チュソクと共にやって来た狩人が
雨宿りして居た小屋から手を出し確認をする。
「雨が止んだみたいだ」
チュソクも外へ出て来た。
「キ・チョルの手下共は見かけないけど撤収したのか?それとも隊長の所へたどり着いたのか?」
チュソクは心配そうに顔を曇らせる。
あまりに誰にも会わなすぎるのが、却って不安を煽る。
「関所に向かったのです」当たり前だと言うように狩人が答えた。
「なぜだ?」
「江華島は官軍が捜索しています。
追われている者が探して居る逃げ道なんて決まってるし。逃げ道は関所のみ。私ならそうします。」
チュソクは狩人に背を向けて発とうとした。
「どこに行くのです?」
「隊長1人ならまだしも、連れが居たらあまり遠くへは行かなかった筈…」
「こっちです」
「なんでだ?」
「まだ温かい馬の糞です。隊長のことだし
こっちです。」
チュソクは、この者、中々侮れない…本当に何者だ?気をつけなければと密かに思った。
空が白々と開け始めるとチェ・ヨンが目を覚ました。ウンスの肩に寄り掛かりぐっすり眠ることができた。もう一度目をつむり気を整えてみる。雷功が身体を駆け巡り丹田の気は完全に回復しているようだ。この方のおかげだ。
ふと、自分の頭に違和感が…
思わず口の端が緩んだ。イムジャも俺に寄り掛かり眠ってしまって居るようだ。
全くこの方と来たら…眠っている振りをして少し頭を動かして見た。
ーう~~ん…何よぉ…あぁぁ~、もう朝?
はっ!?ヤバイ、眠ってしまった!?チェ・ヨンさんは?大丈夫、ぐっすり眠っているわ。バレてないわね。慶昌君は?
大丈夫みたい。はぁ良かった。守るだなんて言って何かあったら大変だったわ…
もう一度チェ・ヨンの顔をそっと覗き込んだ。今ならあの黒い目が閉じているからドキドキしないわ。
ー綺麗な顔…髪をそっと掻き分けた。長い睫毛に鼻筋の通った鼻。ぷっくりした唇…ウフフ現代ならモデルね。身長だって190CM近くあるわよね。教科書の絵なんて嘘っぱち。こんなイケメンじゃなかったわ。あ、まだ頬と首に血が付いてる。拭いてあげたいけど起きちゃうわよね?
ウンスはじーっとチェ・ヨンの顔に見惚れていたが、突然我慢出来ずにそっと触れるか触れないかの狭間で唇を指でなぞった。あの時なぜkissしたんだろ?
あれはkissだった。自分でも何故か分からない。あの時彼をこの世に引き戻せる事ができ、私は1人じゃない…この人が側に居てくれるとただただ嬉しくて自然とkissしてしまった。そうする事が当たり前のように…あ~!もうやめやめ…どうせ彼はその事を知らないんだし…
ーイムジャが俺を見ている…胸の鼓動が早くなる。音が聞こえてしまうのではないかと心配になる位だ。
ハッとする…俺の唇に触れた…?もう寝たふりも限界だ。イムジャは何を考えておられるのだろう。
チェ・ヨンがゴソゴソと動き出しパッと目を開けウンスを見た。
「おっ…おはよ
よく眠れた?」
よく眠れた?」ーヤバイ…目があってドキドキする。いつから起きてたのかしら?バレてないわよね?
