牢の中だるそうにしているチェ・ヨンにアン・ソンオが話しかけてきた。
ー迂達赤チェ・ヨン。私をあまり恨まないで欲しいな。
ー自分の足で訪ねて来たのです。恨むものですか。
そんなことはどうでもいい。今のお俺には…
何も考えたくないのだ。話しかけるな!
ーそうか。はは。
そう言えば話してなかったな。国の禄を子孫に残す大切な3つの事。
チェ・ヨンは動くのも面倒だが、アン・ソンオを見た。
ーそれを教えにわざわざここへ?
ーまぁ悪いと思ってるしね。聞いて見るかね?
ーはぁ…拝聴します。
ーだいじなことは三つ。
ひとつ、力のある者を見極めろ。
ふたつ、必ずその者につけ。
みっつ、これが一番大事なのだが…
ーなんでしょう?
ー己の選んだ道を信じ抜け。
ーフンッ…子孫とはなんとも煩わしいものですね。私は要りません。
キ・チョルに連れられウンス達が歩いてきた。
ごめんなさい…もう少し待ってて。あなたを助けるから…殺させたりなんか絶対にしないわ。でも、こいつが私と話もしてくれないの。
イムジャ…やはりご無事なご様子だ。何もされておらぬようだ。キ・チョルの屋敷に連れて行かれるのであろう…もう俺を見てもくれぬと思ったが…
イムジャの香りが漂ってくる…お帰しするとの武士の約束…必ず果たさせて下さい。
お帰しするその時までお守りいたします…
ウンスとチェ・ヨンは会話でもするかのように、お互いから視線が離せなかった。
キ・チョルが二人の視界を遮った。
ーさあこちらへ
ウンスは再度チェ・ヨンの眼差しが見たくて振り返ったがチェ・ヨンは下を向いていた。
チェ・ヨンはウンスの視線を感じていた。俺を見てくれている…先程までの辛さが少し和らいだような気がする。
キ・チョルは、馬へウンスを乗せ手綱を持たせてやる。
ウンスの視線が外れたのを感じ、そっと視線を走らせる。馬に乗せられる様子をチェ・ヨンは淋しそうに見つめる。俺の役目なのに…と。一昨日ウンスを初めて馬に乗せようとしたときを思い出す…あれほど大変とは…フッ
柔らかく華奢な身体を抱え上げた…乗れた時は、子供のように笑っておられた。あんな風に笑う方はあの方しかおらぬであろう。こちらまでつい頬が緩んでしまうのだ。落ちたら受け止めますと言う、俺の言葉を信じて下さって…
俺は一緒に参れませぬゆえ、馬にはお気をつけて下さい。怪我などなさらぬよう…
一行は、チェ・ヨンの牢を先頭にゆっくりと歩みを進める。キ・チョルがウンスの様子を確かめる。
天人よ馬に乗れるようだ…馬車を用意させようと思ったが、馬で良いと言っていた訳だ。
ウンスはキ・チョルと早く話がしたくて仕方がなかった。
でも今はギャラリーが多すぎるわ…開京に着く前になんとか話をつけたいのに…
一方開京では…
王妃がチェ尚宮と宮殿内を歩いていると…
周りには迂達赤ではなく禁軍ばかり…
ーこれはなんと言うことじゃ?
ー禁軍が王を護衛しています。趣味の悪い軍服を着た者は徳成府院君の私兵たちです。私兵ごときが官軍を名乗り宮中を闊歩しています。実に嘆かわしいことです。
ー王様は今…監禁されているのか?
王様…だから私が医仙とチェ・ヨンを助けに行くと申したではありませんか…
何故あの時行かせてくれなかったのですか?
ーそう思われます。認めたくありませんが実情かと…
王妃は、先日襲われたことを思い出していた。
ーキ・チョルの屋敷へ向かった折、襲撃に遭うたが、あれもキ・チョルの手先か?
ー迂達赤はそう申しておりました。
ーキ・チョルには私の命も虫けら同然か…
ー王妃様?
ー虫けらにも劣る王妃ゆえ私が頼りないゆえに王様はお一人なのだ。
ーおやめください!
私から申し伝えましょうか?
王様のところに行かれると…
ー王様は…馬鹿じゃ…
ーはい?
