔も見られた。皆、目が合うと嬉しそうに微笑み頭を下げる。禁軍もまた陛下を守るべく居並んでいる。もちろんアン・ジェがその先頭にたつ。

二人は籠に乗せられ、王の後に続き普済寺までのほんの僅かな距離を迂達赤に守られながらゆっくりと進んでいくのだが…大門を一歩出るとそこには…

今日の婚儀を知った町民達が、一目見ようと大勢集まっていたのである！その中にはマンボ兄弟、スリバンの顔もあった。

「ヨンよ！おめでとう！なんだい、そのでれっとした顔は！あんたそんなんで、医仙が守れるのかい？」

「ああ、うるさいな！当たり前だ！何があっても守ってみせる」

「医仙よ、綺麗だよ…おめでとう。ヨンの事を頼んだよ」

「ええ、マンボさん…ありがとう」

人で溢れかえったその道を、迂達赤が道を作りながらゆっくりと進む。ふと見ると、チュンソクが二人のもとへやってきた。

「チュンソク！お前はなにをやっている！お前には皇宮の守りを頼んだではないか！なぜ一緒におるのだ？」

「お二人の婚儀に私が出ないなどありえません！陛下にお願いして配置を変更致しました！それに陛下がわざわざ禁軍ではなく迂達赤を主な護衛になさったのです…さすれば、我らも護衛と称し式に出ることが出来ますから…大護軍、医仙様…此度は誠におめでとうござい…」

「あ～もう！泣くな！わかった。しかと陛下を守れよ！何かあってからでは遅いのだ！良いな？」

「はっ！」

寺までの間…チェ・ヨンはずっと隣にいるウンスから目が離せなかった…時折ウンスと目が合うと、恥ずかしそうに下を向いてしまう。

普済寺へ着くと、厳かに婚礼の儀が執り行われる…合排禮では、盃に酒を満たしそれを新郎新婦が交互にそれを2回ずつ飲むのだが、普通新婦は飲む仕草をするだけなのだ。しかし、もちろんウンスはしっかりと味わい、もっと欲しそうな顔をしてチェ・ヨンに睨まれていた。

その後、二人は向かい合い礼をする…見つめ合う二人の想いは同じだった。あの時の言葉が蘇ってくる…永遠に愛することを誓うと…

「ほれ！いつまでそのままでおるつもりじゃ！後で飽きるほど見れば良かろう！早く皆に礼をせんか！」

「あっはい、叔母様…ごめんなさい…つい…ふふ」

「う、うんわかっておる！」

二人は皆の方へ数回礼をし、婚儀は結びを迎えた…ウンスの最後の深く長い礼は…ここには居ない二人の両親へ涙と共におくったものだった…

昔から私の結婚式を楽しみにしてくれていた二人…私の友人達がどんどん先に結婚していく中で、焦らなくて良いから…心から信じ、愛することの出来る人を探しなさいと言ってくれていた二人…花嫁姿、見せてあげられなくて本当にごめんなさい…でも、見つけたわ…命に代えても守りたいと思えるほど愛する人を…今日…正式にその人の妻になりました…私は幸せよ。二人とも…育ててくれてありがとう…チェ・ヨンのお父様、お母様…何も出来ない不束者ですが…彼を愛する気持ちだけはお二人にも負けないつもりです。見守っていて下さい…どうぞ宜しくお願い致します…

下げた頭からぽとんと落ちた雫に気付いたチェ・ヨンは、ウンスの手を握り締め自分に引き寄せた…

「これにて婚儀はお開きとする！何かもの申したい者はおるか？おらぬようだな…今、この場より二人はめでたく夫婦となった！おめでとう…二人とも。二人に何か祝いの品をと考えておったのだが…今の二人の絵を描こうと思うのだが…どうであるか？」

「王様！本当ですか？嬉しいです！それなら皆一緒にお願いしても良いですか？」

「花嫁の意見に従おう…ではドチや、準備を」

＊＊＊＊＊＊＊

「もう！チェ・ヨン…前を向いてったら…チュンソクさんも泣かないで！王様がちゃんと描けないわよ」

「ヨンア！陛下に失礼であるぞ！これから毎日嫌というほど見られるであろう！しゃんと前を向かぬか！」

「いてっ！わかっておる！」

「ふぉふぉふぉ、仕方ないのぉ、どれわしが医仙の隣にいこうかのぉ」

「侍医！お主は近寄るでない！指を切り落とすぞ！」

「何故じゃ？パク侍医はとても良い医員であるのに…」

「えっ？ふふ、さすがに王妃様達には猫被っているのね」