暖かな風がそっと頬を撫でてゆく…
ウンスと出逢い、この方をお守りするため生きると決めた時から、凍てついた湖の夢は見なくなった…
風と共に、父上が私に向かって歩いてきた…
“ヨンや…起きなさい…ここに居ては守れぬであろう?”
“父上…何を守ると……?”
空から声が聞こえてきた…
ー守ってくれると言ったじゃない!
チェ・ヨンは辺りを見回すが父上しか居ない…
“ヨンよ。急ぎなさい…目を覚ますのです”
“この声はあの方……イムジャを守らねば…父上…”
チェ・ヨンは重い目を開けた。チュホンが先に回復したようで、鼻先で頬を突ついていた。辺りを見回すと、イムジャが居ない⁉︎
そして自分が木に縛り付けられて居ることにやっと気付いた…嗅いだ薬のせいなのか、身体がまだ痺れているようだ。
鉛のように重い…
イムジャを助けに行かなければ…
どこへ?誰が?
…わかっているではないか…
天門へキ・チョルの手下どもに連れて行かれたに違いないっ!黙家だろう…辺境の殺人集団…イムジャは恐らく無事だ。キ・チョルが殺すはずがない。
どの位意識を失って居たのであろうか…
遠くの空がうっすら明るくなりかけている。急がなければ…天門をイムジャにくぐらせてはならぬ。もし、どうしても行かねばならぬ状況であれば、自分も着いて参らねば…もう離れるなど…耐えきれぬ。
……自分でも気付かぬうちに涙が頬を一筋濡らしていた…ウンス…
後ろ手に縛られ、更に木に縛られて居る。
足の隠し刀で切ろうと思ったが手に届かない…気持ちばかり焦る。奴らは必ず殺す…イムジャに止められようとも…待っていろ!
怒りが抑えきれず、右手を木にかざし思い切り雷功を放つっ!!
物凄い音と光に包まれ、チェ・ヨンの縛られて居た木は、真っ二つに割れ、縄は切れた。
ーチュホン、頼む!
チェ・ヨンはチュホンに跨がり、全力で今来た道を戻った…
イムジャ、どうかご無事で…
必ず、イムジャの元へ参ります…待っていて下さい!
キ・チョル!今度こそ斬る!