ー王様はまこと大馬鹿じゃ!
だから、チェ・ヨンが必要だと申し上げたではないか…お一人で大丈夫であろうか…
くるっと踵を帰し自室へ向かった。
王様は部屋で絵をかかれていた。
何枚も何枚も書いては捨てていく…
心穏やかでないので、絵など描けようもない。イライラと部屋中を歩く。
思い立ったように部屋を出ようと扉を開けると、官軍、徳成府院君の私兵たちがいる。形ばかり頭を下げる。
キ・チョルの弟のキ・ウォンが何処からともなくやって来た。
ーお出になる際はお申し付け下さい。私たち護衛がお供いたします。
お前を出すなと兄者に言われておる。
籠の中の鳥なのだ!兄者を怒らせるお前が悪い…殺されないだけマシであろう…
扉は閉められてしまった。
王は情けなかった…
王とはなんなのであろう…この部屋に留まり絵を描くことが王たる者の仕事か?
政治は全てキ・チョルが手の中にある。
誰もおらぬ…余は一人なのだ…
名ばかりの王なのだ…余は…
チェ・ヨン…余はどうしたらよいのじゃ。
トギが馬糞を乗せた押し車を引き迂達赤の兵舎にやってきた。
テマンを中に入れるため気を引きに来たのだ。テマンは命の恩人…助けないわけには行かない。
トギが入り口の禁軍ともめている間に、テマンが柱を猿の様に駆け上がり屋根を伝い宿舎に入った。
トクマンが真っ先に気付き声を掛ける。
ーテマン!
周りのもの達も駆け寄って来る。
ー話しを聞かせてくれ!今、どうなってるんだ?
テマンは副隊長のチュンソクの所へ歩み寄る。
ーテマン、お前だけか?チュソクは?
テマンは相変わらず言葉が出にくい。
ー王様に会うと言って康安殿の方へ行きました。
チュンソクは厳しい顔になる。
ーあいつが王様に会うとは何のつもりだ?
ーた た 隊長が、その…お お 王様に…
あ~俺なんでちゃんと話せないんだよ!こんなに人がいっぱいでみんなが俺の話しを聞いている…みんなを隊長だと思えば…
トクマンに頭を小突かれ、しっかり話せと言われてしまった…
ー王様に伝言があるとか…
ー隊長は無事か?一緒じゃないのか?どう言うことだ?
トルベが心配のあまり、テマンの襟首を掴み…
ーもったいぶらず言えよ!
ーは 離して下さい。
王様は禁軍とキ・チョルの私兵に囲まれ何重にも警護され、入る隙間もないし、それに隊長は…
ー隊長がどうした?
トクマンが聞き返す。
ー隊長は捕またって噂が…
ーなんで隊長が捕まるんだ?
チュンソクは、俺の思った最悪の方向へ行ってしまったのかと、怒りを露わにテマンの襟首を掴む。
ー江華島で捕まり連行中らしいです…
ー誰がそんなこと言ってんだよ!
いつも穏やかな副隊長が怒ると怖い…とテマンは思った。
ーみんな、みんながそう言ってます。すごい騒ぎです。
俺が一番信じられないんです!隊長…捕まるなんて…
ーちくしょう!
ー隊長が捕まったら近衛隊はどうなりますか?
トクマンが誰にともなく聞く。本当に聞きたいことはそんなことじゃなかった。隊長はどうなってしまうんだろう…
ーあんな門蹴破って出ましょうよ!
ー門を蹴破って隊長を助けに行きましょう!!
ー名案だ!それが良い!
熱い二人…トルベとトクマンだ…
ー隊長を助けた後は?
ーこんな国さよならですよ。どうせ反逆者なって死ぬ位なら国境で一戦やりましょう!大盗賊になって!
チュンソクがトルベに蹴りを入れながら、ー馬鹿野郎!鎧も武器も持って行かれた。どう戦うんだよ!
俺だって出来るもんならそうしたい。俺は隊長からこの迂達赤を預かる身。冷静に判断しなければ…あの隊長が捕まるなんて、きっと何かお考えあっての事だ。
隊長が戻るまで迂達赤は俺が守る。
チュンソクの苦悩は続く…

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