「はい。ありがとうございました」
ーチェ・ヨンは思い切り動揺している自分を見せたくなかったので、冷静さを装い慶昌君様の様子を確認してからそそくさと外に出て、オケに入った水で血を洗い流した。やっと息を吸える…はぁぁ~……落ち着かなければ…100人の敵を相手にしてもこんなに焦ることはないのに…
イムジャが触れた唇以外を丁寧に洗った。まだ感触が残っている。
自分の臭いを嗅いでみたがやはり血の臭いがする。今迄そんなことを気にした事もなかったが…
空がすっかり明けた頃、小屋に戻ると慶昌君様も目を覚ました。イムジャの膝を枕にしている。耳がかなり痛いご様子だ。
『耳が痛いですか?』ウンスが耳を見ながら聞いた。
『ここが…ぅ』
慶昌君様はかなり辛そうだ。
『こういう事は前からですか?かなり頻繁に?』
『痛がってる方にどうして質問責めにするのですか?』
ーチェ・ヨンは心配で仕方ない。
『耳の腫瘍が神経を刺激してるの。だから痛いの。私のアスピリンまだ持ってる?』
『えっ!?』
『私が渡した薬よ』
あー!チェ・ヨンは隠しからアスピリンを出してウンスに渡した。
『アスピリンはそんなに強い鎮静剤ではないけれど、現代薬に耐性がないから効くはずよ。そう信じなきゃ。』
慶昌君様にアスピリンを飲ませた。
『少しだけ我慢して。すぐ効果があるはずですから』
『すぐってどれ位ですか?痛がってるじゃないですか?』
慶昌君様が心配で医仙を責めた口調になってしまう。
『薬だけですか?痛みが酷いじゃないですか?鍼とかやらないのですか?…』
『鍼は、専門外なの…』
ーごめんなさい…私は医師ではあるけれど、現代の薬や道具がなければ、ここでは知識だけある役立たずね…責められて当然よね。
『それだけですか?何かやって下さい!』
ちょっと切れ気味のチェ・ヨン…
さすがにウンスもムッとして…
『誘拐される時、薬剤室も持ってくるんだったわ。何よ!言ってくれれば鎮痛剤位持って来たのに!誘拐した奴が注文多過ぎなのよ!』
ー何も出来ない自分に頭に来て八つ当たりしちゃった…奴だなんて…
『はっ⁉︎奴⁉︎』
ー全くこの方と来たら本当に口が悪い。
奴などと生れてこのかた言われた事がない!!はぁ~
チンチャー
チンチャー
『私が辛い時のおまじないでね、〝ヤン・ヒウン″って人は、私の世界では歌謡界の女王様なんです。その人と同じ口調じゃないと効果無しなの。』
『ノーイルミモーニー?(あんた、何てぇ者?)』
ーここは、痛み以外に意識を向けさせなきゃ。明るく明るく。患者と同じ気分になっちゃだめよ、ウンス。私は今この子の痛みを取り除けなくても医師なんだから。
『ノー…イ…ルミモー…ニー…』
慶昌君様は辛そうな様子でそう言った。チェ・ヨンが呆れて居るのがわかる…
『こんなふうに、ノーイルミモーニー?』
『ノー…イルミモーニー…?』
『私を痛めつけて何様だい?』とウンス…
『私を…いた…めつけ…て、何様だい?』
『そう言って痛みをにらみつけるの。それからね…』
ウンスは両手を合わせて調子っぱずれの歌を歌った…
ーチェ・ヨンも慶昌君様も初めは驚きでウンスから目が離せなかったが、その音程の外れた歌に可笑しくて笑みがこぼれた…微笑むと言うより腹の底から可笑しかった。
二人とも、本当に久しぶりに笑った…
ここしばらく忘れていた感情であり、行為だった。声をあげて笑ってしまいそうだった。
慶昌君様も痛みを忘れ笑っていた。
ーやはりこの方は天の医員なのだと思った。慶昌君様の痛みを薬や鍼でなく、微笑みでお救いになられた。心を治したのであろう。そして俺まで…
楽しくて…可笑しくて…笑うた事など隊長とメヒの事があってからは、一度もなかった…
慶昌君様も本当にイムジャを信頼されておるようだ。お顔が幼く間見える…本来のお年に戻られたようだ。
ん!?何かの気配がする…
ーしっ…お二人に危険を知らせ立ち上がり気配の元を探しに行く。キ・チョルの手の者か?
チュソクと狩人が3人の居る小屋を見つけた。馬が居る。チュソクは念のため剣を抜き近づいた。木の陰から中を伺う…
と思ったら、狩人が隊長に後ろ手を取られ、呻いて居た。
『こいつ何者?』
『隊長~~
』チュソクは隊長に会えた喜びを隠しもしなかった…
』チュソクは隊長に会えた喜びを隠しもしなかった…
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