路地裏に隠れていたテマンとドユンを見つけると、ウンスは馬から下ろしてもらい急いでドユンの様態をチェックした。意識は戻ってきてはいるものの、かなり辛そうである…
顔は別人のように腫れ上がり、瞼も開かない…腹部に触れると硬く膨張間がある。ウッと苦しげな息が洩れる…経験上思い当たることがある。まさか…でもここじゃ…どうしよう…
そうしている間にも、ドユンはどんどんと青ざめてくる…
「チェ・ヨン!急いでドユン君を町の医院へ運んで!手術しないと危険かもしれない…ここで出来るかどうか…わからないけどやるしかないわ」
「イムジャ…テマン!聞いたとおりだ!急ぎお前はイムジャの道具を取って来い!馬を使え!それから迂達赤を何人か連れて来てくれ!ファジャは家の者に知らせてくるのだ!」
「はい!大護軍!」
「はいよ!」
チェ・ヨンは、周りでこそこそと今までの様子を覗いていた町人に、医院の場所を聞くと急いでドユンを抱き上げ医院に運び入れる。
「イムジャ…ドユンは…?」
「お腹の中の臓器が裂けてしまっているのだと思う…そこからどんどん出血して…お腹が膨らんでるでしょ?早くしないと出血多量で…でも輸血が出来ない。どうしよう…どうしたら良いの…」
「イムジャ!落ち着いて…大丈夫、俺が側におる。あなたに助けられぬ命なら、この者の寿命なのだ」
ドユンの命の重さを背負わねばならぬ…か細い両肩に、大きな手をぽんとのせ、少し屈み込むとウンスの不安げな眼差しを覗き込み、微笑で溶かしていく。
「ふぅ~…ありがとう…チェ・ヨン。そうね、落ち着かなくちゃ…テマン君が来る前に清潔な着物に着替えてと…あっ、あなたもね?あと火鉢と太目の鍼も!それから清潔な布がたくさん欲しいわ!お湯も沸かして!」
「すぐに!お主はここの医員か?聞こえたであろう!急ぎ準備せよ!金は払うので心配は無用だ!」
「あ、はいわかりました!ドユンを助けてやってください。母親の為にあのようなことを…本当は母親思いの良い子なのです」
「知っておる!一刻を争う!急いでくれ」
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待つほどもなくテマンが道具を持ち、迂達赤を3名伴って戻ってきた。
「テマン君、ありがとう…外で待っていてくれる?急いで麻酔をかけなくちゃ…」
麻酔にかかるまでの間、チェ・ヨンが迂達赤に指示を出す。
麻酔に落ちたドユンの腹を消毒し、慎重にメスを入れる。途端に中から血が噴出しウンスの顔にかかる。チェ・ヨンが顔にかかった血を布で拭ってくれる。
「ありがとう…やっぱり血の海ね…先生、その布でこの血を吸い取って!出血点を探さないと…チェ・ヨン、ここをもう少しフックで引いてくれる?」
初めてみる腹を切り裂く治療…いや腹の中すら初めて見たのだ…それでもこの医者は驚いてはいたものの、血を見ても腹の中を見ても卒倒することなく、気丈に手伝ってくれていた。ありがたい…
かなりの出血の量。床に血を吸い取った布の山が出来る…一刻も早く出血を止めなければいけない。見つからない…どこから出血が…お願い…焦りばかりが募る…
「あっ!あったわ!肝臓からの出血のようね」
火鉢に入れてあった鍼で肝臓の出血点を焼き、裂けている部分をを縫合する。
「チェ・ヨン、糸切ってくれる?」
「はい」
「縛ってカット、縛ってカット…」縫合する時の癖は昔から変わらない…インターンの時からである。これでオペは終わり…この人は絶対に助かると自分に暗示をかける魔法の言葉を口に出す…
「はぁ…出血はとりあえず止まったわ。あとはこの子の体力次第ね。では最後の縫合に入るわね。縛ってカット、縛ってカット…」
縫合を終え、チェ・ヨンに手伝ってもらいながら包帯を巻き終えたあと、ドユンの脈を診ると弱々しくではあるが一定のリズムを刻んでいる。ホッとして力の抜けたウンスをチェ・ヨンが慌てて掬い上げる。
「イムジャ!」
「あっ…ありがとう…ホッとしたら力が抜けちゃって…後は目を覚ましてくれたら良いんだけど…あの…チェ・ヨン?」




























