あなたの事以外は…。
あなたは、昔から私の事になると全く周りが見えなくなってしまうわ。
その事…気付いてる?
私を助けるために、何度も投獄されたり、玉璽を盗まされたり、迂達赤までも辞めようとしてくれたわよね…。無茶苦茶なあなた…。
この国を守る事よりも私と子供達を守る事を、いつも最優先してくれていた優しいあなた…。気付いていたわ。
それは、歳を重ねた今でも同じよね?
だからこそ、あなたが心配で仕方がないのよ…。
私の最後のお願いなの。私が居なくても、生きる屍にはならないで。
私はあなたに愛され、あなただけを愛した…。その幸せな気持ちをチェ・ヨン…あなたにどう言えば伝わるのかしら?
ねぇ、覚えてる?初めて逢った日のことを…
あの時からあなたの事が気になって仕方なかったのよ…。今まで言えなかったけど…。
私はね、あなたと出逢ってから後悔なんて一度もしたことないのよ。だってチェ・ヨンが、私だけを愛してくれている事は言われなくたってわかっていたから…。ふふ。 何十年、共に生きて来たと思ってるの?それだけで、どんなに心が安らぐか知ってる?
だからこそ、私が居なくなった後の、あなたの哀しみ、苦しむ姿が私には見えてしまうのよ…。でもね、私はあなたの笑った顔が好きだったわ。照れくさそうに微笑むあなたが…。だから泣かないで?
昔、同じ言葉を何度も私に言ってくれたでしょ?
私の心からのお願いよ…哀しまないで?私は今とても幸せなのだから…。
きっと私はチェ・ヨンの腕の中で、旅立つ事が出来ると信じているわ。最後まであなたが私を抱いていてくれるでしょ?そう思うだけで、こんなにも穏やかで幸福な気持ちになるの…こんな歳のお婆ちゃんなのに、まだあなたは私を愛しんでくれているんだものね…。
私が逝ってしまっても時折、イムジャと呼んでね?イムジャと呼んでくれたらいつでもあなたの側に行くわ…。あなたがいつも私を良い香りだと言ってくれた、その花の香と共にあなたの隣に寄り添うわ…。いつも、いつまでもね…。
もし生まれ変われるのなら、またあなたと出逢いあなたの妻になり共に生きると決めているの。あなたが嫌だと言ってもね…。
だからお願い。今は生きて。
今度は私が、あなたが天界へ来るまで何年でも待つから…。あなたが私を待っていてくれたように。
武士の誓いをしましょ?約束を破ったら許さないわよ。
生きて…。そして私をイムジャと呼んで…。
最後に…あなたになんて言えば良いのか、ずっとずっと考えて居たわ。
でも何度考えても“ありがとう”
その一言しか想い浮かばなかった。
チェ・ヨン…私を愛し慈しみ、守ってくれてありがとう…。幸せな時をありがとう…。いつも…いつまでもあなたと共に…
ウンス
母上の死の時以来、涙したことのない父上が、声をあげ嗚咽致しておりました…。
私とパダは少し安堵しております。やっと父上がその心の内を、少し垣間見せてくれましたから。
その二日後…父上が突然道場へやって参りました…。母上が、夢の中で父上を叱りつけ、足の脛を蹴飛ばして下さったそうですね…。ありがとうございました。父上は、まるで別人のように気力を取り戻しておりました。
やはり、鬼神と呼ばれた父上を、掌で転がせるのは母上しかおりませんね。
ですがもう、見ておる限り、父上もあまり長う生きておられるとも思えません。私達ではもうどうする事も出来ないのです。早く母上の元へ参る事が願いの父上でありますゆえ…。
父上と母上の愛情の深さを心に刻み、私とパダも生きて参ります。
母上…心安らかにお休みください…。
ハヌル